表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒のヴァージンロード  作者: テオ
第一章『Marriage meeting』
12/50

第一章:Marriage meeting 11

「ミミは料理が上手なんだね」


夕食の献立は少し堅めのハードなパンと、

ハンバーグ、生肉のカルパッチョ、

あわせて野菜炒めとなった。


最初は普通に食べていた

フレデさんだったけれど、

途中から思いついたらしく、

パンに切り込みを入れて

野菜炒めとハンバーグを挟んで食べていた。

私は食べたことはないけれど、

マリーが好きな店の

「ハンバーガー」みたいなものだろうか。


ヴァンパイアの味の好みとか

全然わからなかったけれど、

「美味しい美味しい」言いながら、

子供みたいに食べている姿を

見てれば喜んでもらえているってわかる。


「ちょっと味が濃いかもしれないですね」


さっきから中々に辛口なのがガロ。

机の上にちょこんと座り、

鳥みたいにクチバシで

突いて食べてるのだけれど、

これがまた欠片も残さず綺麗に食べてる。


「ガロは文句ばっかりだね。

 じゃあ俺がもらってあげ――」


「主様、他人の皿にフォークを

 伸ばすのは行儀が悪いですわ」


「いてててて!」


平然と主人が手にクチバシを刺していた。


「いっぱい作ったから、大丈夫だよ」


「それは嬉しいね。

 ではありがたくもらうとしよう」


本当は明日の朝にも

食べれるようにと思って用意したのだけれど。

いそいそと台所に

ハンバーグを取りに行く姿を見ると、

まあいいかと思ってしまった。

隣を見ると無言で

ガツガツと食べているのがマリク。

床で食べるなんてことはせず、

前足をテーブルに乗せてちょこんと、

ご丁寧にエプロンまでつけて食べている姿は

行儀のよい犬にしか見えなかった。

野菜に関しては最初嫌そうな顔をしたけど、

ハンバーグの肉汁で炒めたから、

結構気に入ってるみたい。

最後は皿まで綺麗に舐めていた。


「ふう、食事というのは中々に有意義なモノだね」


マイナ様もこのフレデさんの姿を見たら、

もっと肩の力を抜けるんじゃないかなーと思う。

ハンバーグを食べながら無邪気そうに笑う姿は、

物語に出てくる怖い吸血鬼とは

全然結びつかないのだから。


「あの、フレデさん。

 聞きたいことがあるんだけど」


ちょうど機嫌も良さそうだし、

私は気になっていたことを尋ねることにした。


「今日、ちらっと見てたんだけど、

 お客さん、来てない……よね?」


「うっ……」


気まずそうな顔をするフレデさんと、

苦笑いをする使い魔たち。

今日は夕方くらいからずっと台所にいたけれど、

少なくともその間には

お客さんが来た様子はなかったと思う。


「マリクが結構お金持ち歩いていたけれど、

 どうやってお金稼いでいるのかなーって」


錬金術のことはよくわからないけれど、

それでも何も材料もなしに

作れるモノじゃないと思う。

それだけでなく薬を詰める瓶も必要だし、

何かと資金も調達が大変なんじゃないだろうか。


フレデさんは頬をぽりぽり掻きながら


「俺にしか作れない薬は多いからね。

 特注の薬は当然高額だから、

 そういうのを定期的に売ってるだけで十分なんだよ」


「それじゃあ、あの薬の在庫は?」


「うん、何となく作っただけだよ。

 欲しい人がいるかなと思ったけれど」


そもそもお客さんが来ないから売れない、と。


「まあ、ほら。

 そのうち買い手が来るかもしれないしね。

 捨ててしまうのもなんだか気が引けるし」


そう言ってフレデさんは話は終わりとばかりに、

食べ終わった食器を片づけ始めた。


「主様、片づけくらい私たちがしますわよ」


「ガロはともかく、

 マリクはその姿では無理だろう」


「食器くらい洗えるっての」


その後ろ姿を見つめて私はぽーと考える。


(私は家政婦に来たつもりはないんだよね)


マイナ様は実習で何かをしろと言ってはいない。

フレデさんも私に

してほしいことがあるわけじゃない。

だから、何もしなくても

誰も私を責めたりはしないと思う。


でも、それじゃあミスティミリア=アイネルが

ここへ来た意味なんて何もないよね。


私にしかできないことを探そう。


きっとフレデさんにとっては

私を受け入れてくれたのは気まぐれなんだろうけど。


「……ミミ?」


でもこの人は「私がいい」と言ってくれた。

だから、私も応えたい。

なんだか寂しげな吸血鬼と

一緒にいたいと思ったんだ。


「緊張していたのかな。

 ……無理もないか」


私も、寂しい。

今まで誰からも必要とされていなかったから。

だから今度こそ、誰かに求められたい。


「おやすみ、ミミ」


気が付いたら目を瞑っていた私は、

どこか遠くから聞こえてくる

フレデさんの声を最後に、

眠りの中へと落ちていった。



第一章:Marriage meeting ~完~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