26.日常への回帰
アウロラは混乱していた。何せ、自らの祖たる偉大なるドラゴンにも勝るドラゴンが現れた。ならばその存在は自らの祖と同格と考えるべきだと考えた。
でも返ってきた答えは魔王軍の四天王の一角で、しかも魔王の乗騎である。
いやそこはせめて貴男が魔王と言いましょうよ、と思考が変な方向に飛びかけたアウロラだったが、頭をブンブンと振って声を張り上げる。
「ま、魔王軍ですって!? 貴男は古代の悪魔達の末裔なの!?」
「いや、違うよ。異世界の魔王軍なんだ」
「……は?」
「……あ、またやっちゃった。…黙っててくれるか?」
口を滑らせまくっている事が分かるファフニールは申し訳なさそうにアウロラを拝む。アウロラはもたらせられる情報の数々に、荒れ狂う大海に脳を投げ出されたように思考がまとまらない。
「ええと、ファフニールは私のご先祖様並かそれ以上のドラゴンで、魔王軍の四天王で、しかも異世界人…? ……どこまでが冗談?」
普通に考えれば自分の眼で見た最初の項目以外は冗談で片付けれる話である。だがファフニールの一連の行動はそれを冗談と思えなくしていた。
「いえ、失礼したました。ええと、ファフニール殿……」
「別に敬称は付けなくていい。今まで通りファフニールでいいよ」
「そうですか、ではファフニール…」
「敬語もいい」
「あう……、じゃあファフニール、貴男は異世界の魔王軍の四天王と言っていたけど……、この世界に何をしに来たの?」
ファフニールは掻い摘んで今までの状況を話す。アウロラはまだ半信半疑だったが、納得はした。
「そうだったの…。じゃあこの世界を征服したりとかするつもりは無いのね」
「無いな。そんな暇は無い。第一バアル様はかなりこの国を気に入っている。征服するよりそのままにしておく方が彼の望みに近いだろう」
ファフニールがバアルの名前を呼ぶときにチクリとアウロラの視線が鋭くなる。それに気づいたファフニールはそれを指摘する。
「どうした? 僕は何かまずい事を言ったかな」
「いや、貴男の様に強いドラゴンが他者を様付けで呼ぶのに抵抗があっただけ。私達の国では強い者こそが偉く、尊敬を集めるべきで、それ以外の弱者は遜るべきという考えがあるから」
「ふーん。だがバアル様は確かに僕より強いぞ。本気で戦った末負けたんだから間違いない」
「そんな! ファフニールより強いなんて、そんな……」
有り得ないと顔に出しつつ、それでもファフニールの当然という顔に語尾の勢いを落としてしまう。そのまましばらく黙っていたが、割り切ったのかアウロラは顔を上げる。
「分かりました、その件については気にしないようにします。ではセプロン市に戻りましょう」
「待て、こいつらを放っておくのか?」
ファフニールは背後の竜達を指差す。アウロラは今思い出したとばかりに眉を上げて目を見開く。
「ああ、そうでした。死んでいるのですし、ここは森の中ですから置いておいても人に見つかることは無いでしょう」
「いや、死んでないよ」
「えぇ!? だってあんなに頭を叩きつけたり、首を締めたら普通死にますよ!?」
「死んだら目的が何なのか、他にも仲間が居るのか分からなくなるじゃないか。だから手加減したんだよ」
どう見ても手加減したように見えなかったが、アウロラはじっと倒れている竜達を観察すると、確かに息はあるようだった。アウロラは自分の気がいかに動転していたのかを改て感じて恥じ入る。
「ありがとう、貴重な情報源を残していてくれて。私の近衛隊が来れば後の処理はしてくれるはずだから、私が急いで市内に戻って連れてくる。ファフニールは悪いけれど見張りをお願い」
ファフニールが了承すると、アウロラは走り出そうとする。
それを止めたのは、ファフニールの前にいきなり中空に現れた男の映像だった。
