18話-深海-
リスポーンへ向かう。
それは幽霊船だとしても、普通なら無理だ。
大陸間の双方では延々と警備がだされているため、少しの騒動でも見逃す事はない。
例えそれが夜中であってもだ……。
そのためか、この付近では海賊がほとんど出ない。
……あくまでゲームでの話だが。
この世界がゲームとほぼ同じだとすると、そういう認識で間違いはないはずだ。
ただ、それは『海上』での話しに限る。
こういうところが幽霊船のずるいところだ。
「どこからともなく、幽霊船は現れる」
ゲームでの説明ではシンプルにこんな感じだ。
ここまで話せばもうわかりきってるとおもうが。
まあ、そういう事だ。
音も立てずに深海の中を航行するボロボロの船があった。
海流にのって沈没船がただ流されているわけではない。
この船は意思をしっかりと持って航行していた。
海中だというのに、幽霊船員達は甲板で仕事をする。
腰には縄を巻きつけて、足には特殊な鉄球をつけている。
小魚がじゃれついてきても、船員達は気にもしない。
彼らは死者でもあるから呼吸もいらないし、睡眠もいらない。
船長室の窓から外を見て生者側の三人が絶句している。
船が海の中を移動しているのだから、まあ、そうなるわな。
船室以外、全てが水中だ。
今、外に出たら楽しいことになるだろうな。
『これ、どうやって動いてるの?』
ルーの不安そうな声が過ぎる。
『さあな? 俺も詳しい事はわからん。
潮の流れ……海流を航海しているとしか言えないな』
実も蓋もない回答だ。
『この部屋は大丈夫……なのよね?』
ああ、浸水しないかってことか。
まあ、普通そう考えるか。
『深く潜りすぎると分からないが……幽霊船だからな』
ゲームでNPCを乗せても平気だったのだから大丈夫だろう。
俺が操っているヴァルラモース自身も妙に冷静だしな。
「海の中を航海なんて……なんだか素敵ね。
見て、魚があんなに沢山いるわ!」
「お嬢様……相変わらず肝が据わっておいでですね。
海底がこんなに幻想的とは思いもしませんでしたが……」
むしろ妙に楽しんでいる気がするのはこの二人か……。
楽しんでもらえれば幸いか……。
変にヴァルラモースのスキルとかで恐慌状態に陥ってもらっても困るしな。
「リスポーンまではドノくらいで着く?」
「ヘイッ船長。数刻もあれバ十分かと」
幽霊船員よ。数刻ってなんだよ、十時間かからないってことか?
モンパ(モンパリアの略称)からだよな? おかしくね?
「数刻って……何時間くらい?」
「ヘイッ。フロイお嬢。四、五時間程度の事ですゼ」
お、いつのまにかフロイって名指しするようになったな。
この辺の気配りが良く出来てるな、幽霊船員の癖に。
そう思ったが束の間。骨の部下が急に、俺を見て親指でグッと合図を送る。
内心、俺はイラッとした。
しかしゲームで分かっていたとは言え、やっぱりはえーよな。
飛行機で向かってるような時間感覚だぞそれ。
俺が愛用していた商船用のクリッパーでもそんな出鱈目な速度はでない。
ホント、ゲームバランスが崩れる船だ。
「……それだけ早ければ、どうにかなりそうね」
「そうですねお嬢様。先に先手が撃てそうですね」
そこのお客様、怖い話を平然と話さないでください。
あと、打つが撃つになってるぞ!
……等とは口が滑ってもいわんが。
「お二人だけで大丈夫なの?」
航行中、暇を持て余したルーが質問した。
まあ、普通に考えたらそうだよな。
見るからに不思議そうな貴婦人とメイドだけでどうにかなるのかは疑問だ。
「フロイさん。ご心配には及びません。
リスポーンにも我が商会の伝が御座いますので」
「少々荒っぽい者達ですが、問題はありません」
ホワイトな商会じゃないよな絶対。
見た目がホワイトだけってやつだよな!
「リスポーン近くに着いタら小船で手短な場所に降ろす。
それで十分カ?」
「勿論です。しかし報酬はどのように渡せば宜しいでしょうか?」
「ご尤もの話ダ、考えがある。
同様の場所に小船を停泊さセておく。
といっても、海中にだガナ。
何時でも良い。
呼び出したいときはこの呼び鈴を鳴らしてくれ。
その鈴を鳴らせば、小船が現れる。
そこにお金を乗せてクれるだけで良い。
後は船員が回収スル」
俺は懐から、変わった呼び鈴を取り出してセーレスに渡す。
「こいつは俺達にしか聞こえない特殊な鈴だ。
マア、金を用意できたら一緒に船員に渡してクレ」
「信用してくれるのはとてもありがたいのですが。
しかし船長、その場合、私達が逃げてしまったらどうするのですか?」
セーレスの問いにヴァルラモースの目が光った。
「逃げられんよ?
