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勝つ為には作戦を練らねえとな

 明日の朝。俺は早速だが、ジークと竜に乗る為の修行に向かった。俺は少しばかりジークとの約束の場所に早く着いてしまった。


 そこは、周りに遮蔽物がない大きな草原だ。ここで、練習をするってわけだ。


 少し待つとジークが現れた。


「おっ、やる気満々みてぇじゃねえか。その様子だと、ゆっくり休めたみてぇだな」


「そう見えるか?」


 俺は別にいつもと変わらないつもりなんだがな。


「いくら俺がお前さんとの付き合いが浅くてもわかるさ。表情が嬉しそうだし、服も新調してる。さてはいい事あっただろ?」


 いい事と言われ、昨日のエクレアとのやり取りを思い出した。


 あった事にはあったな。


「まあな。今の俺はちょっとばかしやる気があるから、ドラもすぐに乗りこなせちまうかもしれねえな」


「若いってのはいいねぇ。俺もやる気出して本気で教えてやるかね」


 ジークもやる気満々みたいだ。


 今回は久しぶりに俺の本気って奴をお見せしましょうかね。


 本気を出した俺の力を見せてやるぜ。俺は竜笛でドラを呼ぶ。


 さあ、修行に始まるだ。


「いやー、空ってどうしてこんなに青いんだろうな」


「おいおい、さっきまでのやる気に満ち溢れた姿はどうしたんだよ」


 俺は仰向けになって倒れていた。別に倒れたくて倒れていたわけではない。


 竜に乗る修行をしていたのだが、上手くいかず何度もドラから墜落した。


 やっぱりね。俺は凡人だからそんなに上手くいかんのよ。


 さっきまでは不思議な全能感に襲われていたが、そんな全能感は木っ端微塵に粉砕された。


「なあ、ドラ。どう思う?」


 俺がドラの方を見ると呆れた表情をして、道端の草を食べていた。


 なんだその顔は!! 低レベルすぎて正直引いたみたいな顔すんじゃねえ!!


 俺はな見下されるのが一番嫌いなんだよ!!


「まあまあ、もう少し頑張ってみようじゃねえか。まだ時間もある。焦らずに行こうぜ」


「俺の一番嫌いな頑張るって言葉を使うんじゃねえ!!」


「今のお前だいぶ理不尽だぞ」


 やれやれといった様子のジーク。その横ではよ起き上がれとせかすドラ。


 いや、もうね上手く乗れる気しないんだなこれが。


 ドラが本気のスピードを出すと俺が全くと言っていい程ついていけねえんだ。


 ドラが加減すると練習になんねえしな。普通に乗る事はできてもレースをするってなると無理だ。


「ドラが早すぎて次の瞬間には落ちてるんだよなぁ」


「実際、こいつはお前さんにはもったいないぐらいの竜だよ」


「グルル!!」


 ドラは自分が褒められたのがわかったのか嬉しそうだ。それと同時に俺には見事なドヤ顔を披露してくれた。


 あーあー、ドラの背中の鱗をヤスリで削ぎ落としてやりてぇ。


 だが、ジークがドラを褒めるのもわかる。素人の俺でも異常なまでのドラの加速力には驚かされた。


 例えるなら、いきなりジェッコースターの最高速度の状態になるって感じだ。


 異常なまでに最高速度に到達するのが早い。それが、ドラの長所だ。それを俺が生かしきれない。


「ドラの最高速度に俺がついていけねえ。どーすりゃいいんだ?」


「まあ、何度も落下して体に覚えさすしかねえよ。竜騎士の修行もだいたいそんなもんだしな」


「やっぱそれしかねえのか」


 いつもの俺ならここで何か別の方法を考えるだろう。主に卑怯な手段だ。


 脳裏には昨日のエクレアの姿が浮かんだ。しゃあない、もう少しだけ頑張ってみるか。


 それから何度か練習を重ねて、なんとかドラの最高速度から振り落とされないようにはなった。


 だが、振り落とされないだけで精一杯だ。とてもじゃないがドラに命令をする余裕はない。


「竜騎士ってのは竜に乗れるだけじゃ二流なんだ。一流の竜騎士は相棒と一体となって、動かせるぐらいになんねえとな」


「それは修行中に何度も聞いたっつーの」


「乗ってる様子は結構さまになってきてるから、あとは練習を積んで余裕ができればだが時間がなぁ」


 ジークの言う通りだ。もうレースの開始は明日になっていた。実際に今日はレースで使うコースの下見をしていたのだ。


 そこそこ上手くいってはいる。だが、素人よりはマシだねといった感じだ。


 自分で言うのもなんだが、とてもじゃねえが俺が優勝できる確率はとてつもなく低いだろう。


「練習はここまでにしようぜ。できる限りはやった、あとは本番で見せるだけだ」


「ああ、俺はちょっと残っていく」


「明日が本番なんだから、あんまり無理すんじゃねえぞ。早く休めよ」


「おう」


 俺は寝ているドラの隣に座り込んだ。


 どう考えても足を引っ張っているのは俺だ。俺がドラの長所を生かしきれていない。


 ドラの長所は屈強な体躯と素早い最高速度への到達だ。明日はこれを生かした戦いをするしかないわけ。


 ただ、このまま普通のレースをしているだけでは俺の負けを目に見えている。


「負けたらエクレアはどんな顔すっかな」


 職業ガチャを使って竜騎士を引き当てればドラのポテンシャルを発揮する事は簡単だろうな。


 だけど、今回の戦いじゃ俺は職業ガチャを使う気はねえ。


 このレースは俺の力で戦い抜く。そう決めている。


 それに使う金もねえからな。今更、五万エンも貯める事はできん。


「もう一回だけドラの特徴を洗い出すか。えっと、強い肉体と速度。そう言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 いや、それが上手くなったからって何かが起こるわけじゃねえけどな。


 俺があまりにも落下するもんだから、そのうちドラが空中で地面に落下しないように拾ってくれるようになった。


 ようは、リカバリーが上手くなったってわけだ。


 これはドラが、一度止まって方向転換してもすぐに最高速度に戻るおかげだな。


「このおかげで俺の怪我が減ったしな」


 まあ、レースで使えるもんじゃねえけどな。


 ……いや、待てよ。確かレースは何でもありで、一番にゴールすればいいって話だったな。


 元々は竜騎士同士の決闘に使われていたらしいからな。だから、ライアン王子もレースを指定してきたわけだ。


 俺の考えが正しければ、明日のレースで優位に立てる気がする。少しだけ試してみる。見事に成功した。


「これで準備は万端ってわけだ」


 待ってろよエクレア。明日のレースは俺が必ず勝つからさ!!

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