「こらぁ! ファフニール、いつまでほっつき歩いてんだ!! 飯が冷めるからさっさと帰って来い!!」
悪童を叱る父親のような台詞を吐いたその映像の男はマグナダインだった。
「ちょっと、マグナダイン、割り込まないで下さいよ。新作料理が出来たからって興奮し過ぎです」
そして映像が切り替わると、カルニウェアンの姿が浮かび上がる。
「ファフニールどこまで行ってるんですか。『位置探索』使ったら市外に出てるし、単独行動していい範囲超えてますよ」
カルニウェアンも困惑しつつ少々怒っているようだ。
「早く帰って来て下さい。バアルの意向で皆揃うまで御飯食べられないんですから……とっとと帰ってこないと貴男が密かに書いている昆虫観察日記燃やしますよ」
無表情で宣言するカルニウェアンの恫喝に顔を青くするファフニール。それを見てアウロラは映像のカルニウェアンとファフニールの間に立つ。
「待ちなさい、ファフニールへの脅迫は筋違いよ。彼は事件に巻き込まれただけだから」
「……誰です、貴女?」
突然割り込んできたアウロラに眉根を寄せるカルニウェアンだった。
……
事情説明が終わると、カルニウェアンは納得したようだった。
「ふむふむ、まあ事情は分かりました。それで警備隊が騒がしかったんですね」
「警備隊?」
疑問に思ったアウロラが言葉を挟むとカルニウェアンが説明し始める。
「街中で金髪で白いローブを着た女の人を探してる警備隊に頻繁に遭遇したんですよね。多分アウロラさんのお付きの近衛の人が市に要請したんじゃないですか?」
思ったより大事になっている状況に今度はアウロラの顔が青くなる。
「エリナリーゼぇ…、警備隊に頼む事無いでしょう…、自分で捜しなさいよ……」
「仮に誤ってでも街の者が貴女に危害を加えたら重大な外交問題にも発展しかねませんからねぇ、それを防ぐ為にも警備隊に連絡するのはしょうがないかと。近衛としての責任を果たせなかった事を負ってでも必要と判断したんでしょう」
暗にアウロラの無茶無理が原因であると諌めるカルニウェアンの言葉で、さすがにアウロラは反省した。
「そうね、私の我侭で迷惑をかけてしまった…。申し訳ないけど、誰か使いを出して、秘密裏に私の近衛を呼んでくれないかしら。お礼はするから」
「え、お金持ってたのかアウロラ…」
散々貢がされたファフニールは驚いて思わず呻く。アウロラは羞恥で顔を赤くしながらファフニールを睨む。
「この国のお金は持ってないわよ。でも金銀の塊とか装飾品はあるの! 露店で出したら物凄く変な顔されたし注目集めたから使えなかっただけで…」
恥ずかしい過去を思い出したのか、アウロラは俯いて押し黙る。
カルニウェアンは溜息を吐きつつ承った。
「分かりました。バアルも良いと言ってるのでこちらから連絡を取ってみますよ。後、ファフニール。そのドラゴン達が使っていたという魔印を使ってそのドラゴン達を封じて置いて下さい。じゃあまた後で」
そう言ってカルニウェアンは映像を切った。切る直前に、魔力補給~♪と言いながら椀を取る姿が見えたファフニールは、長くなりそうだなーと漠然とした不安を感じた。
……
「姫様ああああ!! ご無事ですか!?」
一時間後、ファフニールとアウロラは、カルニウェアンの転移魔術によってやって来たバアル達と近衛隊を迎えた。狼狽してアウロラの元に走り込んできたのは、ファフニールと同じくらいの背丈の茶髪の女性だった。髪は一つに編んで、肩口から正面にお下げの様に垂らしており、薄緑のローブを纏っている。精悍な印象を受ける美人だった。
アウロラはエリナリーゼが前に来ると頭を下げて詫びる。
「エリナリーゼ、ごめんなさいね、迷惑をかけたわ」
しおらしいアウロラの態度に虚を突かれて、エリナリーゼはキョトンとした表情になる。だがすぐに気を持ち直し、アウロラの肩に優しく手を置く。
