第113話〜落とし前をつけに行きました〜
ちょっと長め。いやそうでもないかな? きっと普通くらいです、きっと、たぶん、めいびー_(:3」∠)_
うん、この光景も久しぶりだな。以前俺が吹き飛ばした小高い丘は綺麗に均され、大規模な畑か何かにしたようだ。区画分けされた農地や、そこで働く人々が遠目に見える。
上空から見る限り、ゲッペルス王国の王都であるピドナに異変はないようだな。相変わらずでかいが。
今から王城は大騒ぎになるだろう。今日の俺は魔王と呼ばれようが退くつもりはない。邪魔する者は斬り捨ててでも正門から押し通り、抵抗勢力を全て叩き潰してゲッペルス王国の国王であるレニエードの首根っこを捕まえる予定である。
「よし、行くかぁ」
王都ピドナの上空から急降下する。目標は王城の正門、その真正面だ。飛行魔法を駆使し、落下速度よりも遥かに速い速度で高度を落とす。流石に空から人が降ってくるとは思わないのか、誰も俺の存在に気付かない。
着地する前に魔法を使って急減速をする。その影響で王城の正門前に暴風が吹き荒れ、貴族らしき人々が派手に転がっていったり吹っ飛んでいったりするが、知った事か。というか完全にわざとなので気にもしない。周りは阿鼻叫喚と化しているけどな。まぁ死にはしないだろ。
突然の出来事に正門を守る騎士や衛兵までもが混乱する中、俺は正門へと近づく。今日の俺は派手なミスリル鎧を装備している、なんというか見るからに勇者チックな格好だ。つまり非常に目立つ。そして佩剣は昨晩作った新作の非殺傷武器一号である。
「な、なにやつ!?」
「何者だ!? 止まれ!」
誰何され、ひとまず止まる。一応名乗りくらいは上げなきゃな。
「俺の名はタイシ、タイシ=ミツバ。ゲッペルス王国の貴族を中心とした賊軍に侵略を受けている勇魔連邦の長だ。それともこう言った方がわかりやすいか? カレンディル王国の大氾濫をぶっ飛ばした勇者だ」
俺の名乗りに正門を守る騎士や衛兵が顔を青くして絶句する。なるほど? 俺が来るとヤバいってのは理解できるわけだ。
「俺が来た要件は理解できているようだな? クソジジイに用がある、押し通らせてもらうぞ」
「ま、待たれよ! 今連絡を」
「押し通らせてもらうと言ったんだ。邪魔をするならぶっ飛ばす。武器を向けたらぶっ殺す」
一歩踏み出す。俺に声をかけてきた騎士が一歩引き、剣の柄に手をかけた。衛兵が槍を構える。
「武器を向けたらぶっ殺すと言ったぞ?」
「こっ、このような狼藉が許されると思うのか!?」
「人の国に軍を差し向けたんだ、相応の覚悟はしている筈だろう?」
「そのような――!」
「下っ端と問答をするつもりはない、退け。退けば痛い思いをすることも、命を失うこともせずに済む」
「騎士の名にかけて、貴様のような凶人を通すわけにはいかん!」
騎士が剣を抜き、斬りかかってくる――が、遅い。拳に魔力を集め、迫り来る刃を素手で殴りつける。
「んなっ!?」
硬質な音を立てて騎士の剣が砕け散り、砕けた刃が陽の光を反射してキラキラと舞った。驚愕の表情を浮かべる騎士の手首を掴み、力任せに後方にぶん投げる。
「があぁぁぁっ!?」
無理な投げ方をしたので手首か肘か肩を骨折したかもしれないが、知ったことじゃないな。
砕け散った剣の破片と俺の後ろに飛んでいった騎士を見て槍を構えていた衛兵があんぐりと口を開ける。
「もう一度言うぞ、退け。そうすりゃあの騎士みたいになることもない」
俺の言葉に衛兵達は顔を見合わせたが、そのうちの一人が槍を地面に捨てた。そして両手を広げて俺の前に立ち塞がる。
「あんたに刃を向けることはしないが、俺達にも門番としての矜持がある。ここで待ってくれればすぐに上に話を通す、だからこれ以上の狼藉は勘弁してくれ」
俺の前に立ち塞がった中年の衛兵が俺の目をまっすぐに見つめてくる。
「素晴らしい。その職業意識の高さは賞賛に値する」
「そうか、なら――」
「だが無意味だ」
笑顔になった中年衛兵の顔面に拳を叩き込んでノックアウトする。職業意識の高さには本当に感動したのでそれなりに手加減はした。
「お前達がどれだけ誠意を見せようが、約束を破られた以上は落とし前をつけなきゃならんのだよ」
