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エルヴァンの店の中は、外観を裏切らない怪しさだった。
謎の液体の入った瓶が並び、本棚には大量の本が詰められている。あの本はみんな悪魔書か?何冊あるんだろ……
「どうぞ座ってください」
エルヴァンに示されたソファーは、古ぼけてはいるが普通のソファーっぽい。
「すぐ出ていくつもりなので立ったままでいいです」
普通に見えるけど、ここにあるものはいくら普通っぽくても普通じゃない気がする。
リーアさんとやらを見れたら十分だし。
「そんなこと言わずに、何もありませんよ」
「結構です。これが代金だそうです」
しつこいエルヴァンを無視して、私はエルヴァンに紙を突きつける。
「先に悪魔書の方を見せてくれないか?仕事の出来を見てからでもいいだろう」
……それもそうだ。
私は持っていたエルヴァンの悪魔書を渡す。
嬉しそうにそれを手に取ったエルヴァンは本の中身を読み、なにやら呟き始めた。
「ふむ、思っていたくらいの出来だな。にしても、無事に戻ってきて何よりだ。今のお前はいつにも増して美しい。ああ、髪一本、爪の先までも繊細で……」
こんな内容の呟きが、店の奥から一人の女性が現れるまで続いた。お茶を持ってきたみたいだし、この人がリーアさんかな。
真っ黒な髪に、赤い目、私の前で不気味としか思えない呟きを繰り返すエルヴァンと同じ色だ。まさかエルヴァンの妹とかかな?でも何でここにいるんだろ。
「お茶をお持ちしました」
その声にはっと我に返ったらしいエルヴァンは、リーアさんの方を見て言う。
「そうか、ここに置いておいてくれ。あと、これが悪魔書の修繕の代金だ。用意して持ってきてくれ」
「はい」
リーアさんは始終機械のような無表情で、エルヴァンの指示に従っていた。まるで使用人みたいな扱いだけど……妹じゃないのかな。
「あの、リーアさんは妹ではないんですか?」
再び悪魔書を読もうとしたエルヴァンは顔をあげる。
「妹?彼女がかい?彼女は僕が召喚した悪魔だよ。可愛らしい子だろう?」
可愛らしいのところはあの無表情を無視すれば賛成するけど、あの子悪魔なの?
「黒髪赤目は悪魔の特徴だ。もっとも僕は生まれつきですが」
ということは、エルヴァンは悪魔と一緒の見た目なのか。
ちょうどリーアさんが戻ってきたので、リーアさんの方を見る。やっぱり黒髪赤目、私より年下かなって感じの見た目。
……これは、エルヴァンの趣味か。変態、と言ってやりたいが、リーアさんに悪い気もするし、代金払ってもらわなきゃいけないし、やめておこう。
「代金です」
リーアさんが封筒に入ったお金を手渡してくれた。
お礼を言って中身を確認する。確かに代金ぴったり入っていた。
代金を受け取ってしまえばここにはもう用はない。エルヴァンも戻ってきた悪魔書に夢中だし、今なら普通に帰れるだろ。
「では、私はこれで……」
「待ちたまえ、まだお茶を飲んでいないじゃないか」
私は机の上を見る。そうだ、お茶をだしてもらった?のに飲んでなかったなぁ。
早く出ていきたいけど、さすがに出してもらったものを飲まないのは失礼かな。普通のお茶っぽいし、さすがに何か入れたりはしないだろう。
私は行儀が悪いとはわかっていたけど、立ったままお茶を飲んだ。というか、これで私の印象が悪くなれば妙なことを言われたりしない。
「立ちながらお茶を飲むというのもいいなぁ。どうだい、もう一杯飲むかい?」
……逆効果だった!行儀が悪いのを演出したつもりだったのですが?まさかこの変態、若い女がやることなら何でもいいんじゃないか?
「代金も頂いたので、これで失礼します」
私はエルヴァンの止める声も聞かず、気味の悪い店を出た。
相変わらずのカタツムリ更新です(;・・)σ
ミリエットの心の声のエルヴァンを全て変態にすべきか若干迷いました。