「反省されているならば良いのです、もう心配かけるような事は為さらないで下さい。私も少し厳しすぎました。姫様が人間の国を見聞することを楽しみにしていた事は分かってましたのに…」
エリナリーゼがアウロラと話している内に、バアル達はファフニールの方へ近づく。一番前に進み出たバアルは、まずファフニールを労った。
「良い働きをしたな、ファフニール。感心したぞ、どこか浮世離れしたお前が女性をちゃんとエスコートするとはな」
「多分、巻き込まれて流されて偶然こうなっただけだと思いますけどね」
カルニウェアンが交ぜっ返すが、事実なので何の反論も出来ないファフニール。カルニウェアンは黙るファフニールを避けて、その後ろに浮かんでいる魔印に興味を示す。
魔印は淡く輝きながら竜達を拘束していた。魔印に縛られた竜達はまだ気絶から回復しておらず、白目を剥いて舌をだらしなく垂らしている様が宵闇の中、不気味な雰囲気を放っている。
カルニウェアンは魔術で光球を出すと、魔印を詳細に観察し始めた。カルニウェアンがそのまま黙ってしまったので、バアルはファフニールとの話を再開した。
「それで、やむを得ず俺達のことを話したらしいな。まあ、仕方なかろう、お前の姿がこの世界の竜族の一般から大きく逸脱しているならば姿を見せた時点で言い訳が効かないからな。…それで、お前が戦った感じ、この世界のドラゴンの実力はどんなものだ?」
「…戦いにすらならなかった。あれでこの世界の成竜らしいが、僕たちの世界の魔王軍なら、あれより強いのは少なくないだろうな」
ふむ、と一息吐き、バアルは考えを巡らせる。
「どうもこの世界の実力者は軒並み俺達の世界より実力が低い気がするな。結論を出すには早いが…。やはり余り本気を出して暴れぬ方がいいようだ」
「既に暴れまくっている気もするけどな」
「そうですわね」
とはマグナダインとアナトーの意見。
話し合いが終わったのか、アウロラとエリナリーゼが近づいてきた。エリナリーゼはアウロラを追いて前に出ると、ファフニールと向き合う。
「ファフニールとやら、此度は姫様をお守りしたそうだな。ご苦労だった。これを受け取るがいい」
そう言って小袋をファフニールに投げつける。受け取ったファフニールは中からジャラジャラと金属が擦れる音がして、袋の口から小粒の砂金の塊が出たのを見た。
「それだけあれば他の者達の分も合わせても十分だろう。今回の件は他言無用ぞ。では姫様、セプロン市へ戻りましょう」
振り向いたエリナリーゼが見たのは、驚愕に目を見開き、口を大きく開けた主人の姿だった。
「姫様…?」
「この愚か者があああああああ!!」
パッカーーーーン!
アウロラの拳がエリナリーゼの顎に向かって跳ね上がり、快音と共にエリナリーゼを空まで飛ばした。二秒後、落ちてきたエリナリーゼを受け止めようともせず、アウロラはファフニールに向かって頭を下げる。
「ファフニール、すまない! 私の従者が誠に無礼なことをした。どうか怒らないで欲しい、悪気があったわけでは無いんだ!!」
「いや、別に気にしてないし…」
ファフニールはアウロラの手が早い事を知っているので、突然の凶行にも少し困惑した程度だが、周囲の人間の混乱はそれ以上だった。バアル達は従者を殴り飛ばしたアウロラを目を見開いて見ているし、カルニウェアンも魔印の観察を一時中断していた。
後ろで控えていた残りのアウロラの近衛隊も姫の乱心に非常に戸惑っていた。
「ひ、姫様、何をなさるのです!?」
「エリナリーゼ隊長!? しっかして下さい! …ダメだ、ちょっと幸せそうな顔で気絶している…」
近衛隊の言葉もアウロラの耳には届いてなかった。アウロラの頭にあったのは、ファフニールが苦もなく成竜三頭を倒した姿だけだった。
(もしファフニールの怒りを買ってしまっては……、我が国に未曾有の混乱が巻き起こる可能性が…!)
