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「窮余の策ですか? どんな策を弄しても、「掛布」の名が付いるだけで避けられますよ」
「そうだ。「掛布」の名が足を引っ張っていた。なにをするにも、「掛布」の名に付きまとわれていた。どうすればいい?」
先生の問いに、私は思案した。名前が付きまとっているのだ。どうすればいいのだろう?
ふと、思いついたのは、泉ケイが住んでいたアパートだ。あのアパートにはネームプレートが存在しなかった。泉ケイの隣に住んでいた女も、泉ケイの名すら知らなかったと証言した。
さらに思いついたのは、泉家だ。泉ケイが殺害されたあと、泉家は雲隠れした。その際に、表札を取り外したのだ。泉の名前を消したのだ。
「「掛布」名前を消したのですね」
「少し違う。名前を消したら、名無しになってしまう。どんなものであれ、名前は必要だ。どんな人であれ、どんな組織であれ、名前は付いている。名前がないと困るのだ。新しい名前が必要だった」
「名前を変更したんですね。名前の変更は、悪質な会社の常套手段ですよ。名前だけ変えて言い逃れするつもりだったのですね」
「そうだ。掛布グループは名前を変更したのだ。「掛布」の名を消して、新し名前を付けたのだ。その新しい名前が、そう「長尾」だ。「掛布」グループから、「長尾」グループになったのだ。掛布大学も、長尾大学へと校名を変更した」
「名前はそんなに簡単に変更できるのですか?」
「先ほども説明したが、掛布グループは行政からの天下りを大量に受け入れていた。行政の審査も甘い」
「一応、名前の問題からは逃げられたのですね。胡散臭い体質は変わりませんが」
「次に、長尾グループが直面した問題は、財務体質の改善だ。長尾グループはそれなりに大きい組織だった。勤めている教員や職員が大勢いた。さらに、日本の雇用制度上、簡単にはリストラできなかった。雇用を維持するために、多額の資金が求められていた」
「お金が必要だったのですね」
「三波グループが最初に手を付けたのは、廃校になった校舎と土地の売却だ。掛布小学校、掛布中学校、掛布高校の校舎と土地を売却したのだ。足下を見られて、安く買い叩かれてしまったがな。掛布予備校には買い手が付かなかった。立地条件が悪かったうえに、不景気なのもあった。掛布予備校は全国規模で展開していたので、これも重荷になった。固定資産税などで苦しんだ」
「一時凌ぎですよ。グループの運転資金は足りませんね」
「お前の指摘通りだ。足りなかった。組織を維持するためには、安定的で定期的な収入が必要だ」
「長尾グループの収入源は、長尾大学だけだったのですか?」
「出版事業なども行っていたが、入ってくる金は雀の涙だった」
「ジリ貧ですね」
「本業は学校運営と予備校の運営だ。出版という副業ではやっていけなかった。出版を本業としている会社には、太刀打ちできん」
「本業である、学校の運営以外の手段がなかったと」
「だからこそ、長尾グループは学校の経営を行いたがった。大学以外にも、中学や、高校を運営したがった」
「生徒を集めて、安定的で定期的な収入を得たかったのですね」
「それだけではない。公的な教育機関には、税制面での優遇措置もある。行政からの支援も受けられる」
「成功すれば、美味しい商売ですね」
「儲かる商売だ。長尾グループは、新しく学校を開校するために、起死回生の策を練った。問題となっていたのは、掛布グループのイメージだ。「掛布」のイメージから、なかなか抜け出せなかったのだ。悪質な水増しの印象が延々と付きまとったのだ」
「「掛布」から「長尾」に変更しても、付きまとわれたと」
「インターネットが発展した時代だ。少しでも調べられたら、長尾グループが旧掛布グループであったと、即座に判明する。水増しも発覚する」
「私が受験生の立場であったら、入学希望の学校は入念に調べ上げます」
「そうだ。悪い印象の学校なんか、だれも行きたがらない。人生クラスの問題だ。変な校へ通って、人生を無駄にしたくはない」
「長尾グループは行き詰まりですよ」
「だが、長尾グループは必至に解決を試みた。倒産したら、借金苦や債務に追われて、首をつる人間も出ただろう。文字通り、命懸けだった。その結果、ある奇妙な事実を見つけたのだ」




