5話 富士への道程
赫竜病患者を収容するため、キサラギには隔離病棟が存在する。今のところ赫竜病の発症はデミオン濃度に関係すると言われているため、空気感染はしないだろうと見られている。しかし感情面や、赫竜病最終段階において竜人化した患者が暴れ出してもいいように隔離されていた。
隔離病棟は赫竜病治療の研究をしているため、研究区画としての役目を持つ。
シオンはオベリスクを訪れた後、この研究区画に来た。
「彰先生、来ましたよ」
「お、来たね。じゃあ今日も頼むよ」
「はい」
迎え入れたのは白人顔の男だ。
伊藤彰という研究区画で働く医者兼研究員である。祖父がアメリカ人だったこともあってアジア人らしからぬ顔つきの彼も、籍の上では日本人である。
「今日も血液採取するから、そこに座って」
彰がそう言い終わる前にいつもの椅子に座り、腕をまくって差し出した。こうして血を採取するのもこれが初めてではない。何年も定期的にしていることだ。
採血用注射器を抜き取り、容器に赤黒い液体が溜まっていく。
そして針を抜くと、すぐに痕は消えた。ドラゴンスレイヤーの回復力によるものである。
「協力感謝するよ」
「それで、赫竜病の治療目途はどの程度ですか?」
「進行を僅かに遅らせる……かもしれない」
「まだそこですか」
「残念ながら、まだ君の体質の原因は特定できていないからね。培養した竜人化細胞で実験を繰り返すしかないよ。とても人間に投与できるレベルじゃない」
赫竜病はデミオンが原因であることだけは分かっている。しかし、発病メカニズムについては不確定な部分が多い。
彰も長く赫竜病を研究しているが、分からないことの方が多かった。
「知っての通り、赫竜病は私たち人間にだけ感染する。人間以外の動物も植物も赫竜病には罹らない。人間のDNA配列にだけ反応する何かがあるのかもしれないし、人間にだけ存在しない何かがあるから動物は赫竜病に罹らないもかもしれない。実に不思議だ」
「それは知っています。アーカイブにも載っている話です」
「そうだね。この赫竜病は既存のウイルスや菌による病気とは異なる。どちらかといえば癌に近い。さしずめデミオンは放射性物質のようなものかな。細胞そのものを変質させている。まさに新しい粒子、新しい法則というわけだ」
シオンは首を傾げた。
今の話は素粒子物理学の一端であり、シオンには理解できない話である。それに気付いた彰は、より分かりやすいように言葉を変えた。
「この世界を構成する最小の単位は何かな?」
「原子です」
「そうだね。だが、原子はもっと小さくできるはずだよ」
「……陽子、中性子、電子のことですか?」
「うん。正解だ。しかしまだ不十分だね。この陽子も中性子も更に細かく分割できる。素粒子いうもので、まぁ、色々と種類がある。クオーク、レプトン、フォトン、ボゾン、グルーオン、ヒッグス粒子、グラビトン……大体はその辺りだね」
「ああ、法則ってそういう」
「電磁波を記述するマクスウェル方程式も、重力を記述する一般相対性理論も、この素粒子について述べた式ということになる。さて、そんな方程式の中にデミオンという異物が混じったらどうなると思う?」
「方程式が……法則が狂う、ですか」
「その通り」
シオンに分かりやすく簡潔に述べられた説明だったが、実は正確ではない。たとえデミオンが新素粒子だったとしても、他の素粒子に干渉する性質がなければ法則そのものが狂うことはない。ただ、デミオンという新しい法則が生まれるだけである。
法則が変わるということは、デミオンが他の素粒子に干渉するということだ。
具体的には、既存物質を対竜武装の元である竜結晶に変質させたり、人間をドラゴンに近くしたり。あるいはドラゴンという新種族すら生み出す。