唖然として固まっている衛兵達の脇を抜け、固く閉ざされた鉄製の正門の前に立つ。
「レニエードくーん!」
右拳に全力で魔力を篭め、思い切り振りかぶる。
「あーそびーましょぉぉぉぉっ!」
轟音とともに分厚い鉄製の正門がひしゃげ、バラバラに砕け散りながら城内に向かって吹き飛んだ。正門の破片にやられたのか、衛兵や騎士が何人か倒れているのが見える。
「な、何事だ!?」
「はいどーもー、勇魔連邦のタイシでーす。王様に用があるから押し通るよー」
「あ、悪臭の魔王だぁ!?」
「やだ、何それ臭そう」
そういや前回は悪臭兵器ことシュールストレミングさんでこの城を恐怖のどん底に陥れたんだっけ。残念ながら今回は在庫がないんだよなぁ。
「今日の俺は前回みたいに優しくないぞー。邪魔する奴は斬り捨てる」
「くっ! 止めろ! 二度もの狼藉を許すわけにはいかん!」
衛兵が警笛を鳴らし、正門の上から緊急を告げる鐘の音が断続的に響き始める。ものども、であえであえー、ってやつですか。そうですか。そっちがそのつもりなら、こっちもそのつもりで行きますよ?
「俺は約束を破った王に落とし前をつけに来ただけだ。邪魔立てをするなら斬り捨ててでも押し通るが、かかってこなければこっちも構わん。斬り捨てられる覚悟のあるやつだけかかってこい!」
本邦初公開、非殺傷兵器一号こと『いやしの剣』を鞘から抜き放つ。この剣は斬りつけた相手から魔力を奪い、その魔力で相手の傷を癒やすという大変人道的な非殺傷武器だ。傷が治る時に物凄い激痛を伴うとか、何度も斬りつけると限界まで魔力を奪って相手を昏倒させるとか、そういった感じの素敵な機能もついている安心安全な逸品である。即死しない限りは実際安全。
なんだか禍々しいエフェクトを伴った呪いの魔剣っぽくなってしまったが、気にしてはいけない。
というわけで抜き身のいやしの剣を片手にぶら下げながら歩を進めると、騎士達は剣を構えたまま後退りした。慎重に間合いを計っているようだが……来る。
「はぁっ!」
打ちかかってきた騎士の袈裟斬りを紙一重でかわし、ぶら下げるように持っていたいやしの剣を跳ね上げるように一閃する。鎧ごと肉を斬った感触が手に伝わってくる。骨までは断っていないが、長く放置すれば出血で死ぬ可能性もある傷だ。
だが、いやしの剣はそんな傷を瞬時に再生する。
「ぐあああっ!? ぬぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
斬られた騎士が激痛にのたうち回り、しまいには泡を吹いて気絶した。うーん、思ったより凄惨。そんな騎士の様子を見ていた残りの兵はドン引きである。うん、俺もちょっとやりすぎかなって思ってる。
固まっている兵士達の間を抜けて城の入口へと足を進める。時折騎士が斬りかかってくるが、最初の騎士と同じようにギリギリ致命傷にならない程度に斬り捨てて進む。
「ふん!」「ぐはぁっ!?」
「ていっ!」「ぐぬぅっ!?」
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
「イヤーッ!」「アバーッ!?」
ん? 最後のはちょっと危ないかな? 軽く回復魔法をかけておこう、うん。それにしてもなんというか、弱い。いや、そりゃね? 義父殿みたいな剣の達人が次々に現れたら俺も困るよ? でも流石に俺の攻撃に反応もできず一撃で血飛沫を上げて倒れるような騎士ばかり、というのはどうだろう。
いくら圧倒的なステータス差と限界突破している剣術スキルがあるとはいえ、弱過ぎやしないだろうか? 槍で突きかかってくる衛兵や、ハルバードやグレイブのようなポールウェポンで挑んでくる騎士なんかもいるんだが、剣で斬りかかってくる騎士と大して強さが変わらない。いや、流石に衛兵よりも騎士のほうが多少は動きが良かったりはするけどさ。
「弱いっ! 弱すぎる! ゴブリンといい勝負なんじゃないかお前ら」
「……一斉にかかれ! 串刺しにしろ!」
俺の発言を聞いてキレたのか、現場指揮官らしき騎士が大人げない命令を下した。やだなー、多勢に無勢なんだから、そんなことしたら危ないだろう?