幽霊船からはナ」
これは俺というよりもヴァルラモース自身の言葉だった。
そうだな……。幽霊船は敵として遭遇したら撤退不可能だもんな。
「では……海から離れて陸地に逃亡した場合は?」
メイドの質問に船長が「良い質問ダ」と答える。
「逃げられんサ。
興味があったら逃げてみると良い。
幽霊船からは逃げられない。
地の果てでも海の果てでも何処までも追いかける。
それは決まっている事ダカラナ。
付け加えるガ。今回はたまたまついていたダケだ。
幽霊船と交渉なんてしない方が良いだろう。
隙を見せれば直ぐにでも仲間にされるかラな?」
「たしかに。船長のいう事はごもっともかも?」
「フロイお嬢。何もあっしラは死神とかじゃありやせんがね?」
「似た様な物じゃない? 私も含めて?」
「そういわれちゃ、ちげえネエですがー」
まあ、普通に出会わないからそんな事もないとおもうが。
……ないよな? この世界に幽霊船とか出ないよな?
俺はちょっとした不安を感じた。
「不思議な方達ですね……」
「そうですねお嬢様。
手合わせが出来ないのが残念ですが」
二人の熱い視線が船長を突き刺す。
『船長はモテモテ?』
『茶化すな!』
船を海上に浮上させる。
リスポーンから少し離れた所に向けて、船員達が小船を出して二人を乗せる。
太陽が真上にあがっていても船員達はキビキビと動く。
太陽の下で働く死者達ってどうなんだろうな?
「本当にありがとうございました」
「お嬢様共々、このご恩は一生忘れません」
船の上からルーが手を振る。
「気をつけてね。
何かあったら鈴を鳴らしてみたら?
船長の事だからきっと助けてくれるかも?」
『いらんことを言うな!』
『実際そういうアイテムなんでしょ?』
『陸地で意味があるのか、俺にはちょっと不安だが……』
幽霊船の鈴は、普通は幽霊船と戦いたい奴が使うちょっとしたアイテムだ。
ただし、この幽霊船の呼び鈴はちょっと違う。
これは、敵があまりに強すぎてどうしようもないときの特殊アイテムで。
海事がとんでもなく苦手な人の為に用意されたチートアイテムだ。
これを使うと、どこからともなく幽霊船がやってきて助けてくれる。
といっても、メインストーリー絡みでないと本来は使えないが……。
多分動作はしてくれるはずだ。
ヴァルラモースになってから、どこにいたとしても『一応』そういう動作になると認識してるからな。
『俺の中に居るヴァルラモースは問題ないそうだ』
『ふうん……素敵なアイテムね?』
いや、それはどうかとおもうが……。
どこからともなく、骸骨達が助けに来るんだぞ?
一種のホラーじゃないか?
小船がリスポーンへ向けて陸地へと消えて行く。
「あの二人は大丈夫だとおもう?」
「サテな? 只者ではないのダロウ?
特にメイドは凄かったナ」
船長の言葉に耳を傾けるルー。
「そうなの?」
「気を抜いたら何時デモ襲い掛かってきそうだっタ。
返り討ちに出来なイのが残念だったガ」
ヴァルラモースはクククと笑う。
流石のルーも一歩引いた。
「船長って、好戦的よね?」
「フロイお嬢! そこが船長の良い所デサァ!」
骨と少女が頷く。そこ、変に共感するな!
「話は終わりダ! そんな事よりもダ!
ここに数日留まるかもしれン。
副船長。今後の予定はドウする?」
「そうか。お金受け取らないといけないからー……。
この辺で海賊狩り?
それとも海軍とやりあうの?」
「こんな所デ暴れても仕方がないだロう!
折角リスポーンまデ来たんだぞ?」
「それもそっか……じゃあどうするの船長?」
「しれた事よ……。ちょっとした観光としゃれ込もうじゃないか!」
あんまりリスポーンは詳しくないけどな。
でも、リスポーンって大きい港町だろ?
そこをよらない手はないよな?
ブックマーク等ありがとうございます。
暇つぶしになってもらえれば幸いです。




