君の帰る場所
「さて、これでアステリオンでする事は全て終わりましたね。これからどこに行きましょうか?」
いつものようにエクレアがそう言った。
「行く場所の情報は掴んだぞ。土の宝玉のありかはユラシャという場所だそうだ。次はそこに向かう事になるだろうな。ただ……」
そう、俺達がアステリオンでする事はまだ終わっちゃいないのだ。そんな歯切れのつかない俺の様子にエクレアが首を傾げた。
「他に何かありましたか?」
「一つだけ仕事が残っるんだよなぁ」
俺は竜笛を吹いた。少ししてドラが空から降りてくる。レースの直後は疲れた様子であったが、もう既に元気いっぱいの様子だ。
未だに竜の表情や気持ちなんざわかんねえが、ドラの気持ちだけはわかるようになっちまった。短い間ではあったが、ドラは俺にとって間違いなく相棒となっただろう。
そんなドラの親の話だ。
そう、ノービスとの約束でレースが終わったらドラの親である、ノービスの母に合わせてくれるとの約束を取り付けていたのだ。
俺は忘れていない。本当の親と出会うのは、ドラがずっと一人孤独に竜牧場で願っていた事だ。
「ドラ、お前は俺をレースで勝たせてくれた。俺もお前との約束を守るぞ」
ドラは賢い。俺の言葉が意味、これからどうなるのかを理解しているようだ。俺が命令する事もなく、空へと飛び去って行く。
さーて、まずはノービスに会いに行かないとな。
「ノービスはこの時間だと竜騎士団の詰め所にいるのか?」
「ドラちゃんの親の話でしたか。竜騎士団の詰め所なら、一度行きましたので場所は覚えていますよ。私が案内しましょう」
エクレアに連れられて、竜騎士団の詰め所へと向かう。
その道中で俺達にも祝福の言葉をかけてくるアステリオン国民の皆様。俺とエクレアは君達の王子様と最強の竜騎士様みてえに結婚したわけじゃねえんだけどな。
隣のエクレアの顔をも見ると満更でもねえ様子なので俺は何も言わずに適当に手を振ってやり過ごす。レース以降だが、俺は本性を見せちまったがアステリオン国民には割と好意的に受けれ入れられたようだ。
多分、国民性だろうな。
とにかくいろんな意味で過ごしにくい国になっちまったな。
「ふふっ、照れているのですか?」
「照れる必要なんてあるかよ」
「またまたー」
「何だこいつ」
エクレアが珍しくうざ絡みしてきたのをあしらいながら、竜騎士団の詰め所に着いた。中へと入って行くとノービスが竜騎士団の卒業を祝われていた。
前世で言う所の寿退社みたいなもんだしな。しかも、相手はこの国の王子様だ。今思うとシンデレラみたいなもんだよな。
まあ、性格はシンデレラみたいに可愛いもんじゃねえけどな。
こちらに気づいたのかノービスが近寄って来た。
「よう、ノービス。結婚おめでとさん、式にはいけねえけどお祝いの言葉だけで勘弁してくれよな」
「いえいえ、私としましても救世主殿と聖女殿にはお世話になりましたから。お二人がアステリオンに来ていなければ、私は勇気を出して告白まではいってなかったでしょう」
それって、永遠にライアンのストーカーをしていたという事だろうか。そんな可哀そうな事になりそうだったのを救ったのがアステリオンに来て一番の俺の仕事ではないだろうか。
まあ、勝手にお幸せにどうぞ。
「それで私に何か用ですか?」
「ああ、レースの時の約束通りだ。アンタの母親に合わせてくれ」
「そう言えばそんな話をしていましたね。自分が幸せすぎたので忘れてしまっていました」
まあ、そうだろうなとは思っていたよ。だから、会いに来たわけだしな。だけど、幸せそうには見えないんだよなぁ。
顔がなぁ。全く表情を変えないからな。だから、ライアンにも本当に好きかどうかが伝わりにくかったのではないだろうか。
「あの、ノービスさん。私から言うと失礼かもしれませんが、言わせてもらいますともう少しだけ笑顔を見せた方がよろしいかと思いますよ」
