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過激派信徒は暴徒なんよ

 エクレアをお姫様抱っこしながら、何とか誰にも見つからずに部屋に戻ることが出来た。


 俺はエクレアをベッドに座らせて、エクレアの首についている首輪を見る。


 うーん、鍵穴などはねえな。つまり、取り外し方が全く見当もつかん。どういう原理でエクレアの力を吸い取っているのだろうか。


「首輪は外せそうにねえな」


「私の首輪はいいです。それよりも王様が偽者である事を知らせないと、王都が大変な事に」


「まあ、そう焦るな。とりあえず様子見しようぜ」


「そんな悠長な。いつ襲われるかもわからないんですよ!!」


 エクレアはすぐにでも王様の正体を暴きたい様子だが、俺は様子見をしていいと思うのだ。


「いいか、俺達がここに来てから狙うタイミングなんていくらでもあった。だが、襲われていないという事は相手が攻撃を仕掛けてくるタイミングがあるはずなんだ」


 俺が相手だったら、然るべきタイミングで仕掛けるだろう。


 隙をついて一網打尽とかな。例えばだが、前日にリュカが言っていたのだが明日に勇者パーティーの説明をするらしい。


 その時に一人で来て欲しいと言われたそうだ。俺なら確実にその時を狙う。


「それじゃ、私はどうすれば」


「まず、お前は動くな。首輪のせいで本調子じゃないだろ。それに夜にはお前が牢屋から抜け出した事がバレる。そうなればいくらか相手の方で反応があるだろう」


 と俺が言っても、自分で動きたい様子だ。元々、じっとしているのが合わないタイプなんだろうな。


 俺だったら動かんでいいと言われたら喜んで動かないんだがな、変わった奴だ。そんなに見知らぬ誰かの為に頑張りたいのか。


「うぅ、私だけ何もしないなんて」


「とりあえずは布団にでも入ってろ。俺は外の様子を見てくる。いいか、絶対に動くなよ」


 俺のあてがわれた部屋の扉を開けると、何やら兵士の何人かが慌ただしく動いている。


 だが、慌ただしく動いていない兵士もいるようだ。この違いは何だ。気になったので、慌ただしく動いている兵士の後をつけてみる事にした。


 廊下の物陰で何やら会話しているようだ。俺は耳を澄ます。


「捕らえていた聖女が逃げたようだ。奴は王様の正体を知っている。すぐに連れ戻さなくては」


「首輪もあるしそう遠くには行けないはずだ」


 なるほど、王様が魔物っていうエクレアに話も嘘ではなさそうだな。それに、兵士の何人かは既に魔物側と入れ替わっているようだ。


 どうやら相手は中々に狡猾な奴らしい。


 勇者を始末する為にこの機会を狙っていたのだろう。しかし、もう逃げ出した事が相手に伝わっているのか。こりゃ俺も下手に動けんな。


 俺はそのまま城下町に出る事にした。お目当ての物はすぐに見つかった。商店では、当たり前のように聖女エクレアのブロマイドみたいな絵が置かれていた。


 じっくり観察すると、エクレアの姿と一致している。聖女というのも嘘ではないようだ。


「よぉ兄ちゃん。聖女エクレア様に興味が」

 

 商店の店主が話しかけてきた。見た所、エクレアの絵を置く程のファンのようだ。


 知らないフリをして話を聞いてみる事にした。


「いや、俺はここに来たばかりでこの女性の事を知らないんだ。知っているなら教えてもらえないだろうか?」


 店主は待ってましたと言わんばかりにエクレアについて語り始めた。やばいぜ、地雷を踏んだかもしんねえ。


「聖女エクレア様は不思議な力で傷を治す事ができるんだ。しかも、誰にでも優しくて分け隔てなく接してくれる。女神のような存在それが聖女エクレア様だ。俺も教会の信徒の一員なんだ」


