世界はお前のゴミ箱じゃねえ
俺とエクレアは一緒に旅をすることになった。なったというより強制であるが、もういい。俺はエクレアの速度に負けてるからどうしようもねえし、今はとりあえずこれからの事を女神イリステラに伝えようとスマホを取り出した。
「出ましたね、信託板」
「洗濯板みたいに言うんじゃねえよ」
エクレア的には、スマホのことは知らないので、なんか知らないけど女神と会話できる凄い板としか思っていないようだ。まあ、実際には俺の元から離れない呪いのアイテムみたいなもんなんだよなあ。
子供の頃、川に落とした時に瞬時に手元に戻ってきたので、女神パワーがかかっているそういう物なんだろうと俺は解釈している。女神との通話アプリを開くと速攻で声が聞こえてくる。
『どうも、貴方の女神イリステラよ』
「はいはい、それでだな……」
俺は魔王の配下の六魔将の事とか、宝玉の事とか、魔王城の封印の事を伝える。
『宝玉か……うーん、私が大地を安定させる時に使った奴ね。たいした力も残ってなかったと思うんだけど、今は魔王城の封印を解くのに使われてるのね』
女神イリステラの口ぶりから、どうやら宝玉の事は知っていたようだ。なら話が早いぜ。リュカ、悪いがお前との宝玉集めの勝負は俺の勝ちのようだな。
この広い世界の何処かにある宝玉を何の当てもなく探すのと、大体の場所の目星つけて探すのとじゃ、天と地程の差が生まれる。もちろん場所の共有なんかしないよ。すまん、勝負の世界は厳しいんだ。
「その、宝玉とかどこにあんの?」
『……使い終わったら捨てたわ。考えてみてよ、捨てたゴミの行方なんて誰も気にしないでしょ?』
「この世界のどっかに捨てたの!? 世界はお前のゴミ箱じゃないんだが!?」
ゴミ箱の範囲がデカすぎる。神と人間のスケールの差のせいかな。残った力で魔王城の封印を解くのに使えるって、本当はどんな凄いアイテムだったんだよ。結局、宝玉の場所はわからないままってことか。
「じゃあ、魔王城の場所は」
『私が魔王城作ったわけじゃないし、作った人に聞けば?』
「お前、何なら知ってんだよ!! 今の所、何一つ知らねえじゃねえか!!」
こいつ、マジ使えねえー。せっかく、楽して宝玉とか魔王の情報とか知れると思ったのになあ。六魔将の居場所とかわかれば、リュカに教えて討伐してもらうつもりだったんだが、この様子だと聞くだけ無意味だと悟れたので、もう聞くのをやめた。
『私って、作り終わった物には興味がないのよねー。あっ、そう言えばお願いがあるんだけど』
「すげえな。今の所、俺に何の利益ももたらさなかったくせに、頼み事だけするとかさ」
『このお願いを聞くと五連ガチャチケットをプレゼントするわ』
「俺は女神の信徒なんだぜ、女神の言う事を聞くのは当たり前なんだよなぁ。さあ、今日も張り切って頑張るぞ!!」
「アリマの態度の変わりようが別人みたいで、怖いです」
さっきから話を聞いているエクレアが後ろでドン引きしているがそんな事知るか。五連ってのは五万エンと同じ価値なんだよ。俺にとって、職業ガチャを引ける状態をキープするのは命に関わる事だからな。
今は一回分は王都を救った報酬でキープできている。てか、なんで五回まとめてしか引けないんだ。一回、一万とかでいいじゃねえか。
『じゃあ、私からのお願いなんだけど。火の大地に魔導都市エンデュミオンがあるんだけどそこの中央に大きな塔があるわ。そこに向かって欲しいの』
火の大地は俺達の現在いる大地だな。魔導都市エンデュミオンは全く聞いたことがねえ。俺は小さな名もねえ村で暮らしてきたからこの辺の地名も覚えてねえよ。
「魔導都市エンデュミオンですか……」
「知ってるのか、エクレア」
「結構大きな都市だから、大まかな場所はわかると思います。ただ、大きな塔なんてありましたっけ?」
