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「メンツだ」
「メンツ?」
「そうだ。メンツだ。文部科学省や行政は、己のメンツを保ちたいから通信制高校の現状を黙認しているのだ」
「サポート体制の不十分な公立通信制や、高卒ビジネスと化している私立通信制を黙認するのが、メンツに繋がるのですか? 万単位の人数がいる幽霊生徒を放置して、莫大な額の税金を投入し続けるのが、文部科学省や行政のメンツに繋がるのですか?」
「繋がるのだ」
「こんなもの、どこをどうすれば繋がるのですか?」
「通信制高校のずさんさや、幽霊生徒問題よりも重要な問題があるからだ」
「これ以上に重要な問題なんて思いつきませんよ」
「それはな、文部科学省よりも、さらに上の問題になるのだ」
「文科省よりも上ですか?」
「そうだ。文科省よりも上だ」
「文部科学省より上となりますと――」
「想像の通りだ」
「国ですか」
「そうだ。国だ。国家だ。日本という国家のメンツの問題だ。国家の威信が掛かっているといってもいい」
「先生は、三波学園だけにはとどまらない問題だと言いましたけど、国家の問題にまで発展するのですか? 通信制高校の現状を放置することと、国家の威信がどう繋がるのですか?」
「国民の学力は、国家の威信に繋がるのだ。国家間の学力調査があるだろう。読解力や数学力などで、ランキングが発表されたりするだろう。国家としては、もちろん上位を取りたい。ほかにも、ノーベル賞などといった高名な賞や、国際○○オリンピックといったものもある。受賞したり上位になれば、国家の威信となるのだ」
「これが国家のメンツですか」
「上位のメンツだ。学力の高い人たちが頑張るものだ。今回の事件である通信制高校は、この上位とは無関係だ」
「それはわかります」
「下の方にもメンツがある。識字率や就学率というやつだな。これらは、なんとしてでも百パーセントにしたいのだ。低いと国家の恥になるからな。ここまでいえば、通信制高校がなんのためのメンツかわかるはずだ」
「下位のメンツで、高校卒業率を上げるため、ですね」
「素晴らしい回答だ。国民の高校卒業率を上げるためだ。そのために、通信制高校の現状を黙認しているのだ。
現在の先進国では、高校卒業率百パーセントが当然となっている。百パーセントが当たり前の状態だ。これ以下になると、メンツを失う。当たり前ができないと笑われるからな。
この流れからして、国は文部科学省に厳命を下すのだ。「国民を必ず高校卒業させるように、高校卒業率を必ず百パーセントにするように」とな。ある意味では、正しい命令といえなくもないが。
お国に厳命のうえに、最低限のノルマであるから、文部科学省は拒否できないわけだ。達成できなければ、国に怒られるし、恥をかく。これが文部科学省のメンツだ。
この流れからして、文科省は各都道府県に厳命を下すのだ。「都道府県民を必ず高校卒業させるように、高校卒業率を必ず百パーセントにするように」とな。
文科省の厳命を受けた都道府県は、大慌てだ。達成できなければ文科省から怒られるし、予算を減らされる。すると、高校に厳命を下すのだ。「生徒を必ず高校卒業させるように、高校卒業率を必ず百パーセントにするように」とな。
都道府県の厳命を受けた高校は大慌てだ。達成できなければ都道府県から怒られるし、査定に響く。なので、教員に厳命を下すのだ。「受け持っている生徒は必ず高校卒業させるように、高校卒業率を必ず百パーセントにするように」とな。
高校側の厳命を受けた教員は、大慌てだ。達成できなければ高校に怒られるし、クビになるかもしれない。だから、なんとかして生徒を卒業させようとするのだ。
ここで問題が起きる。事情を抱えた生徒や、問題を起こす生徒が現れるのだ。経済的なトラブルだったり、イジメだったり、風紀上問題があったりと、あの手この手で教員を困らせるわけだ。
まっとうな教員ならば、親身になって生徒の問題を解決するのだが、指導力不足教員などもいる。
指導力不足教員としても、己の生活があるから、生徒を卒業させられないと困る。退学はもちろん、生徒を留年させた時点で査定が下がるからな。
とはいえ、生徒を卒業まで導く能力もない。では、どうするのかというと、生徒を転入させるのだ。定時制や通信制へとな。
留年しそうな生徒や、退学しそうな生徒に「みんな自主的に転入しているよ、自主的にね」と言いくるめ、転入を強要するのだ。こうすれば、責任から逃れられる。
最終地点が、通信制高校や定時制高校となるわけだ。
莫大な税金がつぎ込まれている幽霊生徒問題や、ずさんな高卒ビジネスが成り立つ理由がわかったはずだ。
もちろん、都道府県や文部科学省は通信制高校の現状を完全に把握している。信じられないようなずさんな実態があるとな。それでも対応はしないのだ。下手に対応して、高校卒業率が下がったら困るからな。数字上百パーセントになれば、それで十分なのだ」
「管轄する行政がこの有様では、だれにも頼れませんね。いったいどうすれば?」
「ヒヒヒヒ」先生、ニヤニヤ。「そんなことよりも、授業料を支払ってくださいよ。教科書代を支払ってくださいよ。実習費を支払ってくださいよ。施設利用料を支払ってくださいよ。教育充実費を支払ってくださいよ。ナントカ費を支払ってくださいよ。本校への学費を支払ってくださいよ。サポート校への学費を支払ってくださいよ。コースの変更なんてどうですよ。週五日制コースなんてありますよ。来年度の学費を払ってくださいよ。払え払え払え払え」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「だれも待ってはくれやしない。学校だけでなく、世間もな。学費だけでなく、生活費も必要だということを忘れるな。家賃を支払え。電気代を支払え。水道代を支払え。ガス代を支払え。交通費を支払え。食費を支払え。払え払え払え払え」
「ひいい。とにかく、お金が必要です。お金を稼がなければ。ええと、アルバイトを探して」
「と、そうなったわけだ」