アウロラの頭の中では戦列を組むドラゴン達を、いとも容易くなぎ倒していくファフニールの姿が思い浮かんだ。現代風に言うと自衛隊vsゴ○ラである。
(それにファフニールに嫌われたく無い…。)
だが同時にアウロラの脳裏にあったのは、ファフニールの持つ見事な鱗の輝きとルビーの瞳だった。
ファフニールはドラゴンの基準で言えばかなりのイケメンでもあったのだった。
「部下の非礼は私の責任。どうかセプロン市での私の逗留している宿で、お詫びとして持て成させて頂戴」
アウロラは精一杯アピールでファフニールを繋ぎ止めようとする。
「ううん、いらない。早く帰って昆虫観察日記書きたいし」
だがファフニールにはそんな乙女の機微は分からなかった。と言うよりファフニールから見ればアウロラは女性と言うより女子のレベルであって、自分に好意を持つような年齢とも思えなかったからだ。
「う、うわ~~~~~~~~ん!!」
アウロラは両手で顔を覆って泣きながらセプロン市の方向に走り去ってしまった。慌てたのは近衛隊である。
「あああ! 姫様またもご乱心!?」
「待ってください! 姫! 姫ーーーー!! ああくそ隊長が邪魔で走り難い!!」
起きてたら鉄拳制裁が下るような文句を吐きながら近衛隊は気絶したエリナリーゼを抱えつつ、アウロラを追って走り出した。
後に残されたバアル達は展開の早さについて行けず、それを呆然と見送った。
「……で、このドラゴン達の処分どうすればいいんでしょう……?」
カルニウェアンの呟きが虚しく森の中に木霊した。
……
その後、バアル達は戻ってきた近衛隊の一人のお願いの下、カルニウェアンが気絶していたドラゴン達を魔術で人型に変えて縛り上げたり、それを秘密裏にセプロン市まで運んだりと色々面倒な作業を行っていたら、あっという間に夜が開けてしまった。
『満月亭』で朝食取りつつ、バアル達は若干疲れ気味だった。
「はあ…、休日だったはずなのになんで夜通し働いてるんでしょうね、私達は」
「言うな、カルニウェアン。かなりの高額報酬が手に入ったのだ。ここは予定外のボーナスを喜ぼう」
マグナダインは朝食を取らずに、冒険者ギルドを介して、ファフニールが昨日の夜にもらった報酬を換金しに行っていた。
残った面子の内、カルニウェアンは半分眠りながら機械的にサラダを口に運び、軽くパンとスープで朝食を済ませたバアルは、朝食とは別に出してもらった茶を啜っている。アナトーとファフニールは眠たげに細々とパンを千切って食べていた。
しばらくそうして待っていた四人の所にマグナダインが帰ってきた。
「おーう、換金してきたぞ」
マグナダインは通りがかりの給仕に適当に料理を頼むと、バアル達の居るテーブルの席に着く。
「おかえりなさい、マグナダイン。それで、いくらになりました?」
「ざっと金貨百五十枚だ。金粒だけかと思ったら宝石も幾つか入っていてな。袋の大きさの割に結構な価格になったぜ。あ、もちろん手数料は引いた額だぞ」
どしゃり、と重たい金貨袋をテーブルの真ん中に置いてマグナダインは解説する。
「やっぱり結構嵩張りますね。宝石は換金せずに持っておいても良かったかも」
「そうだな。一般流通していない、換金の為だけのミスリル貨とか貴金属貨幣にいくらか変えておこうか。正直保管場所に困るしな」
「そういえば冒険者ギルドでお金を預かってくれるそうですわ」
「あー、あの制度では預けた街でしか引き出せないんですよ。他の街への移動を考えると預けっ放しは難しいですねぇ」
「何にせよ、まとまった金が入ったのは有難いな。これで情報収集が捗りそうだ」
バアル達がああでもない、こうでもないと話し合っていると、突然『満月亭』のドアが大きな音と共に開かれた。
突然の事に固まる客達。
そんな彼らと空気を無視して入ってきたのは、白いローブの上に黄金の髪を泳がせるアウロラだった。その後ろにはエリナリーゼが控えている。顎に張り付いてる治療痕が痛々しい。
アウロラは周りを見渡してファフニールを見つけると、頬を緩めながら近づいてきた。対してエリナリーゼは仏頂面を強めていく。
「おはようございます、ファフニール。昨日はありがとうございました」
「ああ、おはよう。それとどういたしまして」
ファフニールはチラリとアウロラを見て挨拶すると、視線をパンに戻してまた食事を始めた。その様子がエリナリーゼの癇に触った。
