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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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終章 『下弦の月』 その1



 九年後・・。


「・・さあ・・これでお支度が整いました」

 そう言うとレタは少し下がって、赤ん坊の頃から慈しんで育てて来た王女の盛装を眺めた。


「まあ・・なんてご立派な・・」

 そう言うとレタは言葉を切った。

 

 祝いの日に涙は禁物だが、どんな鋼の心臓の持ち主でもこの日のペルの盛装の経緯を思うと、それを抑えることは簡単ではなかっただろう。

 今日、まだ十八才のペルは、ミタン王国の女王として即位するのだ。


 カンとダシュンと共に、『月の神殿』を抜け出した日から九年が経っていた。

 しかし当時九才のペルにとっては、その後の年月はその何倍にも感じられるものだった。


 

 シャラが姿を消した後、ミタン軍は一挙に『月の神殿』に突入しようとした。

 ところが、カン達が脱出した直後、地下道の一部で激しい崩落が起こり、『春の森』からの侵入が困難となった。

 またシャラ捕縛のため派遣されたシュメリア軍も、シャラの死亡とぺル姫の救出を以て全ての解決はみたと云う見解で、兵を引き上げて行った。


 そして、すべてはシャラの妄想から生まれた出来事でもあったかのように、『魔月の三角地帯』に開く扉などという話も戯言として片づけられる事となった。



 その後、『月の神殿』は再び主神殿の管轄下に置かれ、『魔月』の神官と目された者達は一掃された。

 

 暫くして大神官バシュアが急逝し、新しい大神官に王宮政府からの信任の厚いダナンが選ばれた。

 就任するやいなや、ダナンは主神殿の改革に乗り出した。


「・・重要な『月の神殿』を奪われ、その権勢を二分するに至ったその要因は、長年、総本山としての権威に胡坐を掻き、各派の動行をすべて些末なことと見做して来た主神殿の体質にこそあったのだ。故にこれまでの全ての責任は、長年この主神殿を牛耳ってきた前大神官バシュアにある・・」


 そして主流派であったバシュア派上級神官達は皆、些細な事を理由に次々とその地位を失い、追放の憂き目にあった。


 更に、真の神の僕として生まれ変わるため、すべての神官に改めてその厳しい修行を一からやり直すことを課した。

 その修業の場として何処よりも相応しいとして選ばれたのが、苦難の時を経て新たな再生を果たした『月の神殿』だった。


 ・・そして遥か都を離れたその岩窟の神殿では、再び『魔月』が息を吹き返して行く。

 何故なら、シャラ亡き後も密かに棲息していた魔窟の見えない力は・・未だ迷宮のそこここに蠢き、神官達の中に混じって潜む幾何かの『魔月』の徒を待ち受けていたからだ。


 それは闇の修行によって密かに顕在化し、更なる力を得てゆく。

 そんな『魔月』の僕達は、新来の神官達をも巧妙にその罠へと誘い、僅かな間に神殿は再び『魔月』の巣窟へと変わって行った。


〝・・拒む者には拷問を、逃亡者には死を・・!反『魔月』に対する粛清を以て・・〟


 そんな魔窟に渦巻く負のエネルギーは、犠牲になった者達の血と怨嗟の念でより強まり、更なる膨大な魔核を生み出して行く。


 それ故、聖なる『月の神殿』は自ずから『魔月の神殿』へと変容し・・何度も『魔月の宴』を重ねることで神殿内の魔力を徐々に高めて行き、その力で全ての神官達を自然に取り込み、最終的に『魔年』の到来で『魔月』の神殿へと変わる・・と云う、曾てのシャラの悠長な計画が何とも軟弱なものに思われるほどだった。


 そんな不穏な動きに、未だ残るシャラの影響を知った各派の神官達は、徹底的な『魔月』の一掃を求めて聖なる月の系譜シュメリア王室に協力を求めた。

 それに対し王宮は、国軍を以て『月の神殿』のみならず、国中から仇敵シャラの残党を一掃する事を約束した。



 そして、曾てその血の祭壇に密かに捧げられるはずだったペルが十一才を迎えたその年、その〝力〟が最高潮に達するという『魔年』を迎える。


 その年の『魔月の宴』で遂に、曾ての『月の宮殿』跡と『月の神殿』、そして未だその所在は不明のままだが・・『月の王宮』が、夫々『魔月の宮殿』、『魔月の神殿』、『魔月の王宮』へと変わり・・その三ヶ所を繋ぐ広大な領域に死者の棲む異界への扉が開かれる・・はずだったのだが、シャラ亡き後の極めて過酷なエネルギーの集約によってか奇怪なる『魔月』の力に亀裂が生じ、三角地帯は不完全な形に終わる。

 それでも、その亀裂は僅かにその地帯をこの世界から切り離したようで、以後、様々な怪異が起こり始める。


 しかし一番の問題は、そこに広がる美しい緑の沃野が次々と枯れ、不毛の大地に変わってしまった事だった。広大な三角地帯の水脈がすべて絶たれてしまったのだ。

 まるで不均衡な亀裂から這い出した亡者達が至るところを徘徊しては、その生命なき足跡で生ある物を全て踏み枯らしているかのようだった。



 その後も『魔月』の影響は広く周辺に及び、多くの森林地域で突然、人が消えてしまうと云うような出来事が頻発するようになった。


 森の各地から神殿に続く地下道は、ミタンと『森の兵団』によってすべて塞がれ、その後も警戒を怠ることはなかった。

 しかし、新たに巧妙な手口で幾つもの地下道が張り巡らされ、そこから『魔月』のモグラ兵達が自由に出入りしては、各地に甚大な被害をもたらしていた。


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