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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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第十二章 『月の戯れ』 その3



 サアラは、村のテンドの家にいた。サアラの住む森の外れには、危険が迫っているという。

 皆、彼女に対して、まるで傷ついた小鳥を大切に保護しているかのように接していた。

 少女の頃以来、村人達がサアラの素顔を目にしたのは久し振りのことだった。

 ・・そんなサアラを見る村人達の目の中には、賛美の色と共に、何か不思議そうな表情が浮かぶ・・けれど、皆、何かを憚るようにその思いを胸に仕舞い込む。


 

 そんなテンドの家族と村人達の優しい監視の目から何とか隙をみて抜け出したサアラは、泉に向かっていた。

 ・・シャールに会いたかった。もう暫く会っていない。

 例え会えなくても、泉に行ったら少しは近くにいるような気がする。


 ・・シャールに会いたい・・シャールに会いたい・・。


 このままずっと会えなくなるのでは・・と云う、得もいわれぬ不安に苛まれていた。会えなくなる前に、会えなくなる前に・・渇くような想いを胸に泉に急いだ。煤を塗るのを止めたその頬を、薔薇色に上気させて・・。



「サアラ・・夢を語って・・」

 シャラが、泉の辺で眠るサアラの耳元に囁く。


 サアラは語る、眠りの中で。

 ・・ところが、今宵のシャラはちょっとヘン。いつもなら、サアラの語る夢の話を熱心に聞いているはずなのに、ふっと我に却って気づく・・ぼんやりと耳を傾けているだけ。・・これでは、大事な話を聞き逃してしまう。


 月の光が映す・・滑らかな頬と唇・・閉じたまつ毛、額の巻毛。静かに波打つ胸、流れるような体の曲線・・よく知っているはずなのに・・それから・・と囁きながら、殆ど何も聞いていない。大事なサアラの夢の話を・・。


 そのサアラが目覚めた。夢を語る途中で。そんな事は、これまた初めてのこと・・。


「サアラ・・」

「・・・」


 暫くジッと見詰めていたサアラは・・魅惑的な微笑を見せると、些か困惑の入り混じった表情を浮かべる恋人にそっと優しく口づけし・・そのまま、しっかりと抱き合っている二人の耳に、すぐ近くで踏まれた小枝の割れるような音が聞こえた。


 振り返ると、すぐ近くに若い女が立っていた。

 しばらくの間・・三人は、お互いをジッと見つめ合っていた。

 特にシャラは、二人の女を交互に・・。


 が、その若い女は突然逃げるように、もと来た道に駆け出した。

 それから事の次第を把握したシャラは、急いでその女の後を追いかけた。


「サアラ・・!」

 

 すぐに追いついて抱きとめると、再び泉の淵に連れ戻した。


 そこには・・褐色の長い髪をゆるりと纏めあげた美しい女が、二人が戻って来るのを待っていた。


「・・どういうことです。女王さま・・」

 

 リデンはニッコリ微笑みを見せた。


「この間も、貴女ですか・・」

「ええ・・」

「何が目的です・・誇り高き『精霊の森』の主が、こんなお戯れとは・・」

「まあ・・今日はちょっと、行きがかりじょう」

 言いたいことを抑えているようなサアラの表情に、リデンは優しく微笑みを送った。


「ただ直接、私から〝夢〟を語っただけ。盗まれる前に・・」

「なるほど・・」

 納得したように、シャラは言った。


「では、この間の夢も正夢になると・・」

「それは、貴方しだい・・」

「なるほど・・」

 リデンは真っ直ぐにシャラを見つめて言った。


「今からでも、もちろん遅くはないわ。・・いえ、まだ何も始まっていないに同じ。今直ぐ、止めることさえ出来たら。・・目を覚まして、シャラ。全てが崩壊してしまうわ・・もちろん、貴方もよ。貴方は、ただ影に過ぎないのだから・・」

 

 シャラは『精霊の森』の女王は、自分の事を一体どこまで知っているのだろうかと訝った。


 全てが崩壊する・・影に過ぎない・・そんな危惧と挑発の言葉に、シャラの心の中には何も・・怒りも何も起こらない。ただ、それならそうだ・・と云った、至って勤勉な、任務を墜行するためには如何にすべきかと云う事だけを考えている戦略家のような意識が動いているだけ・・。


 そんな相手の意識の内を読んだかのように・・リデンは思う。


 ・・双子の妹の愛しい人は、ハンサムで魅力的だけど・・その心の迷宮は・・ただの・・廃屋・・。


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