「おい貴様、アウロラ様の挨拶に対して無礼であろう。地に額を擦りつけて拝謁賜らんか」
「地に額を擦りつけるのは貴女の方でしてよ、エリネリーゼ」
バカ丁寧な口調で微笑みを崩さず、アウロラはエリナリーゼの頭を掴むと床に叩きつけ、そのままグリグリと擦る。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ、アウロラ様、激しいですぅぅぅぅ…」
「昨夜も言いましたけど、ファフニールは私の恩人です。また偉大なドラゴンでも在られるのだから、礼儀を弁えるのは貴女の方ですよ、エリナリーゼ?」
「はい、失礼しました…」
ハァハァと荒い息を吐いて謝罪するエリナリーゼ、その頬は赤らみ、口元は心なしかニヤけているように見える。
その姿に不気味なものを感じたのか、近くの席に座っていたマグナダインは椅子を少し遠ざけた。
「ええと、昨日の件の後処理の結果を言いに来ましたのでお話しますね」
「聞こう」
バアルが代表して答えると。アウロラは一瞬だけ嫌な顔をしたが、すぐに表情を改めると、話し始めた。
「まず、昨日捕えた竜共は、本国に送られる事になりました。二、三日後にはこの都市から出る予定です」
「奴らの目的や仲間については?」
「分かりませんでした。近衛隊が尋問を試みましたが、多少痛めつけても全く口を割りませんでしたので、本国で詳細な尋問を行う予定です」
「そうか…まだ危険かも知れないな」
「その可能性は低いかも知れません。私が近衛隊から離れる千載一遇のチャンスに実働要員を出し惜しむ事は少ないと考えます。もしこの都市に残党が居たとしても連絡要員位で、直接的な手段はしばらく取らないと思います」
ですが、と前置きして、モジモジしながらアウロラはファフニールを上目遣いに見つめる。
「万が一、と言う可能性もあります。本国から近衛隊の増援を呼んでいますが、それが来るまでの間は確実とは言えないかも知れません。それで、ファフニールは冒険者と聞きました、増援が来るまでの間、もしくはその先もずっと、護衛の依頼をしたいのですが……?」
「悪い、数日後には中級冒険者の昇格試験があるから長期の依頼は受けれない」
「ほ、報酬を高額にします! 昨日の小袋を毎日差し上げますから!」
「そんなにいらない。昨日の分で大分まとまったお金も出来たし、試験が終わったら街を出ると思うからやっぱり長期の依頼はちょっと…」
「う、うえ~~~~~~ん!!」
片腕で目の部分を覆い、泣きながらアウロラは外まで走り去った。
「ひ、姫~~~~!?」
エリナリーゼも思わずアウロラの名前でなく、姫と叫びながら後を追った。
『満月亭』に静寂が戻った。
「お前も案外ひどいな。あの姫さん、明らかにお前にモーションかけてたじゃないか」
「若過ぎる雌はそこまで興味無いな…」
「うわ、枯れてますねー」
マグナダインとカルニウェアンは呆れたようにファフニールを見る。バアルとアナトーは苦笑するだけだった。
……
その後、全員の食事が終わり、さあ出ようとした時に、再び『満月亭』の扉が千切れんばかりの勢いで叩き開けられた。そこには血走った目で何か手で捕まえているアウロラが居た。
「ファフニール、報酬にこの虫を加えます! さあ、護衛の依頼を受けなさい!!」
アウロラの手にはカサカサ動く節足動物が握られていた。おそらくすぐ近くのゴミ捨て場あたりから取ってきたのだろう。
有り体に言えばそれはGOKIBURIだった。
周囲が不潔感に顔を顰めている中、ファフニールはハッとした表情を浮かべてフラフラとアウロラに近づく。
何となくアウロラはGを持った手を横に動かす。するとそっちに向かってファフニールはフラフラと歩いて行く。
別の方向に手を動かす。やっぱりファフニールはそれに釣られてフラフラと動く。
……何だかファフニールを調教している気分になってゾクゾクし始めるアウロラ。そのままアウロラはゆっくりと外にファフニールを連れ出そうとした。
「俺の店にGを持ち込むんじゃねぇ…!!」
厨房から飛んできたロジャーさんにGを八つ裂きにされたアウロラは「もうちょっとだったのにー!」とまた泣きながら外に飛び出していった。
ファフニールは切り刻まれてゴミ箱に捨てられたGを悲しそうに見ていた。
「アホな事してないで出るぞ」
そしてマグナダインに襟首を掴まれて引きずられながら、バアル達と共に店から出て行くのであった。




