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5話-エイビサの宿にて-

****


 夢をみていた。

 懐かしい夢だ。

 なんで、夢かってわかるかといえば、そこは学生時代の風景だったから。


 先生が黒板に何かを書いては、誰かを指差して答えを聞いている。

 俺は後ろ側の席で、それを興味なさそうに聞いていたり、見ていたり。

 広げたノートではゲームの事ばかり書いていたり、勉強していなかったり。


 顔のない先生が他の生徒を指差す。

 生徒もまた顔がない、そして答える。

 なんで、顔がないのかって?

 簡単な話だ。俺が記憶してないだけだ。

 酷いと思うかもしれない?

 まあ、そうかもな。


 ただ、なんていうか。退屈な日常だったんだとおもう。

 友達もいないし。珍しくも興味をもたれる事もなかった。

 クラスに一人くらいいた、影の薄い奴ってかんじだな。

 いじめを受けていたわけでもない。

 かといって、友達がほしかったわけでもない。

 なので、その学校という退屈な場所はなんというか隔絶された世界だと俺は思っていた。

 まるで別世界なのだと。


 教室にある大きな時計の針がゆっくり進み。

 退屈な授業の時間が過ぎていく。

 なんてことはない。どこにでもある風景だ。


 ふと、横の席から肩をトントンと小さく叩かれた。

 何事かと思えば、顔の無い女の子がノートを見せつける。

 俺はそれを見てふふっと笑った。

 けれど……何故俺が笑ったのかは覚えていない。

 ノートには何て書いてあったのかもわからない……。

 そして、隣にいた女の子は誰だったのか……。

 俺は覚えていない。


 女の子の口元が動く。

 なんだか楽しそうに。

 俺はそれを読み取ろうとする。

 まるで、興味のない世界に花が咲いたように。

 そこで俺の夢は終わりを告げた。



****


 目が覚めた。

 あの後、ヴァンゼン達の取り計らいでそこそこ良い宿を紹介してもらい。

 そのままベッドで一息つく間も無く爆睡。いったい何時間寝ていたことやら。


 窓から暖かい日差しが垣間見える。

 それが、朝なのか、昼なのかは分からないが。

 たぶん昼くらいだろう。

 あと、目覚めは良いものではなかった様だ。


 懐かしい夢に思わずホームシックにでもなったのかと苦笑する。

 学生時代の夢なんて、何年ぶりにみたか分からないくらいだ。

 なにか大事な事があったきもする。

 ただ、思い出そうとしても思い出せなかった。

 まあ、そういう事もあるのだろう。

 ゲーム中毒者の悲しい性なのかもしれない。


 部屋を出て、階段を降りる。

 疲れすぎて聞いた記憶が曖昧だが。

 ここの宿は一階に宿泊の受付、さらに隣の建物では食事処と酒場を兼ねているそうだ。

 二階から宿で宿泊部屋は多くもないが、部屋の内装も良かった。

 ベッドふかふかだったし、なんとこの宿別室に風呂まで完備していた!

 といってもバスタブは狭めで先に利用する旨を伝えておかないといけないらしい。

 まあ、お湯とか用意してもらわないとお風呂には入れないしな……。


 だがしかし!

 なんとシャワーもしっかり完備していた。

 ただし、こちらはお湯がでない。冷たい水らしい使い勝手は良くないとの事。

 それでもシャワーには違いないので満足だ。

 つか、このシャワーってどういう仕組みなんだ?

 気になってしかたないんだが……。

 あれか? 上に水桶でもって、それが手元の操作で開閉と同時に出てくるてきなかんじか? 


 しっかりカギもついていた。実に素晴らしい。

 風呂に関しては後で夕方にでも利用させてもらう予定だ。

 昨日、眠い眼で説明を聞いて、無理してまで伝えてあるからな。


「おはようさん! あんた船乗りだろ?

