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海の水はしょっぱいって相場が決まってる

 海賊生活も慣れてきたもんで、三日ぐらいが過ぎた。いつものように甲板磨きを他の奴にやらせながら俺はゆっくりとさぼっている。


 空の日差しが気持ちよくお昼寝日和である。故郷の村にいた時以来だよ、こんなにゆっくりとした時間が流れていくのは。


 エクレアはあの日以来、厨房に籠っており料理の研究をしているようだ。俺はというと日頃の疲れを癒すために見張り台で寝転がっているってわけね。


 さて、今日もお昼寝させてもらいますか。なんだよ、カンカンうるせえな、いつもこんな音しねえだろうに。


「カンカン、カンカン、うっせえよ。近所迷惑だろうが!!」


「兄貴、大変でっせえ。他の海賊団が攻めてきたんすよ!!」


「えっ、そういうのあるんだ。まあ、頑張ってくれ、俺はここでお前らが戦っている勇士を眺めているからさ」


「そんな、お頭(おかしら)と同等の力を持ってるんすから兄貴も戦ってくださいよ」


「いやいや、今日は無理。ほんと、無理だから。勘弁しろ!!」


 あれから、特に何もしていない日々を過ごしていたんだぞ。職業ガチャ用の金なんて貯まってるわけがねえだろ、いい加減しろ!! 今、海賊の前に出るなんざ自殺行為に等しいんだよ。


 俺に死ねと申すか、おぉ!! と心で叫んでいても仕方がないので、俺は見張り台から渋々降りる。すると、シルドラがいた。


「お前も来たか。悪いなこんな事になっちまって」


「本当だよ。俺のお昼寝の邪魔をしたのはどこのどいつだ」


「お前、俺の前でよくそんな事を言えたな。とりあえず、今はいい、聞かなかった事にしといてやるよ」


 シルドラの見ている方を見ると、シルドラの船とは違うもう一隻の船が近くにあるのがわかる。髭の生やした熊みたい奴が先頭にいる所を見ると、あれがこっちでいうシルドラ的な立ち位置なんだろうか。


「おい、野生の熊がいるぞ。熊って海の上にもいるんすねえ」


「冗談言ってる場合じゃねえぞ。あれは、髭熊と呼ばれる海賊だ。俺の事が気に食わねえのか何度もちょっかいをかけてくんのよ」


「ちょっかいの理由は?」


「俺がこの海域を実質支配してんのが気に食わねえんだとよ」


「ああ、はいはい雑魚の逆恨みってわけね」


 何日か一緒にいたおかげでシルドラの事が少しだけわかった。シルドラは海賊だが、この海域の守護も兼ねているのだ。ようは、海域から他の海賊が港町を攻撃しないよう威圧して、町や村を守っているってわけだ。


