聖女に対するお願い
ジークに連れられて土の大地へとやってきた俺達はドラゴンから降りる。新しい台地に到着だ。と言っても何か変わるわけじゃないんだがな。
さてさて、それじゃジークの話を聞くんだったな。
「それで、ジークが言っていた頼みたい事ってなんだ?」
「それはだな……」
話の途中で周りをきょろきょろと見だしたジーク。何かを探しているような素振りだが、いったいどうしたんだ。
「厳密に言うなら、お前さんと一緒に旅をしている聖女様を探してるんだが」
「……?」「……?」
俺とエクレアが顔を見合わせる。エクレアはキョトンとした顔をしている。その表情から、この人は何を言っているんだって気持ちが感じとれる。
それは俺も同じ気持ちだっつーの。探してる奴は目の前にいるのに、どこにいるのと聞かれるのはひょっとしてこちらを試しているのだろうか。
もしかしたら、エクレアとは違う聖女のを探しているのかもしれないな。聖女がこの世界に何人もいるのかは知らないがな。
でも、俺と一緒に旅してるって指定してきてるしな。
「ジークは何を言ってるんだ。聖女ならずっと一緒にいるだろ?」
そう言って、エクレアの方に手をやる。何故か自信満々のエクレアはふんすと言った様子で仁王立ちしている。
聖女がエクレアである事をジークに告げるとジークは固まってしまった。
「あの。後ろでうひょーーーーーーとか叫んでいた嬢ちゃんが聖女!?」
「そうですがいけませんか!?」
そう言えば、俺はエクレアとはなんだかんだエクレアとは付き合いが長いから忘れていたのだが、普通の聖女のイメージと今のエクレアはかけ離れているのか。
そう言えば火の大地の王都ではできるだけ聖女らしくしよとしていたみたいだし、他の大地にもイリステラ教の教会があったからエクレアの隠れ清楚のイメージが伝わっていてもおかしくはない。
思い返してみるとジークの言う通り、うひょーーーーーーと叫び散らす聖女は確かに嫌だな。
「まあ、残念な事にジークの探していた聖女はこいつなんだ」
「残念とは何ですか!? いいですか、私は常日頃から聖女らしくいようと行動しています。聖女である事を忘れた日は一日たりともありませんよ。聖女のイメージを崩さないように日々清楚に生きてきましたから」
俺はエクレアの言葉を聞いて彼女の今までの行動を思い返していた。基本大食いで暴飲暴食の限りで旅の賃金を減らして、グランとはど突き合いをしていた。
挙句の果てにはオルトに催眠でをかけられて敵味方関係なく殴るバーサーカーとなっていた。清楚という言葉の意味を理解していないのだろうか。
清楚さんがどこか旅に出かけてしまっているようにしか見えないのだが。
「いやーーーー悪い悪い、聞いてたイメージと大分違うからよ。王都にいる聖女は誰に対しても優しく温和で、困っている人がいたら誰でも助けるって話だったからな。最近じゃ、王都を出てお付きの奴と世界中の困っている人を助ける旅に出たと聞いたもんでな」
「ふふん、それほどでもありますかね」
エクレア本当にいいのか。ジークは聞いていたおしとやかで清楚なイメージと全然違うから驚いたって遠回しに言ってるんだぞ。
お前、幻滅に近い感じだからな。
「それで、何の為に聖女探していたんだ」
「おっと、そういう話だったけな。いきなりで悪いんだが、お前らは竜の国アステリオンで開催される竜誕祭を知ってるか?」
「知らないな」
お隣を見ると、エクレアの方を見るとどうやら知らないご様子だ。竜誕祭もだが、そもそもの話として竜の国アステリオンを知らないからな。
「そうか、んじゃ国の説明からかな。アステリオンは竜騎士と呼ばれる戦士達の国でな、みな竜を信仰しているんだ。んでな、うちの国じゃ十年に一度聖竜様の誕生を祝う催しがあるんだ。それが、竜誕祭ってわけよ」
「アステリオンの事は何となくだがわかった。だが、今の話だとどこにエクレアの必要性を感じるのかわかんねえな」
「そう慌てんなさんなって、催しの一つにな聖竜の卵から新たな雛が誕生するのを見るつーのがあるんだがな。どういうわけかなのか知らねえが卵がまったく微動だにしねえわけだ。いつもなら、もう生まれてもおかしくねえのによ」
聖竜が卵から生まれないねえ。いや、ここまで聞いてもエクレアの必要性がまったくと言っていい程感じられないんだが、いつになったら必要性を感じる所まで行くんだ?
「おい、いい加減どうしてエクレアが必要なのかって所まで行け。俺は気が短い事で有名だぞ」
「まあ、嬢ちゃんに頼みたいのはどうにかしてこの聖竜の卵をかえしてくれないかって事さ」
ふーん。エクレアって俺の知らない間についに卵をかえすという行為を自由自在にできるになったのか。隣を見て見るとエクレアが一番驚いていた。
ですよねー。急にこんな事言われても困るよな。生き物の事なんて知らねえって感じなのわかるよ。
「あの……頼ってきてもらって申し訳ないのですが、私は卵を孵化させた事は一度も経験がありませんよ。頼む相手を間違えているのではないでしょうか?」
「いんや、うちのイリステラ教の奴らが聖女様ならどうにかしてくださるって言っててさ。俺はそんなの無理だとは思ったよ? だけど、探して来いってうるさくてさ。それでアステリオンの王子もそこまで言うなら探してこいって俺に白羽の矢が立ったってわけ」
「いや、でもやった事ありませんし」
「なあ、もう嬢ちゃんしかいねえんだ。失敗しても構わねえから、一回だけ試しになっ、なっ。頼むよ」
あ、非常にまずい。何がまずいかって、それは簡単な話だ。エクレアは頼まれるという行動に非常に弱いのだ。基本的に誰かに何かを頼まれたら断る事を知らない。
だから、この後の答えは予想が出来てしまう。
「そこまで言うなら仕方がありませんね。この聖女である私を頼って来たというのに断るだなんてありえませんね。やった事なんて一切ありませんが泥船に乗ったつもりでいてください!!」
「泥船だと沈んでいくぞー」
まあ、こうなるのはわかってたよな。もう、別に驚きはしねえよ。
土の大地の宝玉がどこにあるのかもわかっていないから、アステリオンにとりあえず向かうってのも悪くはないだろう。
「そうかそうか、助かるぜ。んじゃ、アステリオンまで案内するぜ」
ジークの相棒であるドラゴンに再び乗って俺達はアステリオンを目指す。まあ、どうせ卵なんてエクレアに孵化させられるわけねえからすぐに終わるだろさ。