科学者でもある彰はそれらの事実を事細かに詳しく説明したいという衝動を覚えたが、ここは我慢した。
「さて、私の仕事は変質した法則を探るという大仕事だ。時間も根気も必要になる」
「分かりました。治療が難しいということは」
「理解してくれて何よりだね」
癌という病についてはシオンもよく知っている。紀元前一五〇〇年頃から既に癌という病を認知していたとされており、三千七百年経った今でも完全な治癒は難しいと言われる大病だ。
そんな癌に例えるのだから、赫竜病の厄介さもよく分かる。
「そういえば対竜機関の科学者がキサラギにまで来てわざわざ実験をすると聞いたよ」
「何故それを知っているんですか? 一応は二月機関の秘匿作戦なんですが」
「さっきまで私の研究室に客がいてね。リシャール博士とその助手さんだったか。彼らと意見交換をしていたんだ。その時に実験のことを聞いたよ」
「実験のこともですか? それはどんな?」
何も知らされていないシオンからすれば、この情報は棚から牡丹餅だ。
特に実験内容は水鈴にも知らされていない事情である。
些細なことでも知りたかった。
「私も詳しいことまでは教えてくれなかったよ。ただ、ドラゴンの誘導……と言っていたね」
「誘導?」
「君たちドラゴンスレイヤーが体内デミオンを誘導して刀に集めるように、デミオンの塊である竜を誘導する実験じゃないかね? 少なくとも私は彼らの言をそう捉えたよ。その実験に君も参加するのだろう? 無事に帰ってこれるよう祈っているよ」
「それは、どうも……」
ドラゴンの誘導。
シオンには彰の言葉が強く耳に残った。
◆◆◆
五月十九日、キサラギから六台の大型車両が出発した。その内の四台にキサラギのドラゴンスレイヤーが乗っており、一台にRDOのドラゴンスレイヤー、最後の一台は科学者たちとRDOから運んできた実験機材を乗せている。
地下シェルターの車両入口から次々と車が現れ、キサラギ沿いの旧国道を西側へと進み始めた。ここから東名高速道路に乗り、富士の南部まで移動する。
「あれは……」
「赫竜病患者の保護を訴える団体のデモだね」
車窓から外の光景を見て呟いたシオンに、同じ車に乗っていた正一が答える。それに続いて玄と浅実も補足した。
「彼らの掲げる旗……旭日旗か。昔の自衛隊が使っていた旗だね。あの旗を掲げた自衛艦隊は日本の海を守り、そして第三次世界大戦の戦火を全て撥ね退けたそうだよ。まさに英雄たちの旗だね」
「旭日旗ということは、あれが噂になっている『旭』ね」
シオンも聞いたことはあった。
赫竜病患者を保護している組織で、活動そのものは最近になって始まったとされている。そもそもキサラギも詳細には把握していない。
世紀末の悪夢によって東京が壊滅して以降、周辺地域の暮らしや保証は地に落ちた。自分の身は自分で守らなければならない世の中になってしまった。ドラゴンスレイヤーというドラゴンへの対抗策を持たない人々はこうして集まり、定期的にキサラギに対してデモを行うことで保護を求めている。
「キサラギだって赫竜病患者を嫌がって拒否しているわけじゃないのに」
「そういうな浅実。彼らだってわかっている。だが、主張しないと何も解決しない」
玄が言う通り、赫竜病患者の受け入れに関してキサラギでは容量一杯だ。
確かに赫竜病という死病患者を、感染のリスクまで背負って受け入れるのは心理的に容易ではない。空気感染はしないし接触感染も非常に低確率であるため、滅多なことで赫竜病に感染することはない。だが、近くにいて気持ちの良いものでもない。
大抵の場合、赫竜病患者の受け入れ拒否は赫竜病に対する忌避感から生まれるものだと勘違いされる。
