第十五話 足場④
エリックが戦っているころ、榊も別の戦場にいます。
Date: 2016年8月8日 12:15
Location: アマーラ侵攻戦 ポイントエクスレイ北東付近
Person: 榊中尉
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エリックが救出するために分隊を率いる少し前、榊は川岸から少し離れた崩壊した街区で足を止めされていた。
第三小隊は別働で南側の掃討を続けていたが、さっきから敵の動きが妙だった。魔獣の動きがいつもと違って感じられた。退く間合いが妙に揃っている。囮が囮として働いている。さっきまでのワレモノにはなかった粘りがある。
「中尉、3時方向から新手が!」
叫びに反応した時には、すでに遅いくらいだった。横倒しになったバスの陰から飛び出した二体が、M2からの射線を振り切るように壁沿いへと走る。その後ろ、さらに離れた瓦礫の上に、ひときわ大きな影が立っていた。魔獣は周囲の動物が珪素生物の影響により変化したものであるが、これは明らかに違う。そう榊は感じていた。まさか……王の獣というやつか?隕石の周囲にいる護衛のような化け物。
こいつは突然降ってきた。おそらく索敵範囲外から跳躍してきたのだろう。見た瞬間に胃が引き攣る様な異様さだった。四足で走るには胴が長く、二足で立つには前脚が長すぎる。無理に継ぎ合わせたみたいな姿勢だ。関節の数が一目でおかしい。どこで荷重を受けているのか分からず、見ているだけで構造の破綻を見せつけられるような不快さがあった。
黒く硝子化した外殻は焼けて固まったというより、高熱で半溶融した結晶質を無理に層状へ焼き締めたみたいにひび割れ、その割れ目ごとに炉心じみた赤い熱が脈を打つ。頭部からせり上がった結晶の突起は、王冠というより、内部フレームが外装を食い破って露出したように見えた。
周囲の個体は従っているというより、そいつの発する信号に合わせて機械的に位相をそろえるみたいに動いていた。榊は舌打ちした。まさか指揮を執っている?群れが崩れない理由はあれか。そう内心歯嚙みする。であれば優先すべきは何か、考えるまでもない。
『小隊長!やつを落としましょう!あいつがおそらく統率している!』
小隊長のコール大尉は即座に指示を出す。
『アリア!25㎜機関砲をあれに撃ち込め!第三小隊!あの特殊個体を優先して排除する!ハサン!司令部に報告!ウィーティア3を回してもらえるよう依頼しろ、CASを頼め!』
『了解!』
第三車両の砲塔が回る。25㎜機関砲からAPSFDSが王の獣の立っていた瓦礫を叩き、破片を散らした。
だが王の獣は飛ぶというより弾けるように飛び上がり位置を変え、半壊壁の陰へ身を落とす。速い。でかいくせに、速すぎる。
次の瞬間、地面が裂けた。王の獣の前脚が叩きつけられた箇所から、石畳が槍みたいに突き上がり、第三小隊の前衛を跳ね飛ばす。ベフルーズが壁際へ叩きつけられるのが見えた。おそらく魔術師を喰っているのか、魔術めいたものを使っている。
「伏せろ!」
榊は飛び込みながら叫んだ。破片が顔をかすめる。マックスが低く罵り、ラジードが撃ちながら位置を変える。アリアの25㎜がもう一度鳴るが、王の獣はその射線を知っているみたいに半歩早く退き致命打を避けている。マックスが短く指示する
「ジャクソン!グレネードを撃ち込め!」
即座に、姿の消えた半壊壁の際へ榴弾が叩き込まれる。爆炎と破片が噴く。だが、足止めにもならない。
「ウィーティア3、狙撃を頼む。標的をIRレーザーでマーク。デンジャークロース。クリアードホット」
