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古田さんの自宅。
古田さんは電話を掛けている。三波学園高等部への電話だ。見学を希望する旨を伝えている。もちろん、捜査のための偽の電話だ。古田さんは標準語で話すことを忘れない。
「あの、ウチ、入学を決めました。はい。ですので、見学をしたいと。いつごろ伺えば」
古田さんが電話をしているあいだ、私はいままで調べた情報と、小林君の話を組み合わせた。それらはある程度の繋がりを持ち始めた。
泉ケイはあまり幸福とは言えないな生まれ。泉家からは疎ましく思われていた。中学時代にイジメられて不登校になり、無理矢理ピジョンスクールへ押し込まれた。そこでトラブルが起きた。トラブルは解決したが、泉ケイと泉家は断絶。
つまり、泉ケイは泉家から独立したのだ。泉ケイと泉家の繋がりはなくなったのだ。
泉ケイがひとり暮しをしていた理由も、それが原因だろう。金さえ払えば住めるアパートに住んでいたのも、保証人が見つからなかったからだ。
その後、普通より一年遅れで高校に入学したのだ。一年遅れで全日制高校に入学するのは困難だ。学校側が難色を示すだろうし、雰囲気的に生徒側も通いづらいだろう。となると、残された道は通信制か定時制しかない。泉ケイは通信制高校を選んだのだ。
週刊誌の報道では、泉ケイが通っていた学校は私立三波学園高等部という校名、らしい。あくまでも、校名まで報道していたのは、一冊の週刊誌だけだ。この点は留意すべきだ。
不審に思った古田さんが泉ケイのことを三波学園に問い合わせたものの、即座に電話を切られてしまった。
次に入学希望者を装って資料請求をすると、こんどは宣伝攻勢が始まった。
三波学園の対応の悪さを、都や文科省に伝えると、奇妙な答えが返ってきた。
三波学園高等部という高校は存在しない。
マスコミは三波学園という高校の存在を肯定したが、行政は三波学園という高校の存在を否定したのだ。
矛盾しているのだ。三波学園高等部にはなにかがあるのだ。
三波学園高等部の存在を肯定する証拠を集めて、まとめてみた。
・三波学園へ電話は通じる。現にいまも、古田さんが電話を掛けている。電話の向こうには学園を運営している人間がいるのだ。そして彼らは宣伝熱心だ。
・パンフレットの請求にも即座に応じてくれた。私たちの手元に資料が送られてきたのだ。内容は宣伝ばかりだったが。
・三波学園のホームページは存在する。金を掛けた豪勢な作りのページだ。高い卒業率や有名大学への進学といった、華々しい宣伝が書かれている。
・ホームページの宣伝でも、「通信制高校」「ここで高校を卒業できる」「新しいタイプの学校」と書かれている。
・三波学園は地図上に存在する。風俗街の笠原にある、笠原東十一ビルの二階だ。これ以外にも、三波学園高等部の校舎は日本全国各地に存在するようだ。ほぼすべてが雑居ビルのワンフロアのようだが。
三波学園高等部の存在を否定する証拠を集めて、まとめてみた。
・三波学園へ電話こそ通じるものの、直接見に来てほしいの一点張りだ。ほかになにを訊いても、宣伝しか返ってこない。
・ホームページの宣伝は過剰だと思える。九十八パーセントという卒業率や有名大学へ合格者多数など、違和感を覚えるような宣伝の仕方だ。
・三波学園は地図上に存在しているが、怪しい点が複数見受けられる。風俗街ある雑居ビルのワンフロアを間借りしているだけなのだ。学校法では、学校の設置基準を定めているため、風俗街の雑居ビルのワンフロアに学校の許可が下りるとは考えにくい。
・○のなかに文という高校の地図記号が存在しないのも不可解だ。ほかの高校にはちゃんと地図記号が存在するため、地図の間違いとは考えにくい。
・都と文部科学省が否定したのだ。これは重要だ。公的な行政が三波学園という高校の存在を否定したのだ。
三波学園は存在するのか、存在しないのか、判然としない。情報の矛盾だらけだ。ハッキリ言って、意味がわからない。自分で何度考えても、混乱するばかりだ。
そんな私の黙考を打ち切ったのは、古田さんの声だ。
彼女は電話を終えたようだ。見学のための段取りがついたのだ。
「ウチらで直接行けば、ぜんぶ解決やろ。笠原東十一ビルの二階へ行けば、謎は解ける。胡散臭い怪しい校や。トラブルが起きていたのかもしれん」