 そう言うと店先に置いてある、教会の信徒である事を示すカードを見せてくれた。


 すげえな、どんな世界でもファンクラブみたいなもんは存在するんだな。大方、教会がエクレアの人気を使って信徒を集めていると言った所だろうか。


「へえー、アンタがそこまで入れ込むなんてよっぽど美人なんだろうな。会ってみたいな」


 会ってみたいなも何も俺の部屋で休んでるから会おうと思えばいつでも会える。しかし、俺はわざと聞いたのだ。


 エクレアが捕らわれた後の事を知りたいからな。


「うーん、残念だがいつもは教会にいるんだが最近は見ていないな。エクレア様は教会にいる事が多いんだが、噂では王城に行ったきり帰ってきてないとか。流石に噂だけだと思うがな」


「そうなのか。もし会えたら話しかけてみようかな」


「おっと、軽率に話しかけない方がいいぜ。過激派の信徒が襲われても知らねえぞ」


 何だよ過激派の信徒って、ただの暴徒じゃねえか。話しかけるだけで駄目とか、俺は今日何回禁忌を犯した事になるんだよ。


 そこで、俺は思い出した。牢屋での出来事を。


「へぇ、もしなんだが。いや、もしかしたらの話だぞ。エクレアの体に触りでもしたらどうなる?」


「そりゃ、信徒に殺される勢いだろうな。てか、俺がやる」


 エクレア信徒の店主さんのマジの目を見て俺は震えちまったよ。あれは絶対にやるって言う男の目だね。


 俺は自分の手を見る。俺の手には牢屋でエクレアに触れた時の感触が今も鮮明に残っている。


 もしバレたら命は無いものと見ていいな。命の危機を感じたので、足早に消えさせてもらうとしよう。


「まちな、兄ちゃん。せっかくだ。お前にこの絵をやろう」


 そう言われて渡された絵。いらねー、マジでいらないんだけど。部屋戻ったら本人がいるのに、こんな絵持っていたらなんて言われるか。


 だが、受け取らないわけにはいかないので俺は受け取った。


 とりあえず、俺の部屋にいるエクレアは聖女本人である事がわかった。それだけでも良しとしよう。


 俺が王城に戻ると修行を終えたリュカがいた。リュカは無条件で信頼できる。聖女エクレアの事とか王の事を伝えておいた方がいいだろう。


「リュカ、話がある。今からお前に部屋言ってもいいか」


「うん、いいよ。大歓迎だよ」


 修行後で疲れているだろうにリュカは快く部屋へと招き入れてくれた。扉を閉めて椅子に座る。


「それで話って何?」


 俺はリュカに今までの起きた話を説明した。聖女エクレアの事と王様が魔物である事だ。リュカは最初、少しだけ驚きはしたものの俺の話を信じてくれた様子だ。


「こんな話を信じてくれってのも無理があるが」


「ううん、信じるよ。だって、アリマが僕に嘘をつくわけがないんだもん。それで、僕はどうすればいい?」


 俺自身がリュカの信頼をこんなにも勝ち取れている理由が知りたい。怖いよ、俺よりも俺の事を信じてそうで怖いよ。


 俺としては話が早く進むからいいけどさ。


「明日の勇者パーティーの説明の時に俺も行こうと思う。その時にエクレア本人にも登場してもらって真実を言ってもらうんだ。王様を追い詰めるぞ」


「うん、わかった」


 リュカ別れた俺は部屋へと戻る。本当はこのまま首輪の外し方を調べようと思ったのだが、これ以上怪しまれる行動は抑えておく事にしたのだ。


 それに、エクレアが勝手に移動していないか心配だしな。


「それにしてもエクレアは大人気だったな」


 まあ、見た目と性格がよければあんなもんだろうか。俺が感じたエクレアの印象とは全く違うが、確かに見た目は清純な感じする。


 実際はかなり行動派な感じがする。


 俺も見た目は好みだが、なんか面倒を起こしそうだから困る。正直部屋に戻っていなかったとしてもやっぱりなとしか思わないだろう。


 俺が不安に思いつつ部屋に戻るとき、ちんとベッドで寝ているのを確認した。余程疲れていたのだろうか熟睡している。


 まあ、牢屋で鎖に繋がれた状態で休めと言うのが無理な話だ。起こす理由もないのでエクレアが起きるのをじっと待った。


「んりゃ、あれっ、もう夜じゃないですか!!」