「今回の作戦でRDOから資源を大量に貰ったらしいです。夏凛さんの話ではその物資でキサラギを拡張するとかなんとか」
「夏凛さんって、当主様の秘書さん? 流石に一族だけあって仲いいんだね」
「いえ」
「ちょっと正一。なんでそいつと仲良くしているのよ。莉乃の仇よ?」
浅実はシオンを睨みつけながらそう言い放つ。
先日のことがあってから正一は多少心の整理が付いたのだろう。会話ぐらいはしてくれるようになった。しかしその仲間の玄や浅実はまだシオンを赦せないらしい。
シオンも黙り込む。
また玄は取りあえずシオンを無視することにしたらしい。露骨に話題を変えた。
「しかしようやく拡張か」
対竜防壁はデミオンを組み込んでいるため、簡単に拡張するというわけにはいかない。物資の問題で以前から計画されていても困難だった。
これはドラゴンスレイヤーとしても嬉しいことである。何十年もかかるだろうと言われている資材調達がこの一任務で済むのだから。
「何とか工場も増やしい欲しいわね。最近は食料も不足気味だし、リサイクル設備も飽和状態でしょ?」
キサラギも少しずつ人口増加中で、足りないものは年々増えている。そんな中で画期的と言われたのがリサイクル設備関連だ。廃棄された機材を各地から回収し、その機材を分解して資材に変える設備の総称である。資源の少ない日本ではかねてから研究されていたことで、キサラギ建設の際、その粋を詰め込んだ設備として完成した。
ただリサイクルには効率的に欠けるという欠点もある。そのせいで飽和状態が続いているのだ。リサイクル品にはドラゴンスレイヤーが使う刀や銃の部品も含まれるので、彼らにとって設備の飽和は死活問題ともなり得る。
「何にしても、今回の任務で生き残らないと話にならない。気を引き締めろよ玄、浅実」
「了解だ。リーダーもな」
「赤ちゃんが生まれるもんね」
「茶化さないでくれ……」
少し恥ずかしそうにする正一を見て、シオンは思わず目を逸らした。
(俺はこの人たちから仲間を奪った。もし、この人たちが竜人化したら……また)
その時はまた仕事をするだけだ。
化け物らしい思考を奥へと押しやり、また窓の外を眺め始めるのだった。
◆◆◆
ガタガタと激しく揺れる大型車両内部で、リシャールは実験の確認を行っていた。RDOはヘリで輸送してきた一台の大型実験車両の他に、二台の車をキサラギから借りている。リシャールが乗っているのは、持ってきた実験車両だった。
「主任、可能な限りキャトルの調整が終わりました。到着後に最終チェックと微調整をします」
「ありがとうシモン君」
リシャールはシモンからデバイスを受け取り、調整データをチェックする。そして何も問題ないことを確認し、笑みを浮かべた。
「竜の巣に着いたら実験の最終調整に入る。そして実験開始は二十一日の朝だ。念のため、明日も調整に費やそうと考えているよ」
「つまり実験は明後日ですね。ワクワクします」
「ああ、私もだよ。これまで苦労した。私がトロワ計画で助手をしていた頃を思い出す。あの時も実験の前日はワクワクと心が躍ったものだ。尤も、あの実験は失敗だったがね」
「主任ならば失敗なんてありません。調整も完璧ですよ!」
「勿論だとも」
自信たっぷりの笑い声が響く。
それを聞きつけてか、もう一人の助手であるヴァンサンもやってきた。
「どうしたんですかリシャール主任? 何か愉快なことでもありましたか?」
「ああ、ヴァンサン君。ドラゴンスレイヤーとの打ち合わせは終わったかね? 何だったかな? 今回の護衛の小隊の……」
「大鷲小隊の方々ですよ。いい加減覚えてくださいよ主任」
「すまないすまない。関心のないこと限定のアルツハイマーなのだよ」
そんな冗談を吐いて大笑いする。
