プロローグ「Road to happiness」
たくさんの花が一面に咲き乱れている。
まるで宝石箱の中にいるようだ。
舞う花びらは私を祝福してくれるみたいに、
優しく私を包み込んでくれた。
「ここはね、あの人へと続く道」
美しい花畑の中に、
歌うような声が響き渡る。
金の粒子のように舞う長い黄金色の髪に、
温かい瞳と端正な顔立ち。
聖母のような微笑みは
一目見ただけで魅了されてしまう。
「道?」
私が問いかけるとその人は頷いて、
ゆっくりと手を空にかざす。
するとまるで魔法みたいに、
花畑が左右に分かれていく。
そしてその開けた場所が、
遠く……遠くへと続く道となる。
その道は黒いけれど、
でもどこか温かい……不思議な黒色だった。
その人は純白のローブをひるがえして、
戸惑う私の手を引きエスコートしてくれる。
「そう、これは道なの」
その人は言葉を繰り返す。
「これは未来へ続く道」
不思議そうな顔をする私に、
その人は楽しそうに笑う。
「あなたは花嫁になることを望んだ。
そう彼の永遠のパートナーになることを」
……そうだ、思いだした。
彼は私にずっと傍にいて欲しいと求めた。
そして私は、ずっと一緒にいること誓ったんだ。
「――」
そして、その人は
私が歩んでいるこの道の名前を告げる。
オウム返しに聞き返すとその人は頷いた。
視線が先へと向けられる。
そこにあるのは、黒い教会。
花畑にポツリとどこか寂しげに佇んでいる。
(そっか……あそこで、彼が待ってるんだ)
こんな私を必要してくれた、愛おしい人。
大切な想いを胸に抱え、私は歩んでいく。
彼へと続いて行く道を。
これは私の幸せの記憶。
短い時間だったけれど彼と築いてきた時間は、
キラキラとした宝石よりも眩く輝いている。
始まりは大した意味もなかったのかもしれない。
けど触れ合う日々は……
私の気持ちを育て、彼の寂しさを埋めていった。
他の人からしたら少し退屈かもしれない、
そんな穏やかで静かな日々。
けれど幸せの全て詰まった時間だった。
悲しいこともあったけれど、
全てがこの瞬間へと繋がっている。
さあ、語ろう。
――私と彼の、恋愛物語を。