命令を下された騎士達は一人ずつかかってくるのをやめ、連携して同時に攻撃を仕掛けて来始めた。正面から袈裟斬りに斬りかかってくる者、左右から突きで胴体を狙ってくる者、背後から斬りかかってくる者と実に忙しない。
こういうのはビビって足を止めたり、防御に入ったりしたら負けである。突っ込んで連携を崩し、乱戦に持ち込むのが一番だ。というわけで袈裟斬りに斬りつけようとしてきた騎士が剣を振り下ろす前に体ごと体当りしてふっ飛ばし、すぐに振り返って三人まとめて斬り伏せる。
今まではゆっくりと歩いて歩を進め、襲い掛かってきたやつを返り討ちにしてきたが、あっちがなりふり構わず来るのならこちらもそれに合わせるまでだ。剣を抜き、槍を構えている騎士や衛兵達にこちらから襲いかかって次々に斬り捨てる。即死させないように斬り捨てるのって結構気を遣うんだよな。
しかし気分は暴れん坊ジェネラルである。心なしか脳裏に処刑用BGMが流れて来る気がする。ほら、あのテーテテー、テレーテテーみたいなアレ。
脳内で処刑用BGMを鳴らしながら暴れていたら三分もかからずに周りに立っている騎士や衛兵が居なくなってしまった。血の臭いが辺りに溢れかえっている。やだ、私の戦闘能力高すぎ?
転がっている騎士や兵士達の大半があまりの激痛にひきつけを起こしたみたいにガクガクしているが気にしないでおこう。生きているって素晴らしいよな。
「成敗ッ!」
いやしの剣に浄化魔法をかけ、血糊やらこびりついた脂やらを消し去る。刀身にヒビも刃毀れも見当たらないので、そのままメニューのマップ機能を利用して玉座の間へと向かうことにした。以前に一度訪れたことがあるので、マッピングは完璧だ。抜き身のいやしの剣を片手にぶら下げたまま、玉座への道を歩く。
この前カチコミに来た時と違い、今回は正門の鐘が鳴ったせいか兵以外と鉢合わせになることがまったくないな。無論、先程からいくつも通過している部屋の中には人の気配があるのだが、別に用はないのでわざわざ突入することもない。ただし向かってくる兵は斬り捨てて行く。断末魔めいた悲鳴が響き渡るが、命に別状はない筈なので安らかに眠って欲しい。実質的に峰打ちみたいなものだ。
暫く通路を進み、玉座の間へと続く広い通路に出る。そこにはいつか見たような光景が広がっていた。重厚な鎧を着込んだ重装の騎士を前面に、その後ろには槍兵や杖を構えた魔法兵、クロスボウを構えた射手に、長銃のような武器を構えた者もいる。どうやら王太子が開発していた鉄砲が実用化されて王城にも配備されたらしい。
「いつか見た光景にそっくりじゃないか?」
「武器を捨てて投降しろ! 今回はあの時と違って人質もいない、ここは通さんぞ!」
「ハッハッハ! そうだな! だが無意味だ」
一気に魔力を集中し、大量の爆裂光弾を生成する。一発一発が一軒家を破壊する威力の破壊魔法だ。それが倍々になって増えていく。一個、二個、四個、八個、十六個、三十二個、六十四個、百二十八個――うん、これくらいで十分か。
「そ、そんなハッタリが……!」
「ハッタリじゃない! 逃げろ!」
魔法使いらしき男が魔法に詳しくなさそうな重装騎士の兜を杖でぶん殴り、脱兎のごとく逃げ出す。それに釣られて隊列が崩れ始めるが、わざわざ待ってやるほど俺はお人好しではない。
俺はな! ヒーローや魔法少女の変身を律儀に見守る綺麗な悪役じゃないんだ!
「フハハハハ! 無駄無駄ァ! 消し飛べぃ!」
乱れかけた隊列の周囲に向かって爆裂光弾の群れが殺到し、耳を劈くような爆発音が連続で空気を揺るがす。直撃させると有無を言わさず消し飛んでしまうので、基本的には周りに着弾させて爆風で吹き飛ばす感じにしておく。もしかしたら死者が出るかもしれないが、この場所は玉座からモロ見えだ。あんまり手加減をすると必要な場面でも敵を殺すことができない腰抜けだと思われかねない。
「うーん、呆気ない」
死屍累々の大惨事になった玉座の間へと歩を進める。高級感が漂っていた白い大理石製の床は爆撃によって無惨に破壊されてしまった。ここで転けたら洒落にならんな。尖った石片とか落ちてるし地味に痛そうだ。
玉座の間を守っていた守備隊は、というと全員が爆風で吹き飛んであちこちに転がっている。見える範囲では四肢がもげたりとかの重傷者はいないようだ。運が良いんだか頑丈なんだかわからんが。
「ぐっ……この程度では」
「シュート!」
「ごはぁ!?」
足元に起き上がりそうな重装騎士がいたので、サッカーをして遊んでおいた。俺キックするから、お前ボールな! ってやつである。俺が行なったのは健全なスポーツ的行為なので卑怯な行為でも外道な行為でもない。いいね?
