09
少しゴタゴタしたものの、朝ごはんを普通に食べ終えた私は皿を洗いながら今日の午前中をどう過ごそうかと考えていた。街を見て回って仕事を探すか、どうしても気になるので掃除を続行するか。
布巾で皿の水を拭いていると、後ろからティシールに声をかけられた。
「ミリエット、午前中時間があるなら頼みがある」
「何ですか?」
「すぐ終わる。終わったら街を見に行っていいから」
そう言ってティシールは手に持っていたものを私に手渡した。あの悪魔書だ、エルヴァンが昨日預けていったあれ。
「それをあの変態に渡してきてくれないか?代金はこの紙に書いてあるから、ミリエットは代金だけ貰って来てくれればいい」
「はぁ」
私は悪魔書と一緒に渡された紙を見る。そこには信じがたい値段が乱暴な字で書かれていた。
「高っ!」
「悪魔書の修理費はそれくらいが普通だ。一晩で終わらせてその値段なら安い方だぞ」
「こんなに払えるんですか?」
正直、エルヴァンがこの値段を支払えるほどお金を持っているようには思えない。
「あいつは金貸し貴族の次男坊だ。金は十分持ってる。それにあいつ自身も金貸しをしてるはずだぞ。悪魔書屋の利益よりはるかに稼いでる」
「そう……なんですか」
「まあせっかくだし午後も好きにしていいぞ。どうせ誰も来ないだろうし、昨日の夜は掃除とかしてもらったしな。あそこまで綺麗になるもんなんだな」
今……なんて言いましたか?私が掃除したところを見てくれて、綺麗だって言った?ティシールが掃除に興味を持った?
「そうですよ、掃除は素晴らしいんです。身も心も綺麗になりますよ!」
掃除することの素晴らしさを、ティシールに教えるチャンス!
「それにゴキブリとかハエとかも綺麗であれば出ません」
「ゴキブリとハエ?出るってどこに?そういや乾燥ハエのストックがもうあんまりないな。出てきてくれれば買いにいく手間も省けるんだが」
私は言葉を失います。ちょっと今女性らしからぬ言葉が聞こえてきたんですけど、ティシールは元から女性らしくありませんが、これはちょっと……
でも言われてみればあれだけ汚れた夏の台所なのに、ハエとかゴキブリの類いは全くいませんでした。死骸すらなかったような気がします。
……考えるのを放棄することにします、理解できないので。
「じゃあ行ってきます」
無理やり話を終わらせました。
ティシールの店から出て、周辺を見回します。昨日は精神的に余裕がなくてゆっくり見てる暇なんてなかったし。
悪魔書屋……向かいの店だっていってたよなぁ。
それっぽい店を見付けたので近寄ってみる。看板を見ると『エルヴァンの悪魔書屋』という文字がかかれていた。
「……趣味悪っ!」
思わず思ったことが口から出てった。だって所々灰色の塗料が落ちた木製の板に、黒ずんだ赤色、はっきり言うと血のようなもので文字が書いてあるんだから。不気味さを演出しているつもりなのか、ただただ悪趣味なものにしか見えない。
正直、入りたくない。昨日の言動にこの看板、誰が好き好んで入りたがるんだ。
私は手に持った悪魔書を見る。これを届けるのが今の私の仕事、この程度で怯んでたら仕事探しなんてできっこない!なんとか自分を奮い立たせて、ドアノッカーを叩く。
「どなたですか?」
すぐに扉が開けられ、エルヴァンが顔を出す。
「ミリエットちゃんじゃないか。どうしたの?やっぱり僕のところで働きたくな……」
「違います」
誰が働くか、エルヴァンの言葉が終わるのを待つことはしない。とっとと用事を終わらせてここを離れよう。
「これを渡すように言われただけです。代金はこれに書いてあります」
私はエルヴァンに向かって悪魔書と紙を突き付け、早く受けとれと念を送る。
「中で読ませてもらうよ。ミリエットちゃんも、お茶くらい飲んでいくかい?」
「結構です」
受け取って、お金さえ払ってくれればそれでいいんだよ。早く受けとれ!
「まあまあ、そんなこと言わないで、僕は可愛い子を見境なく襲うような男じゃない」
それでも嫌です!こんな悪趣味な店に入ってくのを見られたらどうしてくれるんだ!
「リーア、お茶の用意をしてくれ」
りっ、リーア?誰だ、こんな変態の所に女性がいるのか?リーアさんとやら、お茶なら結構です!
「さあ入って入って」
こんな変態の所にいるリーアさんとやらが気になり、言われるがまま入っていく自分がいた。うん、今後は気を付けよう。
超不定期更新ですね。カタツムリのようです(^_^;)
ちびちび今後も更新していきます。
とはいえ今年は時間があまり無いのでこっちは2ヶ月未更新というのが出るのも時間の問題か……(汗
話はあるんだけど(;´∀`)
できる限り、頑張らせていただきます