シモンもヴァンサンもその冗談は何度も聞いているので、いつも通り苦笑しておいた。
「しかし主任、今回ばかりは機関に感謝しなければいけませんよ。RDOの誇る二十六小隊の内、Eを冠するイーグル小隊……それも小隊内部で最も実力のある六人を付けてくださったわけです。実験に期待されているということなんですから。それにキサラギのシノビたちも、中々の実力者揃いです。エース級小隊を幾つか護衛に回して貰っていますからね」
「だがシモン。所詮は極東だろう? エース級といっても信用できるのか?」
「おいおい。知らないのかヴァンサン? 奴らの戦い方は世界一洗練されているって有名なんだ。本当のエースはたったの一小隊で大型竜を倒すって噂だぜ。個々の実力はともかく、洗練された連携でドラゴン共を仕留めるそうだ。今日にでもその戦いが見られるかもな」
「それは知らなかったな……」
「私も初めて知ったよ」
「まぁ、主任はそうでしょうね……自分のところのドラゴンスレイヤーですら曖昧ですし」
一部の者にとって、ドラゴンスレイヤーとはヒーローだ。ドラゴンスレイヤーに命を救われた経験のある者も少なくはない。彼らは特にドラゴンスレイヤーへ興味を抱く。しかし一方で、そんな経験のない者はあまり興味を示さない。自分たちを守ってくれる兵隊の一人という認識だ。地域によっては危険な存在として忌避されることもある。
あくまでも傾向だが、シモンの場合は前者だった。幼い頃、ドラゴンに喰われそうになったところをドラゴンスレイヤーに救われている。それ以来、個人的にドラゴンスレイヤーに興味を持っているのだ。
「さてシモン君。君のドラゴンスレイヤー談義にはまた今度付き合うこととしよう。それより、ヴァンサン君には今後もイーグル小隊との連携を頼む」
「任せてください。当初の予定通り、輸送警護や警戒はキサラギの連中に任せて、イーグル小隊には機材の護衛に徹して貰うことになっています」
「移動中もドラゴンは出てくるのかね?」
「竜の巣に向かうわけですから、少なくとも一度は遭遇すると思いますよ」
「ふむ。それもそうだ」
富士樹海はドラゴンの蠢く地だ。
最悪の場合、大量のドラゴンに囲まれてジ・エンドだ。小型竜が一匹現れただけでも人間にとっては充分すぎる脅威だ。小型どころか中型や大型すら出現する竜の巣は危険地帯という言葉すら生ぬるい。そんな場所に向かう以上、ドラゴンとの遭遇は必至である。
そんな会話をしていたからだろう。
車内にけたましいサイレンが鳴り響いた。ドラゴンの接近を知らせる警報である。
「噂をすれば、だね。噂のシノビたちを見学させて貰おうじゃないか」
車外を映す複数のカメラには、別の車両から飛び出すキサラギのドラゴンスレイヤーたちが映っていた。
◆◆◆
警報が鳴った直後、シオンは素早い動きで立ち上がる。そして大型車の上部装甲をスライドさせて、上面から顔を出した。ドラゴンは空からやってくることがほとんどであるため、こうした移動中の遭遇はまず空から確認することになっている。
シオンはまず、車の進行方向から迫る一匹の小型ドラゴンを見つけた。念のために全周囲を確認するが、小型ドラゴン以外にドラゴンは見えない。
「小型竜が一匹だ」
そう報告しつつ、車の屋根に上がる。
この距離では銃弾も届かない。狙撃銃ならばまだ届くが、生憎とシオンには狙撃技術がない。それに揺れる車上から的確に空飛ぶドラゴンを狙い打つのは熟練者でも難しい。
「シオン、狙撃銃はいるかい?」
「俺の腕では無理です。俺たちは監視に徹してあの竜はエースに任せるのが適正でしょう」
「ま、そうだね」
流石に業務連絡程度のコミュニケーションは許容するらしい。ただし、話しかけてくるのは正一で、玄や浅実は未だにシオンを睨みつけるだけだ。