エクレアが知っているなら、道案内はエクレアに任せてもいいだろう。ただ、塔があるかどうかはわからないようだな。しかし、火の大地にあって大きな塔なら、このだだっ広い草原からなら見えても良さげではあるな。
『その塔は私の力で隠してあるの、だから近くに着いたら教えてね。何をしてもらうかはその時に話すわ。後、私の方も忙しくなりそうだから私から通話をするのをやめるわ。アリマは寂しいと思うけど許してね』
「今日一の情報をありがとうな。喜びしか感じねえわ」
『照れちゃって』
「うぜー」
俺は女神との通話をやめた。結局の所、女神が俺に電話をかけるのをやめる以外のまともな情報を手に入れられなかった。
とりあえず、エクレアの先導の元で俺達は魔導都市エンディミオンを目指す事を第一目標に添えた。
段々と王都から離れる程に道は獣道となって行く。次第に木も生い茂ってきて、地面を歩きにくくなってきた。草陰から、俺達の前に液体上の生物が現れた。これって、スライムってやつだろうか。
「何です、この動く液体……」
「これが魔物ってやつだよ。レッドデーモンと同じ分類」
「ああ、これが噂の……なんか、レッドデーモンは私でも強そうに見えましたが……」
まあ、エクレアがレッドデーモン以外で魔物を初めて見るのも仕方がない事だ。だって、魔王が登場するまでこの世界には魔物という概念が一切なかったからな。
魔王が生み出した、この世界の生物を攻撃してくる敵みたいな感じだ。俺も初めて見たはずなんだが、前世の記憶でそこまで目新しさを感じねえ。
「この子はプルプルしてるだけですごい弱そうですね」
「まあ、スライムって名前の雑魚の代名詞みたいなやつだしな」
俺の前世の記憶では、スライムと言えば最初の村に出てくる雑魚中の雑魚。いわば、キングオブ雑魚。現在は職業ガチャは引けねえが、スライム相手に必要ないだろう。まあ、俺は一応腰にぶら下げておいた小型のナイフを抜いた。
「まあ、見てなって、こいつなら俺でも倒せそうだしな。やってやるぜ!!」
「アリマって、基本は動物以下ですもんね」
「普通に考えてさ、動物より強い人間っておかしいよな?」
動物に武器なし勝てる人間はそうそういないだろ。俺はさらに修行なんてしてないから、倒せるわけもなく。
素で使える武器が軽い小型のナイフだけ、しかもこれ武器じゃなくて通り道の草木を斬る用のやつだ。俺はウネウネしているスライムに向けてナイフを突き刺した。
「よく考えたら、うんそうだよね。液体だからナイフの攻撃なんて食らわんよな。うげっ……!!!!」
スライム君、迫真の反撃をモロに受けてしまった。仰向けに倒れる俺に近づいてくるエクレア。
「エクレア、俺もうダメかもしんねえ。絶対、背骨折れたと思うわ」
「それだけ喋れるなら大丈夫そうですね。回復してあげますよ」
エクレアの聖なる力で俺の打撲傷がみるみる回復していく。魔術というのが存在するこの世界だが、無条件で回復させる魔術は存在しないらしい。それゆえに、エクレアの存在は貴重である事がわかる。こいつも大概チートだよ。
「……アリマと知り合って短いんですが、私はアリマより弱い生物を見た事がないんですけど」
「はっ? 虫よりは強いんだが」
「あーあ、弓使ってた時のアリマは強かったんですけどね。どこ行ってしまったんでしょうか」
それは、五万エン課金した時だけだぞ。課金しない時の戦闘力はお察しだ。俺忘れてたわ、よく考えたらスライムに勝てる要素が皆無だったわ。レッドデーモンには勝ったのになあ。てかさ……。
「おかしい!! 俺が攻撃した時に液体なのに、体当たりの時に固体のような衝撃受けるのはズルだろ!!」
「誰に対する文句ですかもう!! ここは、私に任せてください!!」
選手交代してエクレアがスライムの前に立った。エクレアは拳に魔力をためて、放った。その魔力で作られた衝撃に耐えきれずにスライムは俺の前で爆発四散してしまった。
「さあ、行きますよ」
「ふぅ……」
なんかさ、エクレア一人でよくね。あいついれば無敵だろこれ。




