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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode10『The Lightning Dyes White on Black』
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episode10 sect1 ”電子の海に渦巻く悪意”

 濛々と立ち昇る黒煙。

 報道ヘリに乗って、遙か上空の安全圏から眺めているはずなのに、巻き込まれ、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえてくるようだ。

 爆破テロのターゲットとなったのは、首都ワシントンD.C.に位置するIAMOの物流センターだった。人間界における異世界貿易の一大拠点であり、敷地の一部がショッピングモールとしても利用されているために、IAMOの事業とは無関係な民間人も大勢集まる場所だった。


 「狙ったのはあくまで倉庫側、ね。だから良いって話にゃならんだろうに」


 実行犯と目されているのは、オドノイドを保護する方針を固めたIAMOに反発して結成された新興国際テロ組織、『BLEACH(ブリーチ)』だ。

 彼らは、10月末の声明以来、驚くべきスピードで勢力を拡大しており、既に世界中のあらゆる国に構成員が存在する状況となっていた。



          ○



 夜のイスタンブールを青く照らす警告灯の群れ。ガスの蒼炎が揺れて変色するように、時折オレンジの光が瞬いている。


 『BLEACH』が急激に規模を広げた最大の要因は、彼らの挑戦的な勧誘方法にあった。インターネット―――特にスマートフォンの普及に伴って、いまとなってはやっていないだけで人間性を疑われることさえあるほどに利用者数が増加した、ソーシャルネットワーキングサービス、すなわちSNS。

 彼らはそれを主要な勧誘手段として活用し、老若男女問わず、少しでも興味があれば誰でも気軽に―――そう、わずかでもIAMOに不満を抱けばオススメに上がってきて、本当に恐ろしいくらい気軽に参加出来る反体制派のコミュニティを形成したのだ。


 「撃て撃て!!くそ、来るな!!俺たちは警察に用なんかねぇんだよ!!」


 「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ!!まぁその用もお前らがいなけりゃあ無かった用だがな!!」



          ○



 だが、その気軽さは、本来ならテロリズムとは無縁のものだった。

 インターネットの世界でだけ気が大きくなる人間と現実の暴力の間にある垣根を敢えて取り払った結果、招いたのは”漂白(BLEACH)”とは名ばかりの、野放図な暴動の拡大だった。


 チュニジアの観光名所、シディ・ブ・サイドの白亜と空色が美しい街並みは、ここ数日の混乱ですっかり煤けて見る影もない。捕らえられた主犯格の口から語られた動機は、正気を疑うほどに稚拙なものだった。

 IAMOナイロビ支部の総務課長の別邸があると聞いたから、とりあえずアタリを引くまでそれっぽい建物に火炎瓶を投げ込んでやろうと思った、だそうだ。ジュラル星人かな???

 取り調べをした警察官も、これにはさすがに頭を抱える他なかった。仮にもテロの片棒を担ぐというのだから、せめて「動機は?」と聞かれたらIAMOの体制に対する不満とか過去に受けた仕打ちに対する恨み辛みとか、そういう理由を返してもらわなくては困るのだ。それが、なんだ。タチの悪い非行少年も同然じゃないか。


 「奴ら、『BLEACH』とかオドノイドを憂さ晴らしの免罪符だとでも思ってやがるんです。こんなのがいつまで続くんでしょうね?付き合ってられませんよ・・・」



          ●



 ほとほと疲れ果てた顔でインタビューに応える警察官には、同情を禁じ得ない。ベル―――本名はベルモンドだが、みんなにはそう呼ばれている―――は、ホテルの部屋のテレビで国際ニュースを流しながら、コーヒーを啜って、ホッと一息ついた。


 「んー・・・。やっぱり生産地で飲むコーヒーは格別だな」


 ベルが滞在しているのは、コーヒー豆の一大生産地であると同時に、南米屈指のコーヒー消費文化発信地とも言われるブラジル・サンパウロ市だ。IAMOに籍を置くオドノイド魔法士のベルにおいては、当然旅行なんかではなく、仕事での滞在である。