 守護のついでに報酬を頂いて生活しているらしい。これもう、海賊じゃなくて海上保安官みたいもんだろ。なので、当然だが他の海賊からのヘイトが高いってわけ。


「聞こえているぞ貴様ら!! いい気になりおって、シルドラ今日こそ海を貴様らの墓場にしてやるぞ!!」


「海は墓場にできんぞ。常識で語れ、脳みそも熊なのか?」


「そういう例え話だ!! 何だこのヘラヘラした男は、シルドラの船にこんな奴いなかっただろ!!」


「ちょっとの間いる予定の新しい部下だ。使い勝手がすこぶる悪くて困ってる」


「おっす、褒められたっす」


「褒めてねえぞ」


 使い勝手悪いなんてひでえ言い草だよな。俺も今はシルドラ海賊団のメンバーの一人だ。俺だって、頑張って勝利に貢献しますよ。どんな方法を使ってもな。


「ここで会ったが百年目よ、危ねえ!!」


「何をしている?」


 全員が俺の方を向いた。何をしているってそりゃもちろん。


「いや、隙だらけだったんで大砲をぶち込んでおきました」


「いや、ほらっ。相手も俺に話したい事があるかもしんねえしさ。ちょっとぐらい待ってやってもいいじゃねえか?」


「何言ってんすかお頭(おかしら)!! 敵の言う事なんざ耳を貸す必要ねえぜ。どうせ、どうでもいい事言うだけに決まってるだろ」


 名乗りなんて無駄な時間よ。隙を晒す方が悪い、ここは戦場なんだ、当たり前だよなぁ。


「クソッ、見損なったぜシルドラ!! まさか、俺を恐れてこんな汚い手段に出るとはな」


「いや、こいつが勝手にやっただけなんだが」


「へへっ、お頭(おかしら)の作戦通りっすね。髭熊の奴やっぱ脳みそ小さいんで、上手く乗ってきましたね」


「お前あれだな。いい加減にしねえとお前も海に沈めてやるぞ」


「よし、ものども突撃!!」


「了解っす、兄貴!!」


 という事でシルドラの怒りがこっちに向きそうだったので、戦闘開始。俺の指示に従って、何故か勢いよく突撃して行くシルドラの部下達。急な開戦にうろたえている相手。


「んで、勝手に始めやがったが。当然、負けるわけねえよな」


「もちろん。早速、最終兵器を投入しますか。おめぇの出番だ、エクレア!!」


 俺の呼びかけに厨房から様子を見に来ていたエクレアが近づいて来た。どうやら、その様子だと何が何だかわかっていないといった感じか。丁度いいな。


「何事でしょうか?」


「悪い海賊が攻めて来たんだ。町とか関係のない人々を襲うらしいぞ、とんでもなく悪い奴らだ」


「罪もない人々を襲うなど許せません!! 成敗します!!」


「せやろ、ほらっ行ってこい!!」


 という事でエクレアを大砲にぶち込んで、さも当たり前のように打ち込んだ。名付けて人間大砲だ。ちょっと前にエクレアと編み出した技。


 火薬で熱いはずだが、エクレアの周りには魔力で守られているので、この程度ではダメージにもならない、なので実質タダな移動技とかしている。よいこは危険なので絶対に真似したらいけないぞ。


 シルドラの部下が自分もできるのではって、やってみて火傷になったからな。その傷もエクレアがすぐに回復してくれたけど。


 エクレアはそのまま、空中で態勢を器用に変えて相手の船にヒーロー着地。あいつぐらいしかできそうにない着地のやり方だ。衝撃で、相手の船が揺れる威力だ。


「さあ、親玉は誰ですか。私が相手になりますよ!!」


「姉御が来てくれたぞ!! 姉御に続け!!」


 すっかり姉御扱いされているエクレアの登場に士気も上昇だ。さてと、俺は大砲に玉を詰め込む。安全な場所で、敵を倒させてもらうぜ。


「無茶苦茶だな」


「ようは勝てばいいんだよ。シルドラはどーすんだ」


「乗り込もうかと思っていたが、お前のやっている事を見たら辞めて置いた方がよさそうだな」


 流石、シルドラだ。俺がしたい事を理解したようだ。俺は静かに相手の船の下の部分に目掛けて無言で大砲を撃ちこみまくる。


 何も、船に乗っている奴を全員倒す必要はねえのよ。そう、船を沈めれば何の問題もないってわけだ。


「エクレア!! 敵の親玉なんかどうでもいい、船を殴れ!!」


「船ですか、よくわかりませんが行きます!!」


 エクレアの魔力が乗った拳は相手の船に風穴を開けるのには十分な威力を発揮した。大砲で穴だらけになっていたのせいで、耐久力が落ちていた船はあっけなく沈んでいく。沈んだ所で逃げ場のなくなった髭熊とその部下達を捕まえる事に成功した。


「うえー、船が沈んだせいで水浸しですよ。なんか、海の水って体にまとわりつく感じがして気持ち悪いです」


「まあまあ、これで悪い奴らも捕まえられたし、一件落着って事でいいじゃねえか。ですよね、お頭(おかしら)


「まあ、やり方はどうあれ、今まで髭熊には手を焼いていたんだ。感謝だけはしておこう」


 近くの港町で、髭熊とその部下を受け渡して、俺達は水の大地に向かう。とりあえず、職業ガチャを使わずに何とか出来てよかったと思うわけ。

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