「笑顔ですか。今も相当笑顔で喜んでいるつもりだったのですが……」
よく言ってくれたぜエクレア。お前が言わなかったら俺が言う所だったよ。
次期王様の嫁。つまりは、王女になるんだろう。そんな人物が鉄仮面のように表情を変えないのは印象が悪いだろう。
見ろよ。お前を祝っていた竜騎士団の方々をさ。えっ、喜んでいたんだって顔をしていやがるぞ。あれが、お前を見た正常な反応だよ。
「ふむ、ではとびきりの笑顔をお見せしましょう」
そうして、ノービスは俺達にとびきりの笑顔を見せてくれた。
その笑顔はある者は気絶しある者は悲鳴を上げた。つまり、すげえ怖くて不自然だって事だ。いつもは優しい笑みを浮かべているエクレアもこれには少々引きつった顔をしていた。
俺はもちろんドン引きだよ。
「その様子を見るに笑顔はもう少しだけ練習した方がよさそうですね」
「そうしてくれとアステリオン国民全員が助かるんじゃねえかな」
こうして、最強の竜騎士であるノービスはアステリオン竜騎士団を引退した。その流れでノービスに実家へと案内してもらった。
そこは町から少し離れた小さな小屋だ。一人の年老いた女性が座って竜の手入れをしていた。あれが、ノービスの母親か。
しかし、二十年ぐらい前の事だ。果たして、ドラの事を覚えているだろうか。そもそも、ドラも年老いた女性の事を自分の母親であると認識できるんか。
俺とエクレアとノービスは影隠れながらドラだけを歩かせることにした。
ドラは年老いた女性を認識した様子。そして、走り出したのだ。どうやら、覚えていたみたいだな。大きな竜が走る音に女性もそちらを見る。
「まさか、いえそんなはずはないわ。戦争の時に死んだと思っていたわ。私の可愛いシークレットフレイムドラゴンちゃん」
シク……えっと、なんだってもう一回言ってくれねえか。年老いたおばさんから中々聞けないようなの言葉が飛び出してきた気がしたんだが。
とりあえず、一人と一匹は感動の再会を果たしたのだ。
なんだか素直に感動できねえんだけど。
「ごめんなさい。母は昔から生き物の名づけが苦手なの。私の名前も母がとんでもない名前にしようとした所を父がつけてくれたのよ」
マジでよかったじゃんか。名前って大事だからな、変な名前つけられたらそれだけで悪い道に走る事もあるしな。ノービスがノービスでよかったって心から思ったよ。
「感動の再開ですね」
「その前の変な名前は無視かよ」
エクレアは名前を聞かなかったふりをしていたのか感動の涙を流していた。すげえな、俺は感動しそうな所を奪われちまったよ。
「シークレットフレイムドラゴンの事ですか? いい名前ではありませんか」
「へえ、あれをいい名前だって言えるセンスに脱帽しちゃうぜ。お前は今後は生き物の名前を付けるの一生禁止な。生物への冒涜だと知れ」
「何でですか!!」
エクレアの名づけセンスもゴミだと発覚。ここで、発覚しただけましかもしれんな。
「さてと、じゃあ俺達もそろそろ出発するか」
「そうですね。せっかく親子の再開を果たしたのですから、わざわざ私達の元に戻す必要はありませんよね」
俺とエクレアは同じ気持ちだったようだ。俺達の言葉にノービスも頷いた。
「飼い主である救世主殿がそれでいいのなら私は構わない。だが。私は基本的に竜のしたいようにさせるぞ」
「そうしてやってくれ。ドラには親子水入らずでなと伝えてくれ」
「シークレットフレイムドラゴンちゃんですよ」
「エクレア、お前は二度と口を開くな」
俺とエクレアは静かにノービスとの別れた。これで、アステリオンでの全ての俺のしたい事が終了したわけだ。
俺は最後に見えなくなる直前に楽しそうにしているドラの顔を見る。この竜笛はお前との思い出に取っておくよ。ありがとう、そして達者でな。