そのまま歩を進めると玉座の間の様子が顕になってきた。玉座には顔を青くしたレニエード王が座っており、そのすぐ脇には王太子であるメルキスが立っている。他にもゲッペルス王国の重臣達の姿が見えるな。
「やぁ、しばらくぶりだな。落とし前をつけさせてもらいに来たぞ」
柔らかな絨毯を踏み締めながら玉座への間合いを詰める。一歩、二歩、三歩。
「止まれ、下郎」
メルキスが俺を制止する。下郎と来たか。一応は勇魔連邦の主なんですけどね、俺。
「止まってやる義理はこれっぽっちも無いな! 今更言葉で俺を止められると思うかね?」
抜き身のいやしの剣を手首のスナップでくるくると弄びながら歩を進める。玉座までは十メートルと少し。俺にとってはとっくに間合いの内側だが、どうせなら直接剣を突きつけてやったほうが良いだろうか? うん、そうしよう。
「何をするつもりだ。私達を斬り捨てるつもりか? 我々を殺せば、この大陸を混沌の渦に叩き込むことになるぞ。それがお前の望みか?」
「俺の望みじゃなくて、お前達の望みだろ。次に勇魔連邦に手を出せばこうなることはわかりきっていたことだろうに。全力で、なりふり構わず事態の収拾に動いていればこうなることも無かったんだろうにな」
「我々とて手をこまねいていたわけではない。事態の収拾には動いている」
いけしゃあしゃあとよく言うよな。頑張ったから許してくださいってか?
「結果として事態を収集できてないんじゃ何の意味もないな」
「だとしたらどうする? 私達を皆殺しにでもするか?」
「それもいいよな。自分の臣下をコントロールすることもできない王族なんてのは無能以外の何者でもない。居ても居なくても変わらんのではないかな? それに約束を守ることもできないんじゃな……信用することもできやしない」
くるくると弄んでいたいやしの剣を構えて一歩踏み出す。
「信用することができない敵対的な相手への対処方法なんてそう多くないよな。滅ぼすのが一番手っ取り早いと思わないか?」
「もうよい、メルキス。下がれ」
レニエード王の言葉にメルキスは一瞬表情を歪めたが、すぐに元の無表情に戻って一歩下がった。
「なんだ、今度はパパが相手をしてくれるのか?」
「あまりメルキスを挑発せんでやってくれ。あれはお主が相手だとどうにも冷静でいられないようでな」
「俺はあんたもいじめるつもりだがな。どう落とし前をつけるつもりなんだ?」
「今回、勇魔連邦への侵攻を行った反逆者共は必ず血祭りに上げる」
「当然だな。それで?」
「そやつらの資産は賠償として全て勇魔連邦へと支払う。それに加えてゲッペルス王国からも賠償金を支払おう。勇魔連邦が望むのであれば領土の割譲もするが、それは望むまい?」
「そうだな。飛び地なんぞいらんよ。開拓すればいくらでも土地は手に入るんでね」
レニエード王の言葉に頷くと、あちらも俺に頷き返してきた。
「他に何か要求は無いか? 誠心誠意応えよう」
「んじゃ遠慮なく。今、クローバーに侵攻軍の捕虜約七百名を勾留している。そいつらを早急に引き取ってもらいたい。ピドナまでの移送はサービスしてやる、転移門で簡単にできるからな」
「あい分かった。ディルク、即刻手配せよ」
「は……はっ!」
軍務担当らしき重臣が足早に玉座の間から走り去っていく。それを横目で見ながら更なる要求を考える。大森林から拉致した亜人奴隷や捕らえたケンタウロスの引き渡しを求めるか? どれくらいの数になるかわからんし、面倒見きれるかね……? 食糧支援も取り付ければいけないこともないか。
でも、奴隷になって主人と信頼関係や親愛の情を交わしているような人もいるかもしれんな。どうしたもんかね。うーん、偽善ここに極まれりだな。ええい、やるだけやってやらぁ。
「奴隷だ」
「奴隷か。順当であるな。では反逆者の家族や領民を……」
「人間の奴隷は要らん。ケンタウロスを含めた亜人の奴隷をもらう。既に主人が居る奴隷に関してはゲッペルス王国が全て強制的に買い上げろ」
「それは……」
「難しくてもやってもらう。やれ」
もうどうにでもなーれ。帰ったらお姫様三人にぶっ飛ばされそうな気がするけど、俺はやるぜ。面倒くさいことは部下に放り投げるつもりで好き勝手にやるぜ。暴君万歳!
