第15話:【特別編】入部の理由ー昴の場合ー
※第15話〜第19話は、本編より少し前のお話を描く特別編です。第20話から本編に戻ります。
新入部員の選出は新二年生に一任されている。
二年になったばかりの皐と麗奈に任された最初の仕事は、新入部員の選出だった。
現役部長・副部長である三年に権限は一切ない。一年が正式メンバーとして入る時に自分達は引退しているからだ。
ともに戦う二年が選ぶべきというのが、防衛部の伝統である。
ただひとつだけ条件がある。
そのチームにとって必要だと思う人物であること。
指名制と立候補制の年があるが、その年は、
「俺はやる気がある人と一緒にやりたいな」
という皐の一言で、立候補制に決まった。
防衛部の存在は世間の注目を集めており、それを目的にこの高校に進学する人までいる。
入部希望者の数は十人以上集まった。
入部試験は作文にした。入部の志望動機や自己PRをレポート用紙に記入して提出するという、シンプルなものだった。
◇
「………」
赤塚昴の志望動機を見て、皐は息を飲んだ。
学校を守りたい。人々の役に立ちたい。子供の時から憧れていた——
そんなエピソードが乱立する中で、昴のそれは異彩を放っていた。
『無実を証明したい』
切実な訴えだった。
昴が起こした暴行事件における入学取り消し。
その事件が仕組まれたものであったこと。
おそらくモンスターによるものであること。
そのせいで他校からの受験を断られ、行き場をなくしたこと。
そして現役ボウエイジャーでもある叡徳高校の理事長だけが、自分を信じて入学を許可してくれたことが端的に書かれていた。
『ボウエイジャーになってそのモンスターを捕まえ、無実を証明したい』
『捕まえたところで噂が消えないだろうが、ボウエイジャーとして活動することで社会的な信頼を得たい。大学受験では苦労したくない。』
作文にはそう書かれていた。
直接話を聞くために、皐は教室に向かった。
作文の印象とは違い、盛り上がっているグループの中心に彼はいた。
放課後に部室に来て欲しいと伝えて教室を出る。ついでに、
「赤塚昴ってどんな子?」
と廊下にいた女子たちに尋ねてみた。
「男子と馬鹿なことで盛り上がってる」
「中学の時、不良だったって聞いた。あんまりいい噂聞かない」
「運動神経が半端ない。体育とか、マジですごい!!」
「怖そう。話したことない」
など。
入学して間もないというのに、賛否両論の様々なエピソードが集まった。
目立つ人物なのは間違いなさそうだった。
放課後、昴が部室にやってきた。
「まさか、俺に決まった…とかじゃないですよね」
その言葉には信じられないという思いと、かすかな希望が宿っていた。
選ばれないと思っていたのだろう。
「話を聞いて決めようと思ってるよ。俺は二年ボウエイグリーンの常盤皐。こっちは同じく二年ボウエイイエローの玉井麗奈。よろしくね」
「やほ。よろしく〜」
隣で麗奈がひらひらと手を振った。
「それで。——ここに書いてあること、教えてくれる?」
昴は頷いて、事件について話しはじめた。
何者かの声がして意識が飛んだこと。
気づいた時は教室で友人たちが倒れていたこと。
自分が、一方的に無抵抗の相手に暴力を振るっていたらしいこと。
誰もモンスターの仕業だと思わなかった。モンスターは教室に一体も出ていない。
状況から見ても、ただ昴が突然暴れただけ。
昴自身も、自分がおかしくなったのだと思った。
ストレスか、精神的な病気か何かだろうと。
「……でも、叡徳の理事長が学校に来て。似た事件が多発してる。もしかしたら、モンスターに体を乗っ取られただけかもしれないって」
昴が一瞬言葉に詰まる。
理事長は、現役ボウエイジャーとして活躍している。
協会はモンスターとの関連性が証明されなければ動けないことを知っていた。
「……公式の案件じゃないんです。モンスターの関与が証明できないから、協会も動かないらしくて。理事長が個人的に追ってる事件だと言ってました」
