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どうやって認めてもらうかって話だ

 その後、竜牧場の店主から買う為の条件が出された。俺が人間が乗る為の(くら)をこいつに付けて、飛んで牧場を去るというものだ。


 こいつは竜牧場でとんでもねえ暴れん坊だったらしく買い手がなかったらしい。だから、こいつに乗って外に出て行くくらいの力を見せて欲しいとの事だった。


 外でこいつが暴れたら売った竜牧場としても名前に傷がついちまうしな。当然の措置ってわけだ。ようは俺に従う所を見せろってわけだ。わかりやすくていいな。


 ジークは傭兵団の仕事があるからと一度戻って行ってしまった。残されたのはのんびりと寝ている暴れん坊の竜と俺だけってわけだ。


「寝てるって事は俺は眼中にないってわけだ。いきなり成功するとは思わんが隙だらけだしやってみっか」


 俺は鞍を持ってゆっくりと近づいて行く。とりあえず無理矢理乗るにしても、鞍をつけない事にはどうにもならないらしい。


 竜は人間が乗るのに適していないんだとよ。乗るなら鞍が必要って事だ。


 だが、こいつが易々とつけてくれるとは思えない。


 案の定、一定の距離に近づいた所で立ち上がり威嚇されてしまう。


 一応、俺に興味がない素振りをしているが決まった位置まで移動すると起き上がるので、見てはいるんだな。


「なあ、鞍をつけさせてくれないか?」


 竜には賢い個体もいるらしい。こいつがどうかはわからないので、話しかけてみたわけだが。


 俺の言葉には一切の反応はせずに欠伸をした。素直にキレそう。なんだ、その反応はつけていいって事でいいよな。


 俺がいいって解釈したからな!!


 俺は背中から鞍を取り付けようと触れようとした。


「いってえ!! 何すんだこの!?」


 尻尾で反撃されてしまった。まずは不規則な尻尾の動きを掻い潜ってなんとしても、背中に張り付かなくてはならない。


 これは、長期戦になりそうな予感がしてきたぜ。


 何度か挑戦して、全て失敗。


 仰向けのまま、空を眺めている見知った人影が現れた。


 エクレアだ。いつもと違いドレス姿での登場だ。手には子聖竜を抱いている。


「孫にも衣装か……」


「それどういう意味ですか!?」


 ドレスはエクレアの姿には似合っている。


 見た目と中身が一致していれば問題はないが、残念だが一致していないので意味はなさそうだ。


 似合っているドレスに着させれている感じがした。


「いいのかよ、愛しの王子様とお食事会じゃなかったのか?」


「その嫌味わかって言ってますよね。あの人達の前では、聖女らしく振舞うために少食で済ましてきたんですよ!! あぁ……高そうなお肉と魚が勿体無いです」


 エクレアも人助けはしたいが聖女という肩書きには余り興味がなさそうだ。


 聖女という役職を彼女もまた、まとっているのだろう。


「お腹ペコペコなのでご飯に行きませんか?」


「飯食ってきたんだろ我慢しろや。見てわかんねえのか俺は今忙しんだよ」


 竜と絶賛格闘中なんだよ。


「アリマが忙しいなんて珍しい事もあるものですね」


「どういう意味だ!!」


 俺とエクレアがいつものように振る舞っていると、俺の近くにいた暴れん坊の竜が起き上がったのだ。


 こいつが自分から起き上がって来るのを初めて見た気がした。


 そしてゆっくりとエクレアの元へと近づいて行くとじゃれつき始めたのだ。


「あはは、くすぐったいですよ」


 うん、なんか微笑ましい光景に見えてくるんだけど、俺には気になる点があった。


 それはだな。なんかこいつエクレアの胸ばっかり触ってないか。


 気のせいだって思いたいんだが、重点的に触れているような気がしてならない。


 エクレアは全く気づいていない。それをいい事に触れまくりだ。


 竜にスケベな本能があるのかはわからないが、客観的にこの光景を見れる俺は間違いなくこいつが黒であると確信出来る。


「おいっ、こいつはとんだスケベドラゴンだよ。暴れん坊だと思ったら、違う場所が暴れてるだけかよ」


「何を言ってるですか? ちょっとじゃれてるだけですよ」


「いーーーーや、俺は騙されねえぞ!! こいつは男特有の鼻の下を伸ばした顔をしてるぞ!! 目を見てみろよ目を!!」


 こいつ雄だって性別がすぐにわかるな。エクレアが竜の顔を見るとウルウルとした表情をしていた。


 こいつ、見られている時だけ表情を上手く変えていやがる!!


「こんな目をしている子がスケベな事するはずないですよ!!」


「こんな目をしてる奴がスケベな事するんだよ」


 すると、竜は俺の方に背中を見せる。


「えっともしかしてだけど、鞍をつけさせてくれんのか?」


 俺の言葉に顔をこちらに向ける。その顔にはさっさとしろやカスみたいな顔をしていた。


 段々とこいつの気持ちが顔から読み取れるようになったかもしれない。


 俺はわざと鞍をキツく締め付けてやった。竜は俺に抗議してきているが、そんなの知りませーーーーん。


「それにしても、あんなに苦労して鞍をつけようとしていたのに、エクレアのドスケベ交渉一発で解決するなんて」


「ドスケベ交渉なんて、した覚えありませんけど!?」


 俺はちょっぴりショックだった。だが、すぐに気持ちを切り替えた。


 何にせよこれで乗せてくれるみたいだし、もう何でもいいわ。


 鞍の取り付けには成功した。まあ試運転も兼ねて背中に乗って見るかと俺が乗った。


 すると勢いよく体を震わせて、俺を地面に落とした。


「ふざけんな!!」


 俺の抗議を無視して、エクレアの方を見る。どうやら、エクレアを背中に乗せたいから俺に鞍をつけさせたようだ。


 俺は召使いか何かか? 俺は迷いなく中指を竜に向けて立てた。


 お前が寝てる間に鱗全部削ぎ落としてやろうか、こんのスケベドラゴンがよぉ!!


「私ですか、ではご厚意に甘えさせてもらいましょう」


 エクレアは子聖竜を俺に預けて、竜の背中に乗った。当然、振るい落とされない。


 そのまま、素早く上昇。空を滑空し始めたのだ。


 なんで俺が珍しく頑張ってるのに、後から来たエクレアに先越されなきゃならねんだよ。


 ただ、飛ぶ速度が異様なほど速い。人を乗せて落とさない限界ギリギリで飛ぶ速度を維持しているように見える。


「はぁ、お前が成長して乗せてくれればいいんだけどな」


「キュピ?」


 俺はエクレアが降りてくるまでの間、子聖竜の頭を撫でて癒されているのであった。

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