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ダイバーシティ・ジャパネスク  作者: 月美 結満
ダイバーシティ制度
12/24

八月十五日

二十一年前の今日、八月十五日の午後三時十五分 ー


東京第一地区の繁華街、「烏通」、そして西側のオフィス街にある飲食店街、通称「煉瓦通り」で、甘い香りのするガスが撒かれた。


『何だっけ、ほら、あの、ストロベリーアイスクリームみたいな匂い?みたいな?』


当時、報道カメラの前でこう証言した男性の動画は瞬く間に拡散され、“ストロベリーガス” というネットスラングが定着する。


そしていつしか、ネットスラングから国が認めた兵器名へと昇格した。


殺傷能力は高い。


しかし不思議なもので、死亡、または後遺症が残るほどの被害にあったのは、四十代中頃から先の世代が多く、二十代、さらに十代からもっと幼い世代の死亡者数は数えられるものであった。


そしてその一年後、現場にいた児童に異変が起こった。


感覚が過敏、又は、鈍感になる児童が続出する。


心的外傷後ストレス障害ではないかと推測する専門家もいた。確かに、不眠、夜泣き、夜尿に悩まされた子も少なくはない。


そしてその異変の中でも、十五歳くらいまでの子共が多く訴えたのは、立てなくなるほどの頭痛であった。


当時、被害に遭った子供達の症状には共通点がある。


一、二週間ほど頭痛に悩まされるが、ピタリと落ち着いたと言う。

すると頭が冴え、体もアップグレードされたみたいに良く動くと言うのだ。


国は子供達の経過を観察した。

そしてニ年後、症状の統計を国民に向けて発表する。


ガスを吸った殆どの子に、身体能力向上と、その他能力の向上が著しくみられた。


東京第七地区に拠点を置く、TMテレビの地下二階の資料室に風間はいた。


長テーブルに端っこで、二十一年前の映像を観漁っている。


手帳に走り書きをし、ブツブツと言い出した。


「違う違う、これは模倣なんかじゃない…今回も前回と同じ…ボツリヌス検出…空気中での増殖は難しい…カプセル内に成分残置あり…だけど今の技術では解明困難…ストロベリーを産み出した主犯格は今だに口を割らない…だから死刑執行に踏み切れない…」


目頭を押さえ、映像を止める。


テレビ局員のみが利用できる過去の映像検索ツールに、「五月三日 烏通上空」と検索をかけた。


十数件ヒットした中の、まだ世に出回っていない映像ファイルをクリックする。


その映像は、事件発生から七分後の烏通をカメラが捉えていた。


徐々にズームしていくと同時に、風間は口を結び、顔を顰めていく。


そこに映っていたのは、さっきまで観光を楽しんでいた筈の、海を渡って来た親子であった。苦しみ悶える父の横で、七、八歳ほどの男の子が泣き叫びながら助けを求めている。


風間は爪を噛んだ。


別角度から撮ったこの映像は、刺激が強いと判断されたのだと悟った。


腹の底から沸き立つ怒りを感じる。恐らくここで映像を止めなければ、やり場の無い怒りを画面にぶつけてしまう。


風間はパソコンを閉じようと、上蓋に手をかけた時だ。

映像に現れたのは、ミニのワンピースを着た一人の女性である。


父親は悶える事すら出来なくなり、意識を手放していた。


その女性は手際良く胸骨圧迫を開始する。


手根に自分の全体重をかけ、髪を乱しながら何度も何度も胸部を押し込んでいた。


圧迫を続けながら、男の子に声をかける。


その女性の声かけに、男の子は落ち着きを取り戻したのか、腕で涙を拭い、意識のない父親に向かって何かを呼びかけていた。


そこで映像は終わった。


風間は映像を巻き戻し、女性の顔を拡大する。

俯瞰からの映像ではハッキリとした特徴はわからない。


自身の携帯を取り出し、パソコンにレンズを向け、女性の顔を写真に撮った。


風間は電話をかけだす。


「もしもし。えぇ。 それより、

 さっき送った映像は役に立ちました?」


風間の細い指が、パソコン越しの女性の頬をなぞった。

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