02
「泉さんが死んだんや、殺されてしまったんや」
古田さんは息を切らせながら、声をがなり立てた。手には新聞を持っている。
周囲の同級生が数人、こちらを見ている。好奇心なのだろうか? それとも、私の不祥事を見つけて、内申点を下げようと思っているのだろうか?
「ちょっと、古田さん、静かにしてよ。目立つわ」
古田さんは意に介した様子もなく、私の目の前に新聞を突きつけてきた。
「これ見とくれ。ほら、ここや。泉ケイが殺されたと書いてあるやろ」
新聞を受け取ると、流し読みしてみた。
紙面には、泉ケイが死んだとか書かれている。暴行殺人らしい。転落人生の末路だ。
古田さん相変わらず、声をがなり立てる。
「見てくれたか。泉さんが殺されてしまったことはわかったやろ」
「じゅうぶんにわかったわ」
「この事件はウチらが調べなきゃならんやろ」
「古田さん、落ち着いてよ。殺人事件は警察の仕事よ。こういう仕事は警察に任せておけばいいわ。そもそも、なんで私がこんなことを調べなければならないの?」
「ダメや。ウチらで調べるんや」
ハッキリいって意味がわからない。古田さんはなにを言いたいのだ?
私と古田さんは普通の同級生の間柄だ。いままで、たいしたつきあいはない。
最低限の挨拶はするが、それはあくまでも学校上のつきあいで、とくに親しい間柄ではない。
私が古田さんについて知っていることといえば、眼鏡、三つ編み、方言をしゃべる、これら三つだけだ。
その古田さんが、急に私の元にやってきて、私に殺人事件を調べろと怒鳴るのだ。
私としては困る、というか、困惑する。
そもそも、事件を調べたければ、古田さんが自由に調べればいいのだ。貴重な金と時間を浪費して、ひとりで勝手にやればいい。
泉ケイがどんな人生を送ろうが、私の知ったことではない。どう死のうと、それは当人の勝手だ。
なにより私は忙しい。大学受験を控えて、少しでも勉強をするための時間が惜しい。周りの生徒もみなが、寸暇を惜しんで参考書を読むなり、単語帳を読むなりで、勉強している。
勉強していない奴もいるが、そいつは他人の不祥事を見つけて評価を下げようと、虎視眈々としているのだ。周りの生徒を蹴落としたいのだ。
「あのねえ、古田さん」私はため息をついた。「あなたひとりで自由に調べてくれないかしら。私は忙しいのよ。私をトラブルに巻き込まないでくれる?」
「ウチらで調べるんや」彼女は一歩も譲らない。
「もう授業が始まるわ。あなたも席に着いたほうがいいわよ」
古田さんは怒鳴るのをやめた。
そのかわりに、私の腕を取って、平日の朝の授業前にも関わらず、事件を管轄している村田区警察署にまで電車で無理矢理連ていくこと。これが彼女の返答だった。