 こんな遅くに起きてきて仕事は大丈夫かい?」


 一階で受付にいた、年季のはいった背の低いオバちゃんが俺に言う。

 一応ここの女将さんらしい。


「おはようございます。

 諸事情で遠出をしていたせいなんで大丈夫ですよ」


 答えるとオバちゃんが目を丸くした。

 なんだ、返答が間違ってたか?


「あらやだ。昨日は死んだような顔をしてたから、ぶっきらぼうな人かと思ってたよ!

 意外と話せるじゃないか!」


 なるほど。そりゃそうか、変人を泊めたくはないしな。

 しかもギルドからの仲介だしな……。

 どんな人材かも分からないとなると怖いだろうし。


「聞いちゃ野暮だと思うけどね!

 どっから来たんだい?」


 オバちゃんがズイズイと話につっこんでくる。

 こういうところは何処にいっても変わりないなと俺は軽く笑った。


「東から来ました。

 あんまり覚えてはいないんですけどね――」


 そういって、俺はオバちゃんにここまでの経緯を少し話した。

 といっても東から来て記憶がない、果ては交易商人らしいですよってくらいだが。

 話を聞いていくうちに、オバちゃんの顔が険しくなったり、涙を浮かべ始めたりした。


「あんたも大変だったんだねぇ!

 もう、歳重ねるとそういう話弱いのよぉ!

 ウチで良かったら何時でも話にのるからねぇ!

 困ったことがあったら言うんだよぉ!」


 きっと根っから優しい人なんだろう。

 俺にもグッと来るものがあった。



「でも、銭が切れたら駄目だからね!

 流石に銭も無ければ主人が黙ってないからねぇ!」


 グッと来て、落とされた気分だ。

 まあ、励ましてくれてるんだろう。

 商人魂が素晴らしい。


「まあ、シケた話はそれくらいにしてね!

 食事ならあっちで主人が用意してくれてるよ!

 たんと、食べてきな!

 元気でるからね!」


「ありがとうございます」


 俺はそういって食事処に向かった。

 外を出ると日差しが眩しい。丁度昼を過ぎたくらいだろうか。

 まあ、気にするレベルでもなかった。


 宿を出て、すぐ隣に小さな酒場がある。

 こちらで食事ができるらしい。

 商人達がいるのかとおもえば、誰もいなかった。

 どうやら皆仕事に忙しいらしい。

 忙しい事は良いことだ。

 時は金なりともいうしな?


 お店に入って、木製の歪なテーブルと椅子に座る。

 内装を見ると、宿並みに綺麗とはいえない。

 まあ、呑むと食いがあれば、喧嘩騒ぎとかもあるのだろうし、丁度良いんだろう。

 そこへ丁度店の奥から、主人らしき人が出てくる。

 俺を見るなり、無言で頷いてさらに奥へと戻っていった。

 随分かわってる店主だ。


 どうしていいか分からず、とりあえず待つことにした。

 ご飯を用意してくれている聞いているし、待って居ればくるのではないかと。

 それから数分して、暖かいシチューとやわらかいパンが出てきた。

 しかも山盛りのドロドロっとしたポテトと柔らかそうなサラダ付きだ。

 めちゃくちゃ歓迎されているとしか思えない。


「遭難していたと聞いた……。ゆっくり食え、酒が呑みたかったら夜に来い。

 食ったら出て行け。商人なら広場でもギルドでも行って見て来い」


 無表情で店の主人が言うとまた、店の奥へと消えていった。

 優しいのか、優しくないのか良く分からん……。

 話をまとめると、めっちゃ親切ってことなんだろうけど。


 なんとも声をかけづらい人だ。

 でも、お腹は正直だった。

 美味しそうなシチューの匂いが鼻を掠めた直後には、俺は木製のスプーンでそれを口にいれていた。


「あっつ!!

 あっついけど、うっまい!!!」


 結果として、舌を軽く焼けどした。

 まあ、お腹がすいてるから仕方がない。

 ゆっくり食べろという忠告を維持するのはなかなか難しかった。

 はらへってたもんな……。

ちまちま更新予定です。

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