無線の返答は短かった。
『IRレーザーを確認した。クリアードホット了解。目標を目視。デンジャークロース。』
詠唱の間を一瞬明け、空から鋭い雷のような光が崩れかけた壁ごと王の獣の肩口を抉りとる。腕部がほぼ取れかけているが完全には止まらない。しかし、一拍だけ硬直する。その一拍で十分だった。25㎜機関砲からAPSFDS弾が立て続けに発射される。強烈な慣性エネルギーに、王の獣と言えどもたたらを踏む。
榊は ウィーティア3の詠唱が始まった段階で、すでに自分の詠唱も走らせていた。
「地底の炭脈に眠るは、不倒の巨神の拳骨。古き石どもの声を聴け、魔を帯びし白銀を交えよ、白銀よ交われ。漠砂よ集え、縫えよ、留めよ、灼熱の楔――焼砂杭!」
連携で稼いだわずかな間に、榊はさらに魔力を練り込む。今回の侵攻で、25㎜機関砲の弾頭には魔力と馴染みのいい素材を混ぜた新型弾が試験配備されたらしい。確証はない。だが、王の獣の足元で砕けた弾体には、いつもの鉄と違う馴染みがあった。
榊はそれを周囲の砂礫とまとめ、即席の焼結材へ混ぜ込んだ。灼けた砂礫の杭が、王の獣の踏み込んだ足の下から突き上がる。巨体がよろける。さらに25㎜が横腹を削り、結晶片が飛び散った。王の獣は唸り声とも金属音ともつかない声を上げ、前脚を振り下ろす。榊は半身でかわし即座に立ち上がり銃撃を加えながら後退する。
「中尉!」
ラジードの声。次撃が来る。
榊は触媒を使用し焼砂錐を短く詠唱する。ウィーティア3の狙撃が命中した箇所へとさらに叩き込む。威力は落ちるが連続した痛打に王の獣はたまらずに大きく後ろに跳躍する。それ動きを呼んでいたトマスの狙撃と、再びアリアの的確な25㎜の連射が着地と同時に食い込む。衝撃により片腕が砕け飛ぶ。これなら押し切れる、そう考えた時だった。
王の獣は絶叫を上げ、高周波のような甲高い音を路地裏にまで響かせた。周囲の兵士はたまらず耳を抑えうずくまる。直後、まるで犬笛を吹いたかのように数匹のマザリモノが現れる。
「アリレザー、アレックス、マザリモノを抑えろ!あの化け物への注意を怠るな!」
マックスの怒鳴り声が飛ぶ。二丁の機関銃が横を向き新たに表れたマザリモノへ銃弾を叩き込む。
それにより、射線が分散したため王の獣が再び動き出す。乾いた破裂音が響いた。王の獣が取れかけた腕の一部を変形させ射出したのだった。
第一車両の兵員室側面に、拳大の穴が空いていた。反対側の壁面にも同じ穴。槍が車体を貫通していた。APSFDSにも似た貫通力だが、幸いにも貫通力が高すぎたためか、むしろ被害としては軽微だった。
『第一車両、貫通あり。乗員なし。内部損害、軽微』
報告は短い。幸運だった、とは榊は思わなかった。狙って撃った。しかし、あちらも万全とは言えない。榊はそう思い弾倉を交換し再び銃口を向ける。
その時、王の獣の目のないはずの顔がウィーティア3を目線で追っている気がした。
――まさか。そう思った時には遅かった。関節の多い不気味な手の先がパキパキと音を立て鋭く変形していく。
その鋭い切先を上空で旋回するウィーティア3のMH-6に向ける。
「よけろ!!」
とっさに叫んだが間に合わない。射出された腕の一部は高速で飛翔し、MH-6のテールローターの一部を削りとる。
『ウィーティア3被弾!メーデー、メーデー!墜落する!』
その通信の後、テールローターが吹き飛び、魔術師とパイロットが飛び出したのが見えた。
コール小隊長が叫ぶ
「これ以上好きにさせておくな!ここで叩くぞ!」
強敵は大体初回は倒しきれない。次回はCSARに向かうエリック回。