 しかしどうやら、ここ数年サンパウロではコーヒーよりも大きな市場を誇る新たな嗜好品が台頭しているようなのだ。その嗜好品の正体というのが、異世界から密輸入された新しいドラッグなのだが、その流通を裏で糸引いているのが魔界(アスモ・コスモ)・リリトゥバス王国だと目されている。

 王国の人口のほとんどを占める二大人種がひとつ、サキュバス族の有する起源魔術(オライゴ)は、非常に高度な変身魔術だ。変身して人間社会に紛れ込み、違法薬物―――厳密にはまだ法整備されていない危険薬物を売り捌いているのである。

 警察はもちろん、異世界絡みの事件ということもあってIAMOも捜査を行ってきたが、犬の鼻でも本物の人間と見分けがつけられないサキュバス族の変身を、人間が見つけられるはずもない。表面的な魔力特性まで擬態するため、黒色魔力センサーにも引っ掛からない。

 だが、そんなサキュバス族の変身に対抗しうる唯一の手段があった。そう、オドノイドだ。

 以前、日本の一央市ギルドを出入りしていたサキュバス族の工作員を、任務で現地に滞在していたオドノイドが発見した実績がある。オドノイドの魔力感知は、IAMOが世界中に設置している高級な保安機器よりも高性能なのだ。


 支給品のPCで今日の調査結果の報告書を作成し終えたベルは、ベッドに寝転がる。それから、お気に入りの抱き枕(アニメキャラのえっちでリバーシブルなやつ)を『召喚(サモン)』し・・・・・・ようとして、失敗した。


 「ちくしょう、早い者勝ちってなったら働いた方が負けるに決まってるじゃんか!!もう良いもんね!!不貞寝してやる!!目覚ましも掛けない!!ねー、サーシャたん!!」


 サブの抱き枕(第2夫人の、勿論えっちでリバーシブルなやつ)を『召喚(サモン)』して、ベルは布団を被った。明日も任務だが、宣言通り目覚ましはセットしていない。

 そもそも、ベルがこんな面倒な仕事をしているのだって、IAMOの命令を素直に聞いて成果を上げ続けなくては、いつお払い箱になるか分かったものではないからだ。不要と言われたオドノイドがその後どんな末路を辿るかなんて、想像もしたくない。少なくとも居場所を取り上げられてどことも知れない場所に放り出される・・・なんて生易しいものではないだろう。というか、そんな形で支配から解放される可能性があるのなら、率先して解雇されにいく。働いた方がまだマシだから、嫌々働いているに過ぎないのである。


 そう、すなわち、ベルの将来の夢はニートになることだ。働きたくない。同じオドノイドの仲間であるロゼのヒモになって、困り笑いでお世話してもらえたらなお良い。それ以上望むことはない。

 昼過ぎまでベッドでゴロゴロして、適当なもので腹ごしらえしたら、日が暮れるまで本を読んだりアニメを見たりして、夕方、仕事を終えて帰って来たロゼが美味しいごはんを作ってくれるのだ。夕食を終えたら、2人で軽くお酒を嗜みながら、暗くした部屋でソファに並んで座って映画でも見て、それからなんとなく高揚した気分に任せて愛を育むのだ。


 「むふ・・・ふふふ・・・。あー。おでんが計画を完遂してオドノイドの市民権確立してくれる日が待ち遠しぃ」


 これが、世が世なら中学1年生くらいの女の子に将来を丸投げして職を失うことを夢見る成人男性の姿である。よく目に焼き付けておくように。みんなはこうなっちゃいけないぞ。


