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「でも、その灰谷とかいう人は、大学を中退したのですよね。高校の教員になるためには免許が必要ですよ。それも、教科ごとに必要です。中退する前に、教員免許状を収得していたのですか? すべての教科をの免許を所持しているそうですが」
「少なからず、普通免許状は所持していない」
「私は免許状の制度を詳しく知りませんよ」
「教員免許について、少し説明しよう。世間的にはあまり知られていないが、教員免許状には複数の種類が存在する。
普通免許状、臨時免許状、特別免許状、特例特別免許状といった種類だ。これらは、法律で定められていて、取得するための制度がある。
まず、普通免許状について説明しよう。世間一般的に教員免許といえば、この普通免許状を差す。得るためには、定められた教職課程を終えたり、教員資格認定試験に合格する必要がある。一種、二種、専修といった細かい区分もあるが、今回は重要ではないから省く。普通免許状はほぼ大学時代に取得するものだと知ってくれればいい。
つぎに、臨時免許状について説明する。この臨時免許状とは、名前の通り臨時的に発行してもらえる免許だ。普通免許状を所持している教員を雇えない場合に限って、利用可能な制度だ。
極まれにだが、免許状を所持している教員を雇えない状況が起きたりする。原因として多いのは、教員の病気や怪我だな。
たとえば、英語の教員が事故を起こし、二ヶ月ほど入院したとしよう。その教員が入院しているあいだ、代理の教員が必要だ。だが、二ヶ月間だけの代理雇用となると、雇われる方も大変だから、応募者がいない。学校は、英語の免許を所持した教員がいない状態に陥る。無免許で教えるわけにもいかない。免許を所持していないと、授業と認められないからな。英語を教える教員がいないまま、時間も過ぎゆく一方。
どうすればいい? そのために、この臨時免許状という制度があるのだ。
この制度を利用して、英語を教える能力を有した国語の先生に、臨時免許状を発行してもらうのだ。法律で認められた制度だから、普通免許状と同等の効力を持っている。正規の授業を行えるのだ。もちろん、発行してもらう教員の能力や、生徒の授業の進捗状況なども十分に考慮する必要があるがな。
基本的には、このような臨時的な使い方が想定されている。
発行してもらうためには、行政の審査が必要だったり、有効期限などもある。また、発行してもらった都道府県内でしか効力を持たないといった制限もある。
臨時免許とは、どうしても教員が雇えない場合に限って、暫定的に発行してもらうことが想定された免許だと覚えてくれ。
最後は、特別免許状と特例特別免許状だ。これらは学校教育の多様化に対応するために設けられた制度だ。社会的な成功を収めた人物や、著名な人物などを教員として活用する目的だ。
たとえば、有名なサッカー選手に体育の特別免許状を発行してもらったり、小説家に国語の免許を発行してもらうようなケースが想定されている。
この特別免許状も臨時免許状と同様の規制がある。行政による審査や、有効期限、発行してもらった都道府県内でしか効力を持たないという制限がある。
説明が長くなったが、ここまで説明すれば灰谷さんが教員免許を所持している理由と、手に入れた手段がわかると思う」
「普通免許状は所持していないが、臨時免許状か特別免許状を所持しているのですね」
「そうだ。灰谷さんのケースでは、臨時免許状を発行してもらっている。いくらなんでも正規の学校が無免許の教員を雇うわけにはいかないからな。教員という身分を付与するために、臨時免許状という制度を悪用したのだ。沖縄サンフラワー高等学校は、無免許の人間を教員に仕立て上げたのだ」
「先生、これは法律に引っかかりそうですよ」
「複数の点で引っかかっている。
まず、制度の利用の点で引っかかる。大前提として、臨時免許状とは普通免許を所持している教員を雇えない場合に限って利用可能な制度なのだ。この時点で、確実に引っかかっている。
次に引っかかるのが、発行してもらう人物の能力だ。灰谷さんが教員としての能力を有しているかは、著しく疑問だ。しかも複数の教科を発行してもらっている状態だ。これも引っかかる。
さらに引っかかるのが、期限だ。さきほど説明したが、臨時免許状には有効期限がある。基本的に三年間しか効力を持たない。灰谷さんは臨時免許を発行してもらってから、三年以上経過している。有効期限を延ばす手続きもあるが、その手続きを行った形跡は見られない。失効した免許状で授業を行っている。これも引っかかる。
地域も引っかかる。説明が重複するが、臨時免許状は発行してもらった都道府県内でしか効力を持たない。灰谷さんが臨時免許を発行してもらった地域は、沖縄県だ。沖縄県内でしか効力を持たないのだ。灰谷さんが勤めているのは、三波学園高等部の笠原校、つまり、東京だ。効力を持たない地域で授業をしている状態だ。これも引っかかる。
これらの複数の点が引っかかっている」
「引っかかりすぎですよ。利用状態、能力、期限、地域。ここまでくると、違法じゃないんですか?」
「違法だ。犯罪だ」
「犯罪なのですか?」
「犯罪だ。免許状の不正発行は、れっきとした犯罪行為だ。民事事件ではなく、刑事罰が問われる。具体的には、教育職員免許法の第二十一条に反する。要約すると、不正に免許を得た者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金となっている」
「それなりに重いのですね」
「書類審査に提出した資料は、嘘まみれだ。文書偽造罪にも引っかかる可能性がある。これも犯罪だ」
「灰谷さんは、警察に逮捕されるような犯罪を犯していると」
「灰谷さんよりも、沖縄サンフラワー高等学校のほうが問題だ。灰谷さん以外の複数の人物にも、大量の免許状を発行してもらっている。常態化しているのだ。不正に免許を発行してもらい、教員を作り上げ、全国規模で展開している三波学園高等部に配置するのだ。組織的で、非常に悪質な犯罪だといえる。刑事告発コースだ」
ここで私の頭の中に疑問が湧いてきた。行政の審査だ。こんなに簡単に免許の審査が通るのだろうか? 大量不正発行は不自然に思われないのだろうか?
「でも先生、臨時免許状を発行してもらうためには、行政の審査が必要なのですよね? 審査の段階で却下されると思いますよ。今回のようなケースですと、発行してもらう回数や、能力審査などで、不審に思われますよ」
「そうあるべきだ」先生は肩をすくめた。「慎重な審査を行うべきだ」
「ザル審査なのですね」と私は、口にしたくないが口にした。「書類さえ整ってあれば、行政側は鵜呑みにすると。言われるがままに免許を発行すると」
「そういうことだ。お役所仕事なのだ」
「こんなインチキ教師が、授業なんか行えるのですか?」
「授業の実態も調査済みだ。あれが授業と言って差し支えなければの話だが」




