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「ねえ、そこに歩いてるお姉さん。こんな風俗街に来たってことは、遊びに来たってことだよね。お姉さんの気持ちもわかるよ。遊びたい盛りだし、講義ばっかりでストレス溜まるもんね。よかったらさ、うちの店で遊んでいかないかな? 格好いいお兄さんが相談に乗ってくれるよ」
結構いい感じのお兄さんでさ、アタシも遊ぼうかと思ったんだけど、いかんせん、お金が掛かりそうだったのよ。お金がまったくなかったわけじゃないんだけど、ホストと話すだけでお金を取られるなんてバカバカしいじゃん? お酒が飲みたいだけだったら、家飲みでいいしさ。そのまま無視して行っちゃおうと思ったんだけどさ、そのお兄さんが食い下がってきたのよ。
「料金だったら心配しないで。最初の一時間は無料でいいよ。タダだよ、タダ。お酒を飲ませてあげるよ」ってまで言うのよ。
まあ、無料だったらいいじゃんって感じで店に入ったのよ。きっかり一時間だけ遊べば無料でしょ? ホスト遊びってさ、実際に体験してみると、かなり面白いのよね。言葉で殴り付ける、人間サンドバッグって感じでさ。やっぱ、お空に向かってブツブツ独り言を言うよりも、人間に対してブツブツ言ったほうが楽しいのよね。こちらの言うことに対して、ぜんぶ肯定的な答えをしてくれるの。ドンペリとかも飲ませもらって、こっちもほろ酔い気分になったけど、やっぱアタシはきっかり一時間で済ませたのよね。延長なんかしないのよ。ホストの陰謀には引っかからないのよ。
帰る間際になって、あのホストがまた言ってきたのよ。「次の一時間も無料でいいよ」ってさ。
そんでさ、次も無料で行って、おしゃべりして、酒飲んで、また「一時間は無料でいい」って、やり取りの繰り返しでさ、悪くはなかったのよ。気晴らしにはなっていたのよ。
ところがさ、アイツら詐欺師だったのよ。アタシが甘かったんじゃないのよ。ホストクラブが詐欺師グループだったのよ。
ある日さ、いつものように一時間だけ遊ぼうと思ったらさ、アイツらいつもと雰囲気が違うのよねえ。怖い感じの人が大勢取り囲んできてさ、ぶっきらぼうに聞いてくるのよ。
「お前、料金を払えるんだろうな?」って。
こっちからしてもさ、「はぁ? なに、言ってんの?」って感じでさ。
ホスト曰く、無料なのはチャージ料だけとか言い始めたのよね。あ、チャージ料って席代みたいなものね。だから、無料なのは席代だけで、飲み物とかオツマミは別料金だと言い始めたのよ。しかも、アタシには七十万円もツケがあるとかほざいたのよ。
もちろん、アタシは払う意志なんてなかったから、さようならと言って店から逃げて、二度とその風俗街には近寄らないって思ったんだけどさ、上手くいかなかったのよ。取り囲まれていたし、なによりもアタシの名前とか大学名とか思いっきり伝えちゃってたのよねえ。ホストのトークに誘導されたのよ。まあ、これはアタシのミスね。個人情報って大事ね。これにはアンタも気をつけてね。どうにしても、逃げられそうになかったのよ。
ホストは払え払え払え払えってしつこいしさ、念書まで書かそうとしたのよ。あまりにもホストが必至すぎて、疑問に思ってあとで調べてみたら、ホストの制度ってマジで面白いのがわかったのよ。
なんでも、女がツケを払えないと、ホスト本人が自腹を切らなくちゃいけなんだってさ。だからさ、ホストってやり方が悪いと、働いてるのに逆に、お金、取られるんだってよ。面白いでしょ? 血走るまで必至になるくらいならば、そんな仕事、辞めちゃえばいいのに。最初っから、そんな仕事、しなきゃいいのに。
ホストってホーントにアッタマ悪いわよねえ。自分が使い捨ての駒だって気づいてないのよ。店が必ず儲かるシステムってのに気づいてないのよ。
こんなんだから、アタシがどうこう言い逃れしたって、アイツら耳を貸さなかったのよ。挙句の果てに、入れ墨を入れた怖い感じの人とか出てきて、「沈めるぞ」とか言い始めてさあ、身の危険も感じたのよねえ。
結局さ、大学の学費として振り込まれていたお金を崩したの。しょうがないじゃない? ホントに怖かったんだもの。
なんとかその場を切り抜けたのはいいんだけど、学費を補填しなきゃならなくなったのよ。七十万円だから、バイトで必至に働いたら、なんとかなりそうな額じゃん? だけど、ホストの阿漕な商売を見てると水商売なんかやりたくないし、風俗嬢なんて論外でしょ。それで、いざ普通のバイトってなると、面倒になってくるのよねえ。だって、どんなに高くても時給千円くらいのバイトしか見つからないんだもの。
アタシもさ、なにか楽して儲かる仕事はないかって、目を皿にして求人情報誌を読んだのよ。端から端まで、片っ端らから調べ上げたのよ。
そしてね、とうとう見つけたのよ。なんと、女の人が活躍する職場で、路上でアンケートを採るだけって内容の、時給三千五百円プラス歩合給のバイトがあったのよ。奇跡のバイトよねえ。
偽の求人とか、嘘の求人かと思って、電話を掛けてみたんだけど、ちゃんと繋がったのよね。おまけに、登録するだけで二万円も貰えるって言うのよ。とにかく面接に来てほしいって言われて、求人打ち切りまぎわとも言われて、アタシは即決したのよ。面接をお願いしますって。
それで、指定された日に、指定場所の合同面接会場であるビルの一室へ足を運んだってわけ。
そこに集まったのは、ほとんどが若い女の人だったわわねえ。ギャルや頭の弱そうな人もチラホラ。
みんながそわそわしていると、ホストより頭が悪そうで、無理してスーツを着ている、金髪の猿が出てきて、全員に着席を促したのよ。
そのとき、アタシの隣に座ったのがケイちゃんなのよ。




