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「どんなケースですか?」

「入学した後でも気づかないというケースだ。入学後もサポート校と通信制高校の関係を理解せず、サポート校を正式な高校だと勘違いしたまま通い続ける生徒がいるのだ。サポート校での授業を正規の学校の授業だと勘違いして、延々と通い続けるのだ」

「いくらなんでも、途中で気づくと思いますけど」

「それが、なかなか気づけないのだ。一部のサポート校や通信制高校は、システムを十分に説明しないのだ。サポート校と通信制高校の関係などを、意図的に伏せている校すらある。これらの説明をすると、入学希望者に不信感を抱かれる恐れがあるのだ」

「そうですね。先生がしてくれた通信制高校の実態を聞きますと、入学を躊躇する人も出ますね。サポート校では、通信制高校から学校業務の丸投げが行われていて、雑居ビルのワンフロアで、免許を持っているのか怪しい先生が授業を行っていると知ったら、だれも入学しませんね。違法性すら感じられます」

「実際、違法だ。まあ、とにかく、サポート校を正規の高校と勘違いした生徒は、勘違いしたまま通い続け、勘違いしたまま卒業するのだ。そして、本校から送られてきた卒業証書に知らない校名が書かれている、という事態が起きるのだ。卒業証書に、見たことも、聞いたことも、通ったこともない、まったく知らない高校の校名が書かれていると気づくのだ。実際にこのようなケースが起きているのだ」

「信じられません」

「最後の最後でネタばらしをされているにも関わらず、それに気づけないで、話の最初から最後まで騙され続けて、物事が終わったあとも自分が騙され続けていたとの自覚がないといった、悲惨なケースもあるのだ」

「ここまでくると、騙される方にも問題があるような気がしますけど」

「自分が同じような境遇に陥ったら、そんな風には思えなくなる」

「私は騙されないように気をつけていきます」

「そうするといい」先生は咳払いをした。「と、こんな風にサポート校はやりたい放題の無法地帯となっているのだ。その気になれば、いま、ここで、この場にサポート校を設置することも可能なのだ」

「いいんですか?」

「いいんだよ」と先生はニヤニヤと笑い始めた。「サポート校を開校するのにも、廃校にするのにも、行政からの許可は必要ないんだ。届け出も必要ねえんだ。いま、俺、芝武彦はサポート校、芝学園高等部を開校しました。校舎はここです。病院の待合室です」

「わー、おめでとうございます」と私もニヤニヤ顔で、先生に話を合わせた。

「芝学園高等部は進級率が百パーセントです。卒業率も百パーセントです」

「凄い数字ですね。私、入学しますけど、その数字は本当なんですかー?」

「本当ですよー。進級率百パーセント、卒業率百パーセントは本当です。絶対に卒業できます」

「真面目な話ですけど、本当ですか?」と私は真顔で訊いた。

「本当だ」先生も真顔だ。「サポート校である芝学園高等部の進級率と卒業率が百パーセントなのだ。高校の卒業率とは宣伝していない。高校卒業なんて言ってない」

「詐欺ですよ」

「騙されるほうが悪いんだ。ヒヒヒヒ」と先生はまたニヤニヤ顔を作った。「芝学園高等部では提携する通信制高校を選べます。私立沖縄サンフラワー高等学校、私立北海道南斗火高校、私立烏賊狭間高校の三つから、好きな校を選択できます」

「すごいですねー」と私もまたニヤニヤ顔を作った。「よくわからないので、私立沖縄サンフラワー高等学校を選びますー」

「ヒヒヒヒ。毎度あり。では、実際に通うのは芝学園高等部だけです」

「芝学園高等部に通えば高校の卒業になるんですね?」

「ヒヒヒヒ」先生はニヤニヤ顔を作るだけだった。肯定も否定もしなかった。ニヤニヤするだけだった。「とにかく、授業を始めます。いますぐ授業を始めます。教科は数学です」