正一、玄、浅実も次々と車の屋根に上がり仲間に背を預けて円陣を組む。全方向を監視し、追加でドラゴンがやって来たときにすぐさま対応するための陣形だ。
シオンを含め、全員がインカムを受信モードにした。
するとすぐに自信たっぷりな声が耳に入ってくる。
『一〇一小隊の諸刃だ。すぐに仕留める』
同時に、深い銃声がする。
空を飛ぶドラゴンが身じろぎして墜落した。一撃で心臓を辛い抜いたのだ。自在に空を飛ぶドラゴンの心臓を揺れる車上から撃ち抜く超高等技術。
キサラギ最高の狙撃手、六道諸刃だ。
(流石……)
エース級小隊の中で一番の実力である一〇一小隊の狙撃手は人外の腕前だ。それもそのはずである。六道家はキサラギの竜殺一族にして、ドラゴンとの戦闘術を研究する家系でもある。剣術や銃撃の腕を鍛えることは勿論、対ドラゴンを想定した多数の戦術を考案している。
シオンたちがやった監視体制もその戦術の一つだ。
ドラゴンと戦う小隊を援護するため、他のドラゴンが戦闘に介入しないよう監視し、場合によっては気を引いて囮役を務めるというものだ。今回は小型ドラゴンが一体だけだったので問題なかったが、複数のドラゴンと遭遇する場合は有効となる。ドラゴンを楽々討伐するエース級小隊に討伐を任せ、他の小隊は時間稼ぎをするのだ。
これらの計算された連携こそ、キサラギのドラゴンスレイヤーの強みである。
『討伐完了。こちらでコアの回収をしておく』
ドラゴンは地に落ちた。
たとえ小型であっても、ドラゴンのコアは貴重な資源である。きっちりと回収する。六台の大型車は順番に停止した。
シオンたちも車が停まるのを見計らって警戒を解く。
「やっぱりエースね……今の諸刃さんの狙撃でしょ?」
「うお……あんなのよく当てたな」
浅実と玄はそれぞれ素直な感心を言葉にする。
いや、この二人でなくとも先の狙撃は芸術的なまでに見事だった。誰にでもできることではない。世界に誇れる偉大な技術だ。
「おーい。すぐに発進するから車に戻るよー」
正一はそう声をかけつつ、車内へと降りていく。それに続いて玄も浅実も戻って行った。
一人残ったシオンは遠目から落ちた小型ドラゴンを観察する。その目的はその小型ドラゴンに近づく三つの人影だ。
(諸刃、蒼真、青蘭……やっぱりあの三人か)
一〇一小隊。
たった三人でありながらキサラギにおいて最強の小隊だ。六道諸刃が隊長として指揮しつつ遠距離から反則気味の狙撃をこなすというのが持ち味である。勿論、近接戦闘を担う如月蒼真と如月青蘭も優秀なドラゴンスレイヤーだが。
そしてシオンが無気力に見つめていると、諸刃が振り向いて視線を合わせてくる。普通ならば気づかないはずの距離だったが、世界最高クラスの狙撃手には関係なかったらしい。
(……っ!)
シオンは思わず目を逸らした。
浮かび上がった感情は罪悪感と自分自身への嫌悪感。
逃げるように、車内へと戻って行った。
◆◆◆
「どうしたんだ諸刃?」
「いや、何でもない」
蒼真の問いかけに諸刃は首を横に振りつつ話を終わらせる。
「それよりもコアの回収は?」
「もう青蘭が終わらせたぜ。お前がボーっとしている間にな。ほら」
そう言って彼が指差す先には、コアを容器に入れて手を振る青蘭がいた。諸刃は本当に自分が気を抜いていたことを悟る。
(いや、あいつの視線を感じたからか)
脅威であるドラゴンは既に討伐しているため、コアを回収すれば仕事は終わりだ。富士樹海への道程はまだ長い。ここで長く立ち止まっているわけにはいかない。
「諸刃ー! さっさと戻るわよ!」
「ほら、青蘭も呼んでる」
「ああ」
先に戻っていく蒼真と青蘭を追って、諸刃も車に向かう。
感じた視線について、想いを巡らせながら。