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レースの終わりにて

 見事、竜誕祭のレースに勝つことが出来た俺は無事にエクレアと無事に旅を続けられる事が可能となった。ライアン王子は割と簡単に引き下がってくれた。


 結局、ノービスが素直に気持ちをライアンに伝えた。ライアンもずっと近くにいた幼馴染の気持ちに答えたみたいだ。


 よかったね。俺は全然よくねえけどな、お前らが最初からくっついていればもっと早く話が済んだじゃねえか。


 俺達の目の前に現れたライアンはまるで付き物が落ちたかのような顔をしていた。身を固める男の顔と言った所だろうか。まあ、丸く収まる所で収まったんじゃねえかな。


「その、なんだ。色々と世話になったな」


「少し見ないうちに随分と態度が小さくなったな。それが、悪い事だとは言わねえけどな」


「自分でもよくわかりませんが、私もノービスとの結婚で身を固める決意が出来たって所でしょうか。結局の所、私は聖女様と結婚したかったわけではなく。アステリオンを守るのに彼女を利用しようとしていただけのようですね」


 魔王がどうのと暴れている時代だ。国の一番偉い人間が国の事を考えてでも身を固めようとするのは自然な事だろう。


 ライアンも国の事を思っての行動だったみたいだな。俺は心広いから許してやるとしますか。


「まっ、いいんじゃねえか。これからはノービスと二人仲良く達者で暮らせよ」


「ああ、一生大切にすると誓おう。ところで、二人は土の宝玉を探しているという話で間違いはないか?」


「んっ、そうだな。もしかして、土の宝玉のある場所を知っているのか?」


 そう言えばそうだったな。土の大地に渡ってからはジークのお願いでアステリオンに来て、そっからはずっとエクレアの取り合いをしていたもんな。


 土の宝玉の事なんて頭から抜けていた気がする。


「君達が探しているお目当ての土の宝玉は、間違いなく豊穣の土地ユラシャにあるだろう」


「言い切るな。その場所にあるって言う自信があるようだな」


「ユラシャにあるのは間違いない。我々アステリオンは魔王が現れる前はユラシャと土の宝玉を巡って争いあっていたからな。今はそれどころではなくなってしまいましたが」


 争っていたつーと、ようは戦争状態だったみたいなもんか。まあ、よくある話ではあるな。争いあう二つの国に共通の敵が出てきて、争うのを辞めるって話だ。


 強大な敵が現れたら、小競り合いなんてしてる場合じゃなくなっちまうしな。


「情報提供感謝する」


 じゃあ、次の目的地は豊穣の土地ユラシャって事になるか。それにしても、アステリオンの竜騎士から土の宝玉を守れるってなると土の宝玉を簡単に譲ってくれはしねえよな。


 今度も面倒な事になりそうだな。


 俺はライアンと別れる。次に俺の目の前に現れたのはジークだ。相変わらず、右手には酒を持って歩いている。こいつにも何だかんだで世話になったな。


「よぉ、レース一着おめでとさん。流石は救世主様ってとこか」


「もう酔ってるのかジーク。楽しそうだな」


「お前さん達のおかげで竜誕祭は大盛り上がりだからな。お前さん達を連れてきたかいがあるってもんだぜ。そう言えば、お前の彼女ちゃんが聖竜の神殿に行くと伝えてくれと言ってたぞ」


「彼女じゃねえ……いや、もう彼女だったか」


 これからは勢いで否定できねえな。


 聖竜の神殿って事は、一足早く子聖竜を親の元に帰しにでも行ったのだろう。竜誕祭も奇麗に終わったし、俺達もアステリオンに長く居座る理由がねえからな。


 それにさっさと出ないとさ。


「見ろ、救世主が一人だぞ」

「名実ともに聖女様を独り占めしているらしいぜ」

「今宵の夜は明るくないぞ」


 などと、イリステラ教の過激派信者達が何かおっしゃてます。ほとんどのイリステラ教の人々は、救世主と聖女でお似合いと祝福してくれているのだが。


 過激派信者は全く認めてくれる気配がない。とりあえずあれだな、アステリオンの地はもう二度と踏まねえから。


 俺はジークと別れてエクレアとの合流を急ぐ。自分の身の危険を感じて、迷いなく聖竜の神殿へと突撃する。たくっ、エクレアは子聖竜を置いて行くのにいつまで時間かかってるんだよ。


「ほらっ、私はそろそろこの国を出なくてはいけません。本当の親の元に戻るべきですよ」


「ピー!! ピー!!」


 聖龍の神殿に入る俺を出迎えてくれたのは、子聖竜に抱きつかれて身動きが出来ないエクレアだった。どうやら、子聖竜はエクレアと離れたくないらしく駄々をこねているようだ。


 誰だよ、竜は声量が早いからすぐに親離れするって言ったやつはさ。全然親離れする気配がねえじゃねえか。どうなってるんだおい!!


「あっ、アリマ。この子が中々離してくれなくて困っている所なんです」


「親はどうしたんだよ、親は」


「それがですね……」


 エクレアの目線の先を追っていくとそこにはしょぼくれた様子の聖竜がいた。なんだか、初めて会った時と比べると小さくなっているような気がする。


 多分落ち込んでいるからだろうな。


『人の子よ。こんな事が起きるとは思っていませんでした。今まで多くの子を産んできましたが、私に懐かないというのは初めての経験です。割とショックを受けています』


「でも、お前の子供なんだからなんとかしろよ。アステリオンの宝なんだろ? 俺達の旅には連れていけねえぞ」


『私にどうしろというのですか』


「何でそんなに投げやりなんだよ」


 伝説の聖竜さん。子育てに失敗してしょぼくれている模様。頼むから、アステリオンの人々にはそんな姿見せんじゃねえぞ。


 はぁ、どうにかしてやるか。


「荒治療になっちまうが仕方ねえな」


 優しいエクレアが諭すように話しかけても子聖竜は一向にエクレアの元を離れようとはしない。俺は近づいて子聖竜の頭を無理矢理掴んで引きはがそうとする。


「痛い、痛い、いたーーーーい!! 凄い爪が食い込んで痛いんですけど!?」


「こいつ抵抗しやがって」


「ぴー!!!!」


 エクレアを凄い力で掴んでいたが俺が容赦なく力づくで引っぺがした。子聖竜は最後までエクレアの方を見て鳴いていた。


 可愛そうに思えるが、俺達の旅に連れて行くわけには行かねえからな。仕方がねえ措置だ。


『この子は私が抑えておきましょう。また、会いに来てくださるとこの子も喜ぶでしょう』


「ええ、もちろんですとも。必ずまた会いに来ますよ」


 俺はこの国に来る事自体勘弁してほしいんだが。エクレアは聖竜とそんな約束をしていた。やがて、子聖竜は泣くのをやめてしまった。


 まあ、竜としていつまでも人間に甘えてるとよくねえってのはアステリオンに居て学んだしな。子聖竜も強く育って欲しいものである。


 俺とエクレアは聖竜の神殿を後にする。

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