「先生は体育教員で、数学の教員免許を持ってないですよね」

「芝学園高等部は学校ではないので、教員免許なんて必要ないのです。ヒヒヒヒ。とにかく授業だ。ヒヒヒヒ。一たす一はなんですか?」

「二です」と私は答えた。

「よくできました。二重丸です。花丸です。はい、これで数学の単位が出ました。成績も俺が付けました。次は国語です」

「相変わらず免許を持っていないんですね」

「いや、俺は免許を持ってるぞ。行政に臨時免許状の申請をしたら、無審査で通ったんだ。だから、俺は立派な国語教員だ」

「あばばばば」

「はい、国語の単位がでましたよ。次は英語です。プリント配るので、自習してください」

「問題集からのコピーですね」

「そーだ」

「"This is a pen."の意味がわからないのですが?」

「俺もわかんねーや。塾や予備校へ行って聞いてくれ。ヒヒヒヒ。ところであなた、映像授業を視聴しましたか? 見るだけで学校の授業が免除される、ファンタスティックでファナティックな映像授業を見ましたか?」

「はい? 映像授業? そんなのがあるんですか?」

「「はい」と答えましたね。つまり、映像授業を視聴したということですね。では、授業が免除されます」

「視聴の確認をしなくていいんですか?」

「生徒が嘘なんてつくはずがねえよ。ヒヒヒヒ。次は携帯電話を使った授業だ」

 先生は携帯電話を投げて寄こした。

 画面には四択問題が表示されていた。


 ××年 大化の改新

 A 123年

 B 2015年

 C 3971年

 D 645年


 Aを選んでみた。

 ×が出た。

 Bを選んでみた。

 ×が出た。

 Cを選んでみた。

 ×が出た。

 Dを選んでみた。

 ○が出た。

 これで単位が出たらしい。


「先生、これが教育ですか?」

「ヒヒヒヒ、これが新しい教育のかたちなんです。新時代の教育なんです」

「宣伝では楽しい特別活動とかがあったようですが?」

「当校では実施しておりません」

「本当に実施している校なんて存在するんですか?」

「ヒヒヒヒ」

「宣伝と実態が違いすぎるのですが」

「そういう校だから、仕方ない。ヒヒヒヒ」

「仕方なくないですよ」

「そういう校だから、仕方ねえんだ。ヒヒヒヒ」

「ヒヒヒヒ」

「ヒヒヒヒ」

「ヒヒヒヒ」

「ヒヒヒヒ。とにかく、これで卒業です」

「授業終わってないですよ。学習指導要領を完全に無視してしましたよ。必修科目も終えていませんよ。特別活動時間三十時間も満たしていないですよ」

「芝学園高等部は学校じゃないんですー。そんなものに従う必要なんてないんですー」

「学校業務を請け負うのは、法に反していますよ」

「違法との認識はないんです。卒業証書が本校である、私立印血鬼高校から送られてきましたー」

「本校は私立沖縄サンフラワー高等学校だったと思うのですが」

「本校は私立沖縄サンフラワー高等学校だったんだけど、トラブルが起きたんだ。芝学園高等部は生徒百人以上も紹介してやったんだから、リベート寄こせって要求したら、突っぱねられたんだ。だから、リベートをくれる私立印血鬼高校に提携先を変えたんだ。お前が二年生のころの話だ。履歴書にも転校したって書いとけ。私立印血鬼高校卒業って書いとけ。ほな、さいなら。言い忘れていたが、学費の納入を忘れないように。規定日までに学費の百万円を支払わなければ法的措置を執ります」

「あり得ないですよ」

「知らんがな」

「違法ですよ」

「違法との認識はないんです」

「違法ですよね?」

「違法との認識はないんです」

「違法との認識がないわけないじゃないですか」

「違法との認識はないんです」

「もう、十分です」

「違法との認識はないんです」

「身をもって理解できました」

「違法との認識はないんです」

「イホウトノニンシキハナインデス」

「違法との認識はないんです」

「違法との認識はないんです」

「違法との認識はないんです」先生はニヤニヤ顔を止めると、真面目な顔に戻った。「これが実態だ」

「想像を絶する状態ですね」

「元をたどれば、原因は広域通信制高校に行き着く。結局は、サポート校みたいな怪しい地方施設に学校業務を丸投げしてる広域通信制高校が問題なのだ」

「そうですね。結論として、広域通信制高校という制度は、問題だらけなのですね?」

「どこにも問題はない。広域通信制高校という制度に問題はないのだ」

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