第二章:Run a household 01
ぼやっとした意識で最初に思ったのは、
まだ陽は昇っていないし
夜明け前かなってこと。
私は普段からカーテンを閉めて寝ないから、
いつも差し込む東からの朝日で目が覚める。
たがらなんだか薄暗いから
だからまだ早い時間なのかなーと判断した。
二度寝の誘惑に負けそうになるけれど、
今日はナターシャに
相談したいことがあるのを思い出す。
「……んん」
もう秋も中旬、
そろそろ寒くなってきた。
けれど今日に限っては
いつもより温かいなぁと思って目を覚ますと
「――っ!?」
目の前に、
静かに眠るフレデさんの顔があって、
言葉通り心臓が止まるかと思った。
「えっ、えっ!?」
しかも全裸。
そういえばフレデさんは寝る時は服を着ないと、
市場の帰りにちらっと
マリクが言っていたのを思い出す。
けど、その、改めて見てしまうと
もう眠気なんて吹き飛んだ。
暗がりの中でもわかる、綺麗な肌。
吸血鬼は汗をかかないのか、
あまり匂いはしないけれど、
こう、その、同じベットで寝ていたからか
「包まれている」不思議な安心感が……。
そこで違和感を感じて、
はっ!と自分の姿を見る。
(私も下着姿なんですけど!?)
もうパニックだなんて
生易しい言葉じゃない。
パレード、そう、困惑のパレード!
自分でも何を言ってるかわからないけれど、
今の私の気持ちを表す言葉が他になかった。
フレデさんが身じろぎする。
すると顔が近づいてきて、
ますます私はどうしたらいいか
わからず目を閉じてしまう。
そんな私を救ってくれたのは、
床をするカッシャカッシャする爪の音。
「おー、起きたか?
気持ちよさそうに寝てたからほっといたけど、
そろそろ学院の時間なんじゃねーの?」
その声がする方に弾かれたように
私はベットから飛び出した。
結構派手に動いたはずなのに、
フレデさんが起きる様子が全くない。
突然の機敏な動きに、
床から見上げていた
マリクはちょっと驚いていた。
「わっ、私、昨日、寝ちゃったの?!」
「おう、制服はしわになったら
いけねーと思って脱がせといたぞ」
あっけらかんに言うマリクに
私は体を抱きかかえるように
しながら恐る恐る尋ねる。
「……脱がされて、変なことされてない?」
「はあ……。
おめーは自分の体型見てから言えよ」
呆れたような声に、
私はむっとする。
「……納得いかない」
確かに体に違和感もないし、
多分、だけど、何もされていないと思う。
けど、男の人と一緒のベットで
朝を迎えたという事実だけは
変えられないんだけど。
周囲を見回すと
確かにここはフレデさんの部屋だ。
分厚いカーテンが閉められているせいで薄暗いから、
私まだ夜明け前だと勘違いしてしまったらしい。
「フレデさん、起きないね」
私が騒いだのにフレデさんは寝たまま。
マリクは「そりゃあそうだろ」と呆れたように言い、
「朝から元気な吸血鬼なんていねーよ」
そういうことらしい。
部屋に机に丁寧に畳んで置かれた
制服を着ようとしたところで、
「そいや、朝は水浴びする習慣とかあんのか?」
「え、いやもちろんできたらしたいけど……」
王都では確かに水路がいくつか走ってるけれど、
召使いがいるような屋敷でもなければ、
普通は朝から水浴びなんてできない。
だって手間だし、綺麗な水を汲もうとすると、
生活用水が混じらない
王都上流の施設まで
行かないと手に入らない。
だから普段は水で濡らした
タオルで体を拭くくらい。
公衆浴場は結構料金が高いし……
でももう季節的に冷たい水も嫌なのだけれど。
「なら裏庭へ行けばいいぜ。
ガロを呼べば水浴びできるしな」
「ホントに!?」
よくわからないけれど、
この家ではできるらしい。
ガロが水を汲んできてくれているのかな?
とりあえず行ってみることにする。
台所の奥の扉を開けて裏庭に出る。
周囲は柵で囲まれた場所で、
木のスノコと排水溝、
更には石造りのバスタブまであった。
個人用のお風呂って初めて見たけれど、
中々にちゃんとしたモノにちょっと感激する。
「でも、水どうするんだろう?」
それどころか火を沸かすための薪とかすらない。
もう太陽は高く昇ってて日差しがあるとはいえ、
裸では少し、いやかなり肌寒い。
「ふふっ、私たちを誰だと思ってるのですか?」
その声に見上げると
「きゃっ」
とても心地よい、
少し熱めの温水が降り注いできた。
「気持ちいい!」
朝から水浴びをできるだけじゃなくて、
まさかこんな適温のお湯を浴びれるなんて!
私は感動に打ち震えながら
体の汗を流してからやっと気づく。
頭上に合ったのは石のライオンの置物。
その口からお湯は噴出していたのだけれど……
「もしかして、ガロ?」
「正解です」
口がパクパク動いていた。
「……うん」
ガロの口から噴き出していたお湯と気づいて、
なんだか複雑な気持ちになった。
別にべたつかないし透明だし、
きっと魔法か何かで出した
「普通の水」なんだろうけど……
「まあ、主様もお風呂とか使わないのですけれどね、
ここを建てる時に
つい気紛れで作ってしまったのですよ」
私は感心しながらガロを見上げながら話を聞いていた。
「はい、これも使ってください」と
なんだか良い香りのする石鹸まで渡してくれる。
(ああ……気持ちいいなぁ……)
太陽の光に照らされ、
小さな虹がキラキラ輝く。
至極のひと時、
なんだか朝から良い気分になれた。
(太陽……?)
そして気づいてしまった。
結構高い位置から
お日様は私を見下ろしている。
「完全に遅刻しちゃってる!」
呑気に体を洗っている場合ではない。
私は真っ青になってお風呂から飛び出す。
そう、私は実習二日目にして、
朝帰りをしてしまったのだった。