モンスターの仕業だと誰も証明できない。昴自身が起こした事件だと、誰にも否定できない状況で——
『叡徳高校を受けてみないか?今からでも試験を受ければ、入学式に間に合う』
理事長はそう言った。
「無実を証明したいんです」
皐をまっすぐに見つめて、昴は静かに言った。
「……防衛部の活動はあくまで校内のモンスター討伐だよ。君の探すモンスターは、防衛部の活動範囲外だ。それは知ってる?」
「早く免許が欲しいんです。防衛免許を取れば、フリーのボウエイジャーとしても動けるんで」
防衛免許取得費用は約20万円。アルバイトで地道に稼ぐよりも、防衛部に入る方が手っ取り早い。
「あと、学校内とか外とか関係なく、モンスターに人生狂わされる人を無くしたいんです」
「分かった。じゃあ、これ入部届ね。これからよろしく」
あっさりと皐は言うと、入部届を昴の前に置いた。
「君のモンスター探しも、できる限り協力するよ。OBにも声かけてみようか?現役ボウエイジャーとして活躍している人たくさんいるし、何か情報が手に入るかもしれないよ」
「……」
昴は、信じられないものを見る目で入部届を見つめた。
「どうしたの?」
「……即決していいんですか?」
「と、いうと?」
皐がきょとんとした表情で問い返す。
「あ、いや……信じてくれるんだなって。俺でさえ、理事長があぁ言ってくれなかったら、自分がおかしくなったんじゃないかって思ったし」
自分が暴力を振るい、何の罪もない相手は入院した。事実として存在するのはそれだけだ。
「モンスターの仕業という証拠は、本当にないんです」
「うん。さっきも聞いたよ」
「俺が、気に入らなければ暴力で片付けて、受験で楽するために防衛部を利用する人間だとは思わないんですか?」
「あぁ」
その可能性も考えたよ、と皐はさらりと言った。
「俺の特技は嘘を見抜くことなんだ。作文だけじゃさすがに分からないけど、会って話せば分かる」
皐が昴を見る。その目に迷いはなかった。
「君が言った言葉に嘘はない。信じるよ。……他に質問は?」
にっこり笑って皐はそう言った。
昴が防衛免許を取得している間に、例のモンスターはボウエイ協会の公式案件になった。
上級モンスター・ハイジーンによるもの。
人に乗り移って操り、大切な人たちを傷つけて、双方からのストレスを糧に成長するモンスターだった。
そして、免許取得を待たずにそのモンスターはプロのボウエイジャーの手によって討伐された。
そのモンスターによると思われる事件は半年間で19件。いずれも冤罪と認められ、救済措置が取られた。
ほどなくして、昴の元にも本来行く予定だった鳳星学園からの編入許可書が届いた。
ひとつ、息を吐いて。
昴は書類をゴミ箱に捨てた。
大したニュースにはならなかった。新聞の一角に小さく載っただけ。
被害者や被害者家族の態度は少し変わったが、世間からの評価はほとんど変わらない。
ハイジーンが捕まったということが少しニュースになっただけで、どの事件の誰が冤罪かなんてことはネットニュースにすらならなかった。
卒業した同級生の大半は今も知らないままだろう。
あの時、友人と信頼を一瞬で失った。
騒然となる教室や、倒れている友人達、周りの怯えた目、身に覚えのない手の痛み。
被害者の親達の罵倒と、頭を下げ続ける両親の姿、翌日からの教室の空気。
その記憶は消せない。
卒業式は出なかった。
卒業アルバムと文集はもらったその日に捨てた。事件が解決したとしても、開ける日が来ないことは分かっていたから。
『赤塚昴って中学の時に事件を起こしたらしいよ』
事情を知らないまま流された噂は、今も勝手に広がっていく。
それは他の18人も同じだろう。職や家庭を失った人も中にはきっといる。
半年経って送られてきた紙きれ一枚だけじゃ救われない。
だからこそ、
——そうなる前に、防ぐ。
部室のドアをノックする。
今日からレッドを引き継いだ、新部長の皐が出迎えた。
「免許は取れた?」
昴は頷いて、防衛免許を掲げてみせた。




