行方
「正直得るものなくて、くたびれ儲けじゃない?逃げるしかないんじゃあないかなぁ」
ジェーンはどこか状況を楽しんでいる様子だ。しばらくすれば増援が来て終わる。二人がかりとはいえ、スプーナーを無力化するのは無傷ではすまないだろう。無理に制圧する必要はない。
この状況は、彼にとって詰みに等しい状況である。たとえタチアナ一人と対峙するだけでも無傷で切り抜けるのは難しいだろう。しかし、諦めていない様子だった。
「コスプレの嬢ちゃんはオレなんか相手するよりふさわしい男がいるさ」
「両手に花でいいじゃない。ゆっくりしていきなよ」
ジェーンはスプーナーにゆっくりと近いていく。
「残念だけど、あと数年後にまた誘ってくちょうだい」
「つれないなっと!!」
ジェーンは飛びかかるように殴りかかる。
見た目どおりであればジェーンは、小柄で華奢な少女である。本来なら、軽くいなして終わるはずだった。40㎝以上の身長差の上、どうしようもない体格差がある。しかし、スプーナーは直感的に危険だと感じ、咄嗟に拳が出た。
拳と拳がぶつかりあう。本来であればジェーンの左腕は無惨にもぐしゃぐしゃに潰れてしまうだろう。戦場で右腕を失ったスプーナーの堅牢な機械義手に生身で対抗すれば当然そうなるはずだった。
しかし、手応えこそ生身だが、何かがおかしかった。小柄な少女と一際大柄で筋骨隆々な男性との大きな体格や体重差をまったく関係なく、まるで猪か何かが突進してきたかの衝撃がジェーンの拳から繰り出された。
ジェーンはその衝撃を殺す為にわざと後ろに跳んで着地した。一方、スプーナーはそのまま体勢を崩さずに持ち堪えた。しかし、背後からスプーナーの顔面に蹴りがとぶ。驚きと焦燥感こそあったものの、タチアナの不意の一撃を左腕でガードし受け止めた。
(一対一なら、引き止めれずに抜かれてたでしょうね…)
今回はこちらが有利な条件で対処できたことにタチアナは安堵していた。単独で戦えば、勝てると保証できない。二対一かつ時間制限付きというかなり有利な条件だ。
そうこうするうちにタイムアップがおとずれる。
「包囲は完了しました。ご同行願えますか?スプーナー少佐」
部下を引き連れエレンが到着したのだ。
「元だよ!!ちくしょう!!」
エレンと彼女のPMCについて、聞いたことがある。まさか、活動できないこの国にいるとは思わなかった。藁をも縋る思いだ。国家というものに対して不信感を抱く彼は、自分自身の手で姪を探すためにツテを使い密かにこの国に渡った。どんな代償を払う覚悟がある、なんの目的でここにいるかわからないが交渉できないだろうか、と考えた。
「なんで狼の女王が群れ率いてこんなとこにいるんだ?ここ(日本)では狩りができないはずだろ?」
「一応、この仕事で想定外であるあなたの事情を親切に聞いてあげるために来たんだけど…こちらとしてはテメェをことが落ち着くまで知らんぷりして豚箱にぶち込んでもいっこうにかまわないんだが?」
スプーナーに対し、淡々としたビジネス口調からドスのきいた口調へと変え威圧的にエレンは返した。
この工場の連中みたく、状況によっては最悪スプーナーの存在に対し、殺しはしないまでも隠蔽することも考慮している。
「ちょっと待って!!悪かった!!」
手で静止するような動作をした後、懐から携帯端末を取り出して写真を見せる。
「報酬は払う!!だから、この子を探すのを助けてくれ!!」