 (・・・どうしよう。そんなこと考えてたら本気で明日のやる気も失せてきた。いや―――そうだよ、だってもう世界中テロだらけだもん。ビスディアの一件で俺って顔割れてるし、『BLEACH』の構成員がどこに潜んでいるか分かったもんじゃないし。よし、それだ。IAMOの魔法士たるもの自分の身は自分で守れって言われるもんな、うん)


 覚悟は決まった。やるならとことんだ。ベルは支給端末の電源を全て切って雲隠れ宣言をし、部屋の明かりを消した。


 ベルが、抱き枕に吸い付きながら微睡みの世界に半身を浸らせた頃だった。コンコン、と、部屋のドアをノックされて、ベルの意識は否応なしにリアルへと揺り戻された。


 (雲隠れがバレた・・・?いや、今回の任務は俺ひとりだぞ?よしんば疑われてもこんな短時間で誰か様子を見に来るか?)


 怪しい。


 言い訳に使った『BLEACH』だが、実際問題ブラジル国内でも既に活動が展開されている。明日引き籠もったところで、今日までの外出で見つかっていればなんの意味もない。

 オドノイド死すべし、という訴えでIAMOに石を投げる連中だ。オドノイド本人がいるならそっちを優先して叩くのが道理である。

 だが、ベルも素直に襲われてやるほど優しくない。抱き枕を『召喚(サモン)』で元の場所に戻しつつ、ベルは物音を立てないよう注意しながらベッドを出た。


 (割合で言えばヤツらの大半は武装した民間人。そこまで凝ったことはしてこないだろう)


 銃で武装していれば、ドアの前に立っただけで蜂の巣にされることもある。ベルは部屋の奥に目をやった。ありきたりではあるが、やはり窓からだろう。ここは地上10階。プロ魔法士でも並では飛び降りられない高さだ。オドノイドの頑丈さを十分理解しているとは言えないテロリストもどきの民間人に、この行動は予測出来まい。

 あくまでドアの向こうへの警戒は続けながら、ベルは後ずさるように部屋の窓まで移動した。引き続き音を立てないよう、ゆっくり、ハンドルに手を掛ける。出るときは一気に。緊張を高めながら、ベルは手に力を込める。


 窓ガラスが割れて、ベルの眼前をオレンジの流れ星がよぎった。


 「・・・・・・へ?」


 流れ星?

 オレンジの?

 窓ガラス?

 どこから?


 思考が、まとまらない。


 すーすーする。


 脳天に風穴が空いていた。


 たったひとつ、それすら遅れて思い至る。


 一般人かと思ったら逸般人でした。


 「お"ッあァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"っ~!?!?!?」


 狙撃されたことに気付いたベルが振り返るより早く、5.7mm弾の嵐がドアごとベルの全身を挽肉に変えた。

 いかにオドノイドと言えど、骨や筋肉を損傷すれば一時的に行動不能となるし、脳や脊髄を破壊されれば正常な反応を失う。死ににくいだけで、構造は人間とほぼ同じなのだから当然だ。


 「か・・・・・・は、ぁ・・・っ、ひ、ぅ・・・」


 「むしろ一瞬でまばたきすら出来ないほど全身グチャグチャにされても即死出来ないのは憐れでさえあるな」


 「なんだ、同情しているのか?ここにきて」


 「多少はな。別にオドノイドに家族を殺されたワケじゃない。・・・が、容赦するつもりもない。平和を取り戻すためだ」


 向けられた銃口。どんなに恐ろしくても瞼のシャッターにベルの思いは届かない。紅に染まるベルの目が最期に見たものは、トドメにしてはやり過ぎな散弾銃が火を噴く瞬間だった。












          ●


 メッセージの着信で、ハウル・ノリントンは目を覚ました。バディからの連絡だ。十中八九、仕事の話か、あるいは―――。


 『ちょっと』

 『死んだんですが?俺』

 『どうしてくれんの?』


 ベルモンド。オドノイドコードは『THE DOP()PEL()GA()NG()ERS()』。彼の能力で生み出される分身は、全てが本物であり、消滅または死亡することで別の分身に意識や記憶、経験が引き継がれる。言うまでもなく便利な能力だ。恐らく人類史上、彼ほど死んだことのある者はいないことだろう。

