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終末の境界線  作者: 5ion
1章 鋼鉄の指令
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1章第4話 盤上の駒たち

 キャンピングカーに戻った2人はヴォルフから送られてきたデータに目を通していく。ヴォルフのデータは彼のそっけない態度に反して丁寧かつ細かなものであった。

 依頼内容はティナのやらかしの尻拭いを手伝うことだったが、情報にはその詳細が書かれていた。

 ティナの報告によると貨物は“シャード”と呼ばれるギャングの末端部隊に奪われたらしい。その過程でティナと行動を共にしていた仕立て屋(シュナイダー)が行方不明となったらしい。ヴォルフは自身の豊富な情報網をフル活用して貨物を追跡し、それがシャードの本隊へ引き渡しというよりは献上されるその時間と場所をつきとめていた。情報にはその詳細な時間と場所も書き記されている。3日後の夕方と時間は多くない。さらに場所は侵蝕区域ストレイの内部つまり貨物を取り返すには仕立て屋(シュナイダー)の協力が不可欠ということだ。そしてその注記として、場所のことはティナに伝えていないと書かれていた。


「つまり、これを餌にしろってことか」


 注記を見たソラは思わず呟いた。一通り情報に目を通した後、外に出た。夜風が肌に当たる感覚の中、ウォッチアイの通話アプリを起動する。通話先はもちろんティナだ。

 数回のコール音の後、冷たくて少し鋭い女性の声が耳へ流れ込んできた。


『もしもし、あんた誰?』


 ティナが電話に出た。その声はどこか不機嫌みを帯びている。


「初めましてティナ。僕はラプターアイのホークだ。君と仕事がしたい」


 ソラが短く挨拶をした。

すると


『は? ラプターアイ? ホーク? 何言ってんの? てか、何であたしの番号知ってんの?』


とティナは疑問を捲し立てる。声の不機嫌さが加速しているような気がする。


「ヴォルフから話を聞いたんだ。協力するよ」


 あまり長引かせても彼女が不機嫌になるだけなので、ソラは早速、本題に入ることにした。


『ああ、そういうこと。でも正直助けは必要ないわ。あたし1人で十分だから』


 彼女の態度には、強い自信とソラに対する警戒心が垣間見える。

 どこの馬の骨とも知れないやつにいきなり協力すると言われて受け入れられる方が難しいだろう。ソラはそう考えていたため、断られても少しも動揺していない。しかし、このままだと彼女は依頼の達成をできない。そのことを分かっているソラは1つ目の交渉カードを切った。


「ヴォルフは僕らに荷物の受け渡し場所と時間を教えてくれた。君の依頼を完了するにはこの情報が必要だろう?」


 これで協力を受け入れてくれるかと思っていたが返ってきたのは冷ややかな声であった。


『分かった。トークンは払うから情報だけちょうだい。もう一度言うけどあたし1人で十分なの』


 ティナはいまだに拒絶の姿勢を見せている。彼女はどうしても自分1人で尻拭いをするつもりらしい。だが、ソラにはその姿勢を崩しうるもう1つのカードを持っている。


「受け渡し場所は侵蝕区域の中だよ」


 ちっ、とひとつ舌打ちの音が耳に入ってきた。ソラはさらに追い打ちをかけるように


仕立て屋(シュナイダー)も失ったんだろ? 僕らがその代わりになろう」


と言う。ソラは彼女の出方を伺うために少し沈黙する。仕立て屋(シュナイダー)なしでは侵蝕区域で自由に動くことはできないことを暗に伝える。


『ヴォルフ、あの野郎……余計なことをペラペラと……これを断ったら……くそっ!』


 葛藤するティナの声が途切れ途切れに聞こえてくる。断れないとはよく言ったもので、彼女にとって必要な情報も人材もヴォルフの手のひらの上なのだ。ソラの提案を飲まなければ依頼の達成は不可能ということを理解していないことはないだろう。フィクサーが遣わした仕立て屋(シュナイダー)の協力を蹴って他の仕立て屋(シュナイダー)を雇うなんてことをすれば、ヴォルフから今後仕事を受けさせて貰える訳がない。というかそもそもヴォルフに悪い意味で目をつけられるというデメリットを飲んで依頼を受けてくれる仕立て屋(シュナイダー)がそもそもいないだろう。これはヴォルフが提示する挽回の最後のチャンスということだ。今、ティナの中でぐるぐると思考が巡っているはずだ。


『……分かった、明日の朝、グリッド121の東にあるカフェ、モカ・ビスタに来て』


 ついに決心したティナがため息混じりにそう言った。何か言葉を返そうかと思った頃にはウォッチアイ上に通話終了の文字が浮かんでいた。


「まあ、一歩前進か」


 ソラは彼女の協力を拒む態度を何とか崩すことができたことに胸を撫で下ろす。ただ、ソラもティナもヴォルフにとっては盤上の駒であり、手のひらの上で踊っているだけに過ぎない。今回だってティナに協力を取り付ける道筋はヴォルフが用意していたと言っても過言ではない。そう考えると彼に対する畏怖の念が湧き出してきた。

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