目覚めたら、隣に「元」人形
こんにちは!見に来てくださってありがとうございます。
もしも、ずっと可愛がっていた人形が、突然人間になって隣で寝ていたら……?
そんな「あったらいいな」と「どうしよう!」を詰め込んだお話です。
無自覚に甘えてくる元人形のアルと、赤面しっぱなしの主人公。
二人の「甘々」で「じれじれ」な毎日を、ゆっくり覗いていってください!
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朝日が差し込む、いつもの見慣れた自室。
パチリと目を開けた私の視界に、真っ先に飛び込んできたのは、いつもの天井……ではなく。
「…………え?」
目の前に、誰かの「顔」があった。
それも、息を呑むほど整った、見覚えのある造形。
「おはよう、ご主人様」
低くて、少しだけ硬さの残る声。
その主は、私のベッドに潜り込み、私の顔をじっと見つめていた。
透き通るような肌に、ガラス玉のように綺麗な瞳。
「あ、あ…………ええええええええ!?」
私は飛び起きた。
反射的にベッドの端まで下がり、毛布を抱きしめて震える。
そこに座っていたのは、見知らぬ全裸の——いや、正確には「見知らぬ」ではない。
「……アル、なの?」
私が呼んだのは、昨日まで棚に飾られていた、アンティークの球体関節人形の名前。
彼は、こくりと首を傾げた。
「そうだよ。……体が、暖かくなった。これが『人間』?」
彼は自分の細い指先を不思議そうに見つめ、それからまた私に視界を戻した。
そして、ためらいもなく手を伸ばし、私の頬に触れる。
「……あ」
熱い。
昨日までは冷たい磁器の肌だったのに。
今は、ドクドクと脈打つ鼓動が、指先を通して伝わってくる。
「ご主人様、顔が赤い。……故障?」
「こ、故障じゃない! そもそも私は人間だし……! っていうか、近い! 近いから!」
私は彼の胸を押し返した。昨日までは、毎日抱きしめて寝ていたはずなのに。
服を着ていない彼の肌に触れた瞬間、頭が沸騰しそうになる。
バタン、と勢いよくドアを閉め、私は廊下で崩れ落ちた。
心臓の音がうるさすぎて、自分の呼吸さえも熱く感じる。
「……ありえない。あんなの、聞いてない……」
確かに私は、彼——アルを愛していた。
アンティークショップの隅で埃を被っていた彼を見つけたあの日から、毎日話しかけ、服を縫い、夜は寂しくないようにベッドの隣に置いていた。
けれど、それはあくまで「大切にしている物」への愛情だったはずだ。
「あの体、あんなの……ズルい……」
脳裏に焼き付いて離れないのは、朝日を浴びて白く光っていた彼の肢体。
人形らしい線の細さはそのままに、薄い筋肉と柔らかな肌を備えた、完全な「男の子」の姿。
そして何より、あの熱。
私は慌てて兄の古い服をクローゼットから引っ張り出し、深呼吸をしてから再び部屋へ戻った。
「アル、これ。とりあえず着て……」
部屋に戻ると、アルは私が逃げ出した時と全く同じ姿勢で、ベッドの上に座っていた。
まるで、主人の帰りを待つ忠実な犬のように。
その無垢な瞳に見つめられると、妙な罪悪感が胸を突く。
「……着せてくれないの?」
アルが不思議そうに首を傾げた。
「なっ……! 自分で着てよ! もう人形じゃないんだから」
「やり方がわからない。……今までは、全部主人がやってくれたのに」
そう言われてしまえば、返す言葉がない。
昨日までの彼は、自分の意志で腕一本動かすことすらできなかったのだ。
私は渋々、彼のそばに歩み寄った。
「……腕、通して」
至近距離。
服を被せようと近づいた瞬間、アルの体から漂う香りに気づく。
古い屋敷のような、どこか懐かしいお香のような匂い。それは、彼が人形だった頃の残り香と、生身の人間が持つ微かな体温の匂いが混ざり合った、酷く甘い香りだった。
私が震える手でボタンを留めている間、アルはずっと私の顔を覗き込んでいた。
「主人の手、震えてる」
「……うるさい。動かないで」
「顔も赤い。……やっぱり、故障?」
彼はまた、あの冷たい磁器のような、でも今は温かい指先で、私の耳たぶをそっとなぞった。
その瞬間、電流が走ったように全身の毛が逆立つ。
「やめてってば!」
「……どうして? 人形の時は、いつもここにキスをしてくれたのに」
アルの言葉に、私は息が止まった。
寝る前の、おやすみの挨拶。誰も見ていないからと、おまじないのように繰り返していた私の習慣。
それを、彼は「意識」していたというのだろうか。
「……それは、あなたが人形だったからで……!」
「人間になったら、もうしてくれないの?」
潤んだ瞳でじっと見つめられ、私は言葉に詰まる。
彼にとっては、昨日も今日も変わらない。主人は主人で、自分は主人のもの。
けれど、私にとっては——。
「今は……ダメ。とにかく、ダメなものはダメ!」
何とかボタンを全部留め終えると、私は彼を突き放すように立ち上がった。
これからどうすればいいのか、全く見慮がつかない。
ただ一つ確かなのは、今日から私の平穏な日常は、この「美しすぎる元人形」によって、めちゃくちゃにかき乱されるということだけ。
「……お腹、空いた」
お腹の音さえ鳴らさない、静かな呟き。
人間になったばかりの彼は、まだ「空腹」という概念すら知らないはずなのに。
「……わかったわよ。何か作ってくるから、そこで大人しくしてて」
私は逃げるように、二度目の退散を決め込んだ。
背後から、「待ってるね、ご主人様」という、とろけるように甘い声が追いかけてくる。
まだ「好き」なんて言葉にするには、早すぎる。
だって、彼が求めているのは私の「愛」なのか、それとも「所有者としての執着」なのか。
その答えが出るまで、この距離感は、きっと縮まることはない。
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