 そんなベルのパートナー(監視役)を任されているのが、このハウルという男である。


 「あーそう・・・いや、『あちゃー。アタリ引いちゃったかー』っと」


 『アンタ絶対いまスゲー興味なさそうな顔してるだろ!!』


 「よく分かったな」


 なんにせよ、『BLEACH』が針にかかった。仮にも訓練されたオドノイド魔法士を殺害したのだから、名乗っているだけのチンピラではない。謂わば真の『BLEACH』とでも言うべき精鋭部隊だ。

 ハウルはサンパウロに潜伏させていた別働隊に合図を送った。幹部構成員との繋がりを持つかもしれない真打ちのひとつだ。ここで確実に拿捕し、情報を吐かせてやる。


 「生き餌とルアーのいいとこ取りだぜ、すげぇよベルは。胸を張りな」


 『嬉しすぎて胸が張り裂けそうです』


 この夜確保された『BLEACH』の暗殺部隊は、ハウルの読み通り幹部との接点を持っていた。だが、それでも結局「顔も名前も知らない」の一点張りで、連絡先も無数に存在するダミーのひとつ。得られた情報はなにもなかった。

 SNSという開けっぴろげなフィールドで堂々と活動していながら、誰もその正体の片鱗すら掴めないでいた。こうしているいまも、『BLEACH』の牙は、次なる標的を見据えて研ぎ澄まされているというのに。

episode10『 The Lightning Dyes White on Black 』


主要登場人物

・神代迅雷

魔法科専門高校・マンティオ学園の1年生であり、ランク2の魔法士でもある。旧ビスディア民主連合で開催された交流式典でのスピーチなどで注目されていたが、先日、世界中を騒がせた『ブレインイーター』事件の解決に多大な貢献をしたことにより一躍時の人になっている。


・千影

IAMOに所属するオドノイドの少女。神代家の居候であり、迅雷とは恋仲。迅雷同様、旧ビスディア民主連合の一件や、『ブレインイーター』捕獲などの活躍を経て注目を集めており、世間にとってはオドノイドの代表のような存在になっている。


・阿本真牙

迅雷とは中学時代からの親友で、ライバル。阿本流剣道場の跡取り息子であり、剣の腕はこの若さにして達人級。この頃、迅雷がメキメキと力をつけており少し焦っている・・・が、本人に悟られたくないため、そのあたりは隠して日々努力を続けている。


・天田雪姫

迅雷のクラスメート。誰もが二度見するほどの美少女で、魔法士として既にプロ級の実力者だが、他人との関わりを拒絶する孤高の存在―――だった。『ブレインイーター』の一件で迅雷と千影によって心を救われ、自分のことを好きになれるよう変わる努力をすると決めた。迅雷たちの結成した魔法士パーティ『DiS』に加入し、その活躍はいよいよ留まるところを知らない。


・東雲慈音

迅雷の幼馴染みで、誰に対しても分け隔て無く接する心優しい少女。千影とは恋のライバル。もう負けてる?いやいや、結婚するまでは分からない。マンティオ学園に入学し、『DiS』でも活動を続ける中で魔法士としても迅雷と並んで戦えるよう成長を続けており、稀少な結界魔法の使い手としてひっそりと注目を集めている。


・焔煌熾

マンティオ学園の2年生であり、多才な炎魔法を操るランク4の魔法士。『DiS』のリーダーも務めているしっかり者だが、後輩たちにはなにかと振り回されがち。だが、頼られるのは好きなので本人も困った顔をしながら毎回協力を惜しまない、良き先輩。


・???

よくもまぁ、どの面下げて帰って来たんだお前。


・???

戦いの予感・・・!!


and more...

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