【27】 母、娘と妖精祭を楽しむ②
「それは……領民は領主様へ収穫物の一部を税として納めなければいけないのです。その一部をどうやって量るかというと、大きな計測器の片方に子供を、もう片方に収穫されたものを載せて、釣り合いが取れた分が税となる……というぐあいだったのです」
「それだけだと何も悪いように聞こえませんわ」
「では、重い子供と、軽い子供……乗せるならどちらが良いと思いますか?」
男性の表情は落ち込む。当時のことを思い出しているのかもしれない。
「えっ……そ、それはぁ……もちろん軽いほうが良いに決まってますわ! そうすれば納める量が少なくて済みますもの」
(正解。でも、我々の側としてはあまり好ましいことではないのだけれどね……)
「これでお分かりでしょう……」
「……?」
どうやらフィリシアは先ほどの答えは出せても、理解にまでは至らなかったようだ。
「ここからは私が話しましょう」
「どういうことですか? お母様」
飴と格闘していたミリアまで、いつのまにか聞く態勢になっている。
「シア……軽い子供、というのはどんな子供だと思う?」
「小さい……?」
「……もう一つあるでしょう」
「あっ……体重が、軽い……」
気づいたらしく、血の気が引いている。
「そのとおりです。納める収穫物を少なくするため、村には痩せ細った子供が、一人や二人ではなかったのです」
「そ、そんな……ひどい」
(実際、シアの想像よりもっとひどい。あれは骨と皮が服を着て歩いているようなものだった……。当時の王都もひどかったが、それ以上があるとは夢にも思わなかった)
「彼らも生きるために必死なのよ。不作が続いたり、飢饉に見舞われようなものなら、手段は選んでいられないの」
(私たちがエヴァンス王国に来た時はひどかった……。物はおろか、ろくな食べ物もなく人々は飢えに苦しんでいた。幸い私はお父様の力もあって、飢えるようなことにはならなかったけど、彼らの気持ちはよくわかる)
「だから私は商会と同じ方法をとることにしたのよ」
「どんな方法なのですか?」
「一方が収穫物なのは変わらず、もう一方には袋いっぱいに詰めた小麦を置いたのよ」
「小麦の……袋?」
ピンとこないのか、フィリシアは首をかしげている。
「一袋がだいたい、男性が一日で食べる量とされているわ。それを畑の大きさによって、何袋で計測するか決めたの」
「それだと、あまり収穫できない時は辛いだけでは……」
「まだあるわよ。小麦一袋入った通常のものを大袋として、それを半分にしたものを中袋、さらに半分にしたもの小袋。収穫量が少なかったり、出来の良くない時は、中袋で。不作などの年は小袋で測るの。中袋なら2袋、小なら5~6袋で大袋一つ分……大袋2~3つで、抱えたら小さな子供一人分の重さぐらいじゃないかしら。……あとは言わずともわかるわね?」
「ふぉぉぉ、さすがお母様……」
フィリシアが目を輝かせながら、時折私へ見せる尊敬なのか、感心なのかわからない眼差しを向ける。
どちらにせよ気分の悪いものではない。
どうもこの子は私を参考……というか目標にしているような節がある。
学ぶべきことがあるのは良いことだし、その姿勢も褒めるべきなのだが、私を目指すのはどうなのだろうか……?
どうせなら王妃のような、もっと家柄も人柄も良く、良い貴族の代表のような貴族を目指せばいいのに、とも思う。もしくはフィリシアが、フィリシアらしくいられるならそれはそれでいい。
真似するのは構わないが、私の模造品にはなって欲しくない。
これが悪役令嬢というものの弊害なのかしら……?
