第15話 綾乃の20層ボス ソロ討伐
キトラが泉を配信上で暴力を振るった挙句に邪魔するものは許さないと宣言して炎上して1週間が経った。
元々注目度が高かったためかキトラはそれからずっと燃えていた。
がキトラは特に気にすることなく、強めの言葉を使ったりわざわざ配信の邪魔をするやつをブロックしてもらうだけに抑えている。
たまにうっかりラインを超えた者は鳥に襲われたり、犬猫に吠えられたりしていたそうだがキトラは知らない。
動物達が勝手にやってくれるのだ。
もっともアンチよりもファンの方が多く、応援コメントも沢山届いており割合的にはアンチはかなり少なかった。
もっとも行政としてはアンチの声が大きいと対応せねばならないので可哀想なところであるが。
そんなお猫様は優雅ににゃーるを食べてダンジョンで遊び感覚で攻略をしていた。
一応また邪神が何か仕掛けてくるかとキトラも警戒していたが、特に何も無くこれ見よがしにハエを飛ばしてイラつかせてくる位で無害といえば無害であった。
おかげでキトラは30層を攻略してA級冒険者として順調に攻略を進めて、空いた時間に綾乃をしっかりと鍛えることが出来ていた。
「キトラのおかげでかなり強くなった自覚があるのだけど、普通はここまで順調には行かないわよね?」
「行くわけないニャ。にゃーの索敵、敵の事前情報があるから順調に来ているだけニャ。にゃーが配信で解説してるから初見の敵もいないし、後ろで絶対的な存在がいれば十全に力を発揮できるニャ!」
キトラたちは20層への階段の前で一息ついて話していた。
キトラが言うほど過保護な事はしていないが、情報のアドバンテージと失敗してもキトラが何とかしてくれるという安心感は綾乃の実力をほとんど引き出せていた。
ダンジョンにおける死傷者のほとんどの理由は初見殺しか単純な練度不足であり、綾乃はキトラが情報を伝えて初見殺しを回避させて攻略法を伝えた上で適正レベルの魔物を相手にさせていたので安全策をしっかりとった上のことである。
「じゃあ20層は一人で行くといいニャ。にゃーはまだここの情報は教えてないから自分で頑張ってみるニャ!あとにゃーは扉の前でお昼寝しているから一人でやるニャ」
「えぇ。相手の動向を注意深く窺いながら危なそうなら即撤退。引く時は前に出る以上に気をつけるのね」
「その通りニャ。優れた戦士ほど引き際を弁えていたニャ。にゃー達は魔法使いが進退を決めてたけど、そいつはどんなに苦しくても冷静に活路を探してたニャ。撤退戦にゃのに敵に向かって進んで行くとか、優勢で負けることは無さそうな相手にも突然撤退させられて退いたら数秒後にその場が草木も生えない土地になったとかあったニャ。つまり些細な違和感でも大事にするニャ。人間の命は1つニャ。これは人類の命運を賭けた戦いじゃないのだから違和感があれば即時撤退でいいニャ。無事に帰れればまた来れるニャ」
「ふふっそうね。大丈夫。私は兄さんが帰ってくるまで絶対に死なないわ」
キトラが饒舌に話す裏には強い心配があることを理解している綾乃は思わず笑う。
何かあれば兄に申開きができないと心配するキトラは兄が猫にも愛されていたという証拠でとても嬉しくなる。
そして階段を下って初めて一人で階層に向かう。
息をひとつ吸って酸素を取り込み脳を活性化させる。
すると剣を握り締めていたことに気づいてしまう。
息を吐いて脱力をするが上手く力が抜けない。
思ったより緊張しているのね。と自嘲したが先へ進む。
そして20層ボスの間の扉を開いた。
「・・・・・・っ!!」
部屋の中央にいたのは既にボロボロになって朽ちているが、質の良さそうなローブに身を包んだ者が立っていた。
綾乃は身の毛もよだつような悪寒と嫌な気配を感じて、すぐさま剣を構えると相手も杖を振りかざした。
すぐに部屋中からカタカタカタと軽い音が響く。
そして地中からズボッと手、いや白骨化した骨が現れる。
スケルトンキング。それが20層のボスであった。
墓の下に眠る死者を操る生命の冒涜者。
モンスターとして単体としてはさほど強くないが、高い再生能力を誇るスケルトンを操る統率力と、スケルトンへの強化魔法は手強く、多くの冒険者をダンジョンの塵と変えた。
「・・・・・・未だ悟りには程遠い身なれどあなた達は必ず祓い鎮めましょう。そしてスケルトンキングにはその外法の報いを与えねばなりません」
綾乃は熱心な修験者ではないが、それでもルーツは天狗の教えを受けた祖の子供が修験道に入門し、葛城山に連なる土地に根ざした一族として教えは大切にしている。
その彼女にとってスケルトンは穢れと死者の迷いであり、それを弄ぶスケルトンキングは祓わねばならないものだった。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
九字を切ると剣を構えて切り込む。
統率はされているが所詮はスケルトン。
魔力を纏った剣を振るうごとにスケルトンが全て