「ん、結構寝てたな。飯食べるか」


 俺は用意していたパンを差し出した。何だその顔は、俺がお前のために用意したパンがいらねえって事か。


 食堂から、つまみ食いの要領で盗んできたんやぞ。感謝して欲しいんだが。


「これ、盗んできたやつではないですよね?」


「そんなわけないだろ」


 俺は一切表情を変えずに嘘をついた。パンぐらいいいだろ。ここまで隠して持ってこれる食べ物が廃棄されかけたパンしかなかったんだよ。


 廃棄されたパンなんだからいいだろ。これはエコだよエコ。廃棄のパンも俺達に食べられる事で喜ぶだろうさ。


 すると、エクレアのお腹の音が鳴る。


「いい音を奏でるな」


「嫌味ですか!! 久しぶりのまとものご飯なんですよ、悪いですか!! いつもはこんな音鳴らないんですからね!!」


「そんなに否定されるといつもお腹空いてるみたいに聞こえるぞ」


 あんまりにも必死に否定するからそう見えてしまうのだ。俺の言葉を聞いたエクレアは浮かない顔をした。


「そう聞こえましたか。その、大体はお腹空いてるんですよね」


「聖女なのにまともな飯食わせてもらえないの?」


 店主の話を聞いた感じじゃ、信者もいっぱいいて儲かっていそうな雰囲気だったけどな。


「あ、いやそういうわけじゃないんです。ただ、教会のご飯が質素なので」


「追加で食べればいいだろ」


 俺の言葉に何とも言えない表情である。あれっ、俺は何かおかしな事を言っただろうか。


 そもそも俺は、朝飯とか昼飯とか夜飯の概念が嫌いなんだ。人間は腹空いたら食べればいいと思うんだよね。


「ほらっ、一応私って聖女じゃないですか。出来るだけ聖女のイメージに合うように生きてきたんです」


 ああ、なるほどな。


 外で聞いたエクレアのイメージと俺が実際に感じたエクレアのイメージがなんか合わないと思った。その理由がようやくわかった。


 こいつは、エクレアとして生きてるんじゃなく。王都の聖女として生きてるんだな。聖女という役職がエクレアを縛ってるようだ。


「ふーん、飯ぐらいは好きに食べてもいいと思うけどな」


「でも、民の中での私のイメージが」


 聖女のイメージって何だよ。飯は少ししか食べないって事か。馬鹿馬鹿しい、聖女だって人間なんだから好きな事すればいいんだよ。


「他人の中の自分のイメージなんて気にすんなよ。なんつーかさ、もっと自由に生きていいだろ。好きな事すりゃいいんだよ」


 腹が減ったら飯を食って、遊びてえなら遊べばいいだろ。余計な事考えるから疲れるだけだ。


 俺を見てくれ、この世界に来てから自由に楽しませて貰ってるよ。


 俺みたいにとは言わないが、俺の半分くらいはわがままを言ってもいいのではないだろうか。


「なら、私もお腹いっぱいご飯を食べてもいいのでしょうか」


「俺は何を持って聖女らしいって言うのか知らねえけど、お前がご飯をリスみたいに食べているからってイメージが損なうなら、聖女なんてやめちまえよ。好きな事して生きて行こうぜ」


「好きな事ですか。考えた事もなかったですね。そうだ!! もし、その、よかったらこの件が解決したら、私とご飯を食べに行きませんか?」


「おう、いいぜ」


 俺は快く返事をした。それぐらいなら別に構わないのだが、何故か嬉しそうな顔をするエクレア。


 そんなにお腹いっぱいにご飯を食べる事が嬉しいのだろうか。だが、俺の脳裏には今朝の店主の姿が浮かび上がった。


 聖女と仲良く飯を食ったら俺は亡き者にされるのではないだろうか。


「なし!! やっぱ、なし!! 飯は一人で食べ行け!!」


「えぇー、さっきはいいって言ってくれたじゃないですか!!」


「駄目だ。俺の命に関わるんだ」


「私とご飯を食べに行く事が!?」


 凄い不服そうな表情で抵抗してくるんだが、俺は自分の為に用意していたパンをもう一個上げる事で事なきを得た。


 パンで懐柔されてしまうのはどうかと思うが、言うとまた言われそうなのでやめておいた。

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