(時間はまだまだたっぷりあるわ……ゆっくり理解を深めながら、道を示してゆくしかないわね)
「奥方様のおかげで村から痩せ細った子は居なくなりました。生きていくためとはいえ、私たちも辛かった……。さらに不作の時は減税までしてくださるのですから、領民総出で感謝を伝えても足りないぐらいです。奥方様が領地をお留守にしていたので、口にこそ出しませんでしたが、皆私と同じような思いを胸に秘めながら暮らしています」
ここ数年、私たちが領地を不在にしていても特に問題もなくやってこれたのは、これが理由の一つなのかもしれない。
するとフィリシアが目を細めながら、
「うーん、それはいけませんねぇ……」
「と、いいますと……?」
「これからは胸に秘めるのではなく、もっと積極的に広めましょう! お母様の偉業を! 褒めたたえるのです!」
とんでもないことを口にし始めた。
「し、シア! そんな恥ずかしいことを……」
「エリザベス様! わたしもそう思います!」
「ミリアまで何を言い出すの……!?」
「手始めに、この村を『エリザベス村』と改名しましょう」
私の気持ちとは裏腹に、どんどん明後日の方向へ進んでいく。
「それは、いいかもしれません。誰も反対する者のは居ないと思います」
男性もしきりにうなずきながら賛成している。
あ、ありえない……。
「私が反対するわっ!! 絶っっっ対に許しませんッ!!」
そんなことが社交界で広まりようものなら、私が社会的に死ぬ。
そもそも英雄が生まれた村ですら、英雄の名前をつけたりはしない。
土地や村には皆それぞれの歴史があり、名に意味のある由来も多く、それを領主の名前ならまだともかく……妻の名前を村につけるだなんて、嘲笑の的……目隠しで矢を放っても必ず当たる的のようなものだ。口賢しいご婦人方はこうさえずるだろう「エリザベス村のエリザベス様ではございませんこと?」とね……。
考えただけでも寒気がしてくる……。
「なんか面白そうな話してるっすねー」
また一人厄介なのが、混ざってきた。
「いいじゃないっすか? 『エリザベス村』」
そしてこれまたろくなでもないことを言い始めた。
「ミーシャあなたねぇ……絶対面白がっているでしょう!」
「えー? そんなことないですってー。エリザベス様は過小評価されすぎだし、自分のことをしすぎなんすよ」
例えそうだとしても、『エリザベス村』はないわ……。
「そんなことばかり言っていると、皆々屋敷に連れ帰りますよ!」
さすがにこれ以上は私が耐えられそうにない。
「あうぅぅ、ご、ごめんなさい、お母様……」
「ごめんなさい、エリザベス様……」
「ちぇー良い案だと思ったのに」
一名反省の色が無い人間がいるようだが、アレはほっておこう。ミーシャとは長い付き合いだ。いちいち気にしていたら身が持たないことを私は知っている。
これだけ言っておけば領民も改名しようなどど、不埒な考えは起こさないはずだ。
もし本当に実現していたらと思うと、ゾッとする……。
「そろそろ行きましょう。祭りはこれからなのよ」
「はーい」
「はい」
「はいはいっす」
皆口々に返事をすると、ミーシャを先頭に広場へ入ってゆく。私はその場に留まり、銀貨1枚を屋台へそっと置く。
屋台の男性は瞠目し、
「奥方様から代金をもらうなんてとんでもありません! ましてや銀貨などあまりに多すぎます!」
と固辞したが、
「私たちは明日も来る予定なの。それが先ほど一緒に居た小さな娘の兄なのよ。その時また立ち寄らせてもらうから、良くしてもらえれば嬉しいわ。……それと私が来ているのことの口止め料も込みよ」
「わかりました……そこまで仰るならありがたく……。ぜひまたお立ち寄りください」
今度はしぶしぶながら受け取ってくれた。
「ええ、ありがとう。私も領民と触れ合う機会があってよかったわ。ではご機嫌よう」
男性は頭を下げ、私を見送る。
(飴の代金なんて良くて銅貨20枚と言ったところかしら……? 銀貨と金貨しかもってこなかったから、明日は銅貨も用意させたほうがいいわね。今日はまぁ、銀貨で払って釣りで凌ごう。最悪ミーシャに立て替えてもらえばいいか……)
少し遅れてフィリシア達と合流する。広場へ着くと、かなり賑わっていた。
「お母様! 人がすごいですね!」
「そうね、いっぱいいるわね」
「え、エリザベス様! お店がいっぱい出てます!」
「そうね、いっぱい出ているわね」
フィリシアもミリアも初めてのお祭りですっかり興奮している。まるで娘が二人できたようだ。
おかげ様で当初の目標であるブックマーク10を達成しました。
いえーい、どんどんぱふぱふ。
少なくても10名の方が続きを読みたい、もしくは読んでもいいと思ってくれてるわけで、これほどありがたい事はありません。
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
今後について、お知らせがありますので、詳しくは活動報告をご覧ください。




