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プロローグ 新月の夜に
新月の夜だった。
月のない空の下、彼らの故郷エスプリの貯水池は、暗い水面が深く静かに広がっている。
水際に立つ二つの人影――。
ふたりの男が向かい合っていた。どちらも肩で息をして、切れた唇に血がにじみ、殴り合った拳は赤く腫れていた。
「……どうして、お前はそうなんだ」
「その言葉、そのまま返すよ。あんたは、いつも正しさをかざして、周りのことなんて見えてない」
ひとりが笑って、一歩下がった。踵のすぐ後ろは、もう黒い水だ。
「おい、待て」
伸ばされた手が、相手の手首を掴む。
振りほどこうとした男が体勢を崩し、掴んだ男もろとも、ふたりの影は闇の中に吸い込まれていった。
大きな水音がひとつ。
波紋が消えると、あとには何も残らなかった。
――これは、真実の光の陰で、見えない答えを探し続けた彼らの物語。




