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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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終章 『下弦の月』 その2



 そしてペルが十四才を迎えた年、遂に森林国家のミタンとトルクそして『森の兵団』の同盟軍が『春の森』側から、更にはシュメリア軍が神殿の前面から『魔月の神殿』を包囲し,落城を迫った。


 ところが同盟軍の背後から援軍としてやって来たはずのシュメリア国軍が突如、『魔月』側に寝返り、反対に包囲される形になった。

 退路を断たれた同盟軍は一気に神殿内に突入し、後の世に言う『禁断の塔の戦い』が勃発した。

 

 しかしその戦いの模様はあまりにも悲惨で、その戦いに至るまでを綴ったという『禁断の塔の戦いへの叙事詩』にさえ詳しくは述べられていない。

 と云うのは、語る者達、つまり実際に参戦した双方の兵士の多くが壮絶な戦いの中で命を落としたからだ。そして更に悲惨なことには、生き延びた者達の多くも二度と正気の世界に戻ることはなかった。


 その後も、謎めいた『魔月』と結託して全ての森林国家を敵に回したシュメリアとの戦いは続き、また主要地域の占領などで被害の及んだ周辺国家の参戦などもあり、その戦火は未だ拡大する一方で、一向に終息に向かう気配はない。

 特に、曾てぺルも一年あまりを過ごした、あの美しかった『春の森』が全て灰燼に帰してしまった事は最大の悲劇の一つだった。


 その僅か四年の間に、ミタンではペルの父親であるバティ皇太子を初めとして、継承権のある者はことごとく戦いの中に没した。

 

 何度もその勇敢な戦い振りを称賛されたバティ将軍がその出陣のたびに、見送る大勢の人々を振り返ると、いつものように魅力的な微笑を浮かべて・・。


「じゃ、行って来るわ」


 と、最後までそのお気楽ぶりを崩さなかった様子は今では人々の語り草で、思い出すたびに皆、思わず笑顔が浮かぶ。なのに、その頬に伝うものは止められない。

 勇壮な軍隊を誇るミタンでは、将校の地位にある者が率先してその規範を示す傾向が伝統的にあったのだ。そしてまた優秀な士官、兵士達の多くも命を落とした。


 そう云った悲劇が、いくら剛毅な気風とはいえ、ミタン国王の気力も衰えさせたのか国王クルはつい先頃、心臓の発作で急逝した。


 

 そして今日、ペルは国王の座に着く。若く機知に富んだ女王の登場は、いつ終わるとも知れぬ戦争で疲弊している民の心に僅かだが希望の火を灯しはした・・。


 コツ、コツ、コツ・・。

 

 部屋の外に義足の音が響いた。


「ペルさま・・いや、陛下・・」

 

 カンが姿を現した。『魔月の神殿』の戦いの生き残り。狂気を免れた希有な軍人・・。


「カン・・」


 カンは、戴冠式の盛装姿の若き国王の姿をジッと見つめた。

 

 ミタンの山と森を表す美しい緑色のローブに、ミタン軍の象徴である銀の弓矢を持ち、また輝く剣をも携えている。〝魔月〟の力を打ち砕く剣として、『レニの谷』で打たれ研がれたものだ。


 カンは乳母のレタのようなことは何も言わない。

 大きな後ろ楯を次々と失い、わずか十八才の若さでミタンの民と共に未曾有の状況を耐え、克服して行かなければならない国王に、自分の気持ちは全て伝わっていることは分かっていたからだ。


 美しい碧と藍の宝石を散りばめた豪華な装身具の中にあっては些か不釣り合いとも思えるものが、新国王の盛装の胸元にあった。

 曾て結婚の祝いとしてカンが贈った二枚の銀の飾り。その霊力が沈黙した今、それはただ胸元の飾りとなっている。

 しかしそこに秘められた古代文字は、ミタンの名門と『レニの谷』の一族の血を引くカンの義なき敵に対する戦いの気概を表している。


〝・・これが、お祝いの言葉なの〟


 曾て、まだ八才だったペルが言った言葉・・確かにそこに彫られた言葉は、結婚の祝福の言葉としてはそぐわないものだった。


 カンも当時、何故、レ二の秘めたる伝説・・『炎の戦士』云々の言葉をぺルに贈ったのか、自分でも判然としなかった。

 ・・ただ、その頃は、時折、ふと蘇る少年期の記憶が語るその言葉が・・心の中に渦巻いていた。

 それでまだ小さな少女にしては、ただ可愛いだけではない〝お友だち〟ぺルに、語りたかったのかも知れない、その心の内を・・その後の状況を予見していたかのような、その言葉を・・。



 それから暫くして、ペルは同盟国トルクの王子ドリュを夫として迎えた。

 父王の生前、トルクからの特使としてやって来たハンサムな王子に、ペルは一目で恋をした。

 そしてドリュの方も、機知に富んで魅力的なペルに心を寄せた。


 そしてそれは、時が経つに連れ・・共に戦時下の厳しい状況を凌ぐことで、分かつ事の出来ない同志的な愛情に変わって行った・・。


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