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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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第十二章 『月の戯れ』 その2

 


 その日の夜半過ぎ・・篝火が焚かれた王宮のテラスで、シュラ王は使節団の話に耳を傾けていた。


 病後のためか、その顔色はやや青白かった。が、王の態度は真摯で、曾て〝狂王〟などと揶揄されたようなところは微塵もない。

 頭を被衣で覆い、長いローブをゆったりと纏った姿は得も云えず優美で・・篝火を遠ざけた瞳が深い英知の色合いを現わしていた。


 その姿に特使達は、皆、王に関する様々な疑念など忘れてしまう程だった。


「・・我が王宮政府も、ずっとシャラの行方を追っておりました。・・今回、貴国の方々の熱心な捜索で、その謀反人の所在を明らかにして頂いたことに心から感謝いたします。シャラの拿捕につきましては、何よりも姫君の身の安全が第一でございますから・・我が国は全て貴国の計画に従いましょう・・」


 前回、婚礼の一行として王に謁見した使節団の何人かは、その時に比べても更にしっかりとした態度の変化に明らかな違いを感じた。王の悔悛の情は、やはり本物だったようだ。

 使節団はそんな王に、問題の三角地帯について尋ねた。


「・・我が王朝の始祖である『月の一族』の古王朝時代・・勿論、貴国のミタンもその尊い流れを汲んでおられますが・・王都の宮は、『月の王宮』と呼ばれていたとのこと。只、現在のこの王宮は後に新たに建立されたものゆえ、その曾ての王宮の確かな所在は私も存じてはおりません・・。いずれにせよ、シャラがそのような計画を本気で実行しているというなら、その『魔月』とやらの三角地帯には軍を常駐させて警戒を怠らないよう致しましょう。・・勿論、貴国が調査なりを行う場合は全面的に協力いたします」


 そう前回とは打って変わった実務的な采配を見せて、今後の計画について話し合った。

 そして、その場で直ぐに国軍の指揮官に『月の神殿』への派遣を命じた。

 更に、主神殿の長バシュア大神官にも謁見したいと言う一行の求めに応じて、快くその機会を取り計らってくれた。


 

 大神官バシュアは、『月の神殿』の動向については以前から危惧を抱き、それなりの対策を講じていた。ところが、そのために送り込んだ直属の部下達の消息が途切れ、更には神殿の方で主神殿からの神官達の受け入れを拒絶するようになった。

 そのため、今では断絶状態に等しい神殿は完全に謎の勢力に乗っ取られた形だという。

 ・・そんな数々の重要な情報を手に入れ、使節団はシュメリアを後にした。


 

 その今や主神殿の力も及ばぬ『月の神殿』では・・シャラの予想した通り、『魔月の儀』としてペルを台座に据えてからその力は驚くほど強まっていた。

 もし一年余り前に据えていたら、ペルを受体とする〝力〟の方が強すぎて均衡を欠き、何かしらの支障が出たはずだ。今やっとその〝力〟に対しての神官達の力が追いついたのだ。

 そして二年後の『魔年』を迎えたところで・・ペルは、その『魔月の祭壇』に捧げられる。



 ・・その日も『魔月の儀』の間中、ペルは目を閉じて神官達の唱和する声の波動に揺られていた。

 その波は洞窟の壁に反響して更に強まり・・波にたゆとう小舟に乗って幻と現の川をさ迷っていた。まるで渓谷の河を眠りのうちに渡っていた時のように・・。

 ・・あの河の中から伝わって来た波動は、シャールを呼んでいた・・深い、深い水の底から。

 そして・・あの焼き尽くすような熱は、更により深い地中からやって来た。


 『忘却の泉』で思い出し、そして忘れて行くこと・・。どうやって、ここにやって来たのかは覚えていない。なぜ、ここにやって来たのかも・・。

 そして・・『春の森』の泉で眠っている間、断続的にみていた夢・・狼・・銀色の狼・・。


 ペルは・・静かに目を開けた。辺りはしんと静まり返っている。

 その日の儀は既に済み、神官達も皆、去っていた。篝火は落ち、辺りは薄暗い。

 ・・そのまま静かに高い天空を眺める。・・日々、眠りが長くなってゆく。


 その時、何かの気配に視線が落ちた。その先に男の姿があった。

 ペルは、ジッと見つめる・・。


(・・狼・・銀色の狼・・)


 

 ・・そんなぺルに、シャラは聞いてみたかった。

 どこまで忘れたのか・・と、同時に、自らも心の迷宮をさ迷っていた。


 月は欠け、また育ち・・『魔月』は、巡って来るけれど。

 ・・サアラの夢が語ること、『月の鏡』が映すもの・・。『魔年』への準備は着々と進み、ミタンへも『春の森』へも、密かに地下を巡る路が通じ・・その迷路の数を増やしているけれど・・。

 でも、そこに自分はいない・・何処にも・・。

 

 ・・そんな森の中にも、夢の中にも、鏡の中にも、そして、この自らが作り上げた『魔月の神殿』の中にさえ・・。ペルの中で、一つずつ消えて行く記憶の中にだけ存在する者のように・・。そして、いつか自らも・・その『赤い月の酒』として祭壇に捧げられる・・。



 ・・『月の宮殿』での日々・・熱が奪った記憶を冷たい泉の水が呼び起こす・・父上、母上、レタ、カン、ダシュン・・赤い人達、デュラ、シャラ・・銀髪の狼・・銀色・・銀の・・透かし模様・・。


〝・・この意味は、婚礼の日に・・。私からのお祝いです・・〟

 

 ・・カンからの贈り物・・私は・・ミタンの王女、私の名前は・・ペル。透かし模様の意味・・覚えていない・・でも、カンに何て言ったかは覚えてる・・。


〝・・これが、お祝いの言葉なの・・?〟

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