「でもまぁ、一方的に過ぎるのも良くないよな。俺としてもゲッペルス王国に潰れてもらいたいわけじゃない。折角間抜け共が切り開いてくれた道があるんだ。利用しない手は無いだろう? うちは資金や未開発の資源はあるが、生産力に乏しいんだ」
「何だと……?」
「食料や衣料品を始めとした物資を売ってもらいたい。こちらから出せるのは金と、大樹海産の資源だ。細かい内容については後々うちのお姫様達と相談してもらうことになると思うがね」
つまり、今回やらかした地方貴族から接収した金がまたゲッペルス王国に戻るわけだ。無論、勇魔連邦はミスクロニア王国やカレンディル王国とも交易を行うわけだから、その全てがゲッペルス王国に還元されるかは取引次第ってことになるが。
正直に言えば食料を含めた各種物資の自給率が低い今の状況は国家としてかなり危ういが、向こう数十年の間はミスクロニア王国やカレンディル王国との間に決定的な亀裂が入るということは考えにくいし、大樹海には開発さえすれば外に売れる資源が山ほどある。開発が進めば様々な物資の自給率も上がるだろうし、資源も売り払うだけじゃなく加工して輸出できるような基盤が整っていくだろう。それに、大樹海で得られない必需品に関して言えば俺が生きている限りは、という注釈はつくが他の大陸から仕入れることすら可能なのだ。
そんな風に色々と考えている俺をレニエード王は何か気味の悪いものを見るような顔で見つめてきていた。なんだろうか、と小首を傾げる。
「そなたの考えることはよくわからぬ。何故ここで交易の話が出てくるのだ?」
「何故と言われてもな。前にも言っただろう? 他所は他所でよろしくやってもらって、交易の相手になってもらった方が助かるんだよ。本当はこんなことをしている暇があったら国内の発展に時間を使いたいんだ。あんた達といい、奴らといいなんで放っておいてくれないのかね? わざわざ手を出されなけりゃ俺だって領地に引き篭もって嫁達といちゃいちゃしていたいんだぞ」
実に忌々しい。何もかもヴォールト達が悪いんだよな。奴らがちょっかいかけてこなければ俺はずっとクローバーにいたし、そうすりゃゲッペルス王国の貴族やらがクローバーに攻めてくることも無かっただろう。
「ああ、なんか色々と腹が立つやら面倒くさいやらでテンションが下がってきたな。とりあえず要求を纏めるが、首謀者どもをしっかりと処分してその財産を賠償として寄越すこと、それに加えてゲッペルス王国は賠償金を支払うこと。賠償の一環として亜人奴隷を寄越すこと、これには主人がいる者も含まれる。そしてゲッペルス王国は勇魔連邦との交易に応じること、条件に関しては後日相談する。あと、捕虜は本日、日が暮れる頃に城の正門に移送する。こんなところだ、何か言うことはあるか?」
「基本的にすべて呑むことになるのだろうが、賠償金の額など、この場ですぐに決められぬものがある。それに関して後日会談の場を設けるべきだと思うが」
「そいつはごもっとも。では最初の会談を五日後の正午に行うということでどうかな。事前に何か連絡があればお互いにカレンディル王国かミスクロニア王国経由でやるってことで。魔導通信機によるホットラインの設置も検討するべきだな」
「うむ、それで良かろう」
レニエード王が頷いたので、いやしの剣を鞘に収めて歩み寄り、手を差し伸べる。
「ではとりあえずこれでゲッペルス王国との交戦を終了するってことで握手」
「う、うむ」
握手に応じたレニエード王の手を握り、耳元で囁く。
「次に何かあれば問答無用で全て滅ぼしてやる。ゲッペルス王国の全ての主要都市を住人ごと更地に変えてやるから覚悟しておけよ」
顔面蒼白になるレニエード王の肩を軽く叩き、微笑んでから踵を返す。ああ、報告するのが憂鬱だなぁ。クローバーに長距離転移をすべく魔力を集中しながら俺は溜息を吐いた。