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ポエムばっかり言ってくる人

 人間の寿命は竜よりも圧倒的に短い。ましてや、戦争なんてしていて戦っている兵士だったら死ぬ確率が高いのも仕方がない事だ。


 竜の捨てた親を探すのは非常に困難になる可能性が高い。


「まあ、どうすりゃいいかはわかったよ。サンキューな」


「お役に立てたのならなによりさ。そうだ、少し僕とどうでもいいお喋りをしないかい」


「俺さ、これからもう一回あのスケベなドラゴンと向き合わなくてちゃいけねえんだよ。それに竜に乗る練習もしなきゃなんねえんだ。どうでもいいお喋りだったら控えてくれねえか」


「君はハロー効果をご存じかな?」


 俺の意見をガン無視して、どうでもいいお喋りが始まってしまった。無視して、去ってもいいのだがこいつにはお世話にはなっているので適当に聞いて切り上げよう。


「知らねえな」


「えぇ、君の前世の世界の言葉なのに?」


「……」


 俺ってこいつに転生した話をしたことが一度でもあっただろうか。いや、女神イリステラの知り合いらしいし知っていてもおかしくはないか。


「それで、そのハロー効果ってのは?」


「ある対象を評価する時に、一部の特徴的な印象に引きずられて全体の評価をしてしまう効果だよ。これって今のアリマ君の状態にピッタリの言葉じゃないかい。最初は勇者の親友ってだけで適当の態度をとって煙たがられていた君が、今じゃある程度認知されている救世主になっている」


「んっ、まあそういう事になるのか。救世主なんてのにはなったつもりは全くねえがな。それに俺は生まれてからずっとこんな感じだったし」


 周りの見る目が変わったって話をしたいんだろうか。確かに火の大地にいた頃よりかは救世主だのなんだのともてはやされる気がしているな。


 俺にとってはどっちでもいいんだけど、原因があるのなら気になると言えば気になるな。まさにどうでもいい話って感じだな。


「一つは勇者が君のいい所をひたすらに言いふらしているって事かな。でも、一番の大きな要因は君の隣に聖女がいる事だね。彼女のおかげで君がどれだけクズでも周りから見れば、聖女様のお付き男で聖女様と共に世直しの旅をしているという印象の方が強くなってしまうわけだね」


 なるほどな、一部の特徴的な印象に引きずられて全体の評価してしまうってのはそう言うことか。


 この場合は、聖女のお付きで聖女と共に世直しの旅をしているという事実に引きずられてしまって、俺という人物の評価がそこで終わってしまっているのか。


 終わっているというよりは見られていないと言った方がしっくりくるかもしれないな。


「そりゃ、勇者の親友で聖女のお付きとなりゃそっちの印象が強くなるに決まってるよな。インパクトがでかすぎるもん。それで、ハロー効果の意味は分かったがまさかとは思うが、その雑談に付き合わされただけってわけじゃないだろうな?」


 少し面白い話ではあったけど、それだけだったら迷いなく拳を振りぬくぞ。


「どうだい面白い話だったろ。いやいや、僕はか弱いんだ。是非ともその拳を収めてはくれないかね」


「なら、もっと俺に価値のありそうな話をしろや」


「いけないねぇ。若い子はすぐに結論を欲しがる」


 いや、お前も十分に若そうな見た目してるけどな。ひょっとして、お前も若いだろって突っ込み待ちしてんか?


「君は女神イリステラの事をどう思ってるんだい」


 途端に場の空気が変わった気がした。いや、変わってはいない。俺が勝手にそう思っているだけなんだろうな。俺が思い出したのは水の大地の賢者であった男、オービタル=デュランダルの言葉だ。


「お前もあいつがこの世界の味方がどうのって言い出すのか?」


「いや、僕は彼女が味方かどうかなんかに興味はないからね。僕が言いたいのはこういう事さ。印象というのは良くも悪くも大きな印象の方に寄ってしまうって事。僕と君が見ている女神イリステラの印象は違うって事さ」


「そりゃそうだろ、その人の印象なんて見た奴によって変わるに決まってんだろ」


 何を当たり前のことを言っているんだこいつは。あれかな、いつものように発作でポエムが言いたいだけなのか。お前あれだからな、俺の中でポエムオバサンみたいイメージがついてるからな。


 あっ、これもハロー効果って奴か。


 でも、そうだな。こいつ目線だとイリステラの事をどう思ってるんだろうか。それは気になるかもしれない。


「お前はイリステラの事をどう見ているんだ?」


「うーん、僕とイリステラの関係を話すのは難しいんだけど。そうだね、一言で言うのならずっと一緒に戦ってきた戦友かな」


 ここ一番の笑顔でネストはそう言った。


 だが、次の瞬間だった。ネストと俺が認識していた人物は竜牧場の店主に戻っていた。そこにいるのがさも当たり前のようにだ。


 いや、元々が竜牧場の店主だからこれが正常で正しい認識のはずだが。いきなり美少女からおっさんに変わるのはなんというか気持ち的に損した気分だ。


「どうかしたかい?」


「いえ、何もないです」


 そう言って俺は去った。


 欲しい情報は手にいれた。後は竜の捨てた親が死んでいるかどうかを調べて、会わせてやれば俺を乗せてくれるかもしれない。


 なんか違くね? 


 いや、あいつが俺を乗せてくれればなんだっていいのだが、それで認めさせるのは何だか違う気がするのだ。それだと俺が負けたような気がするもんな。


 よーし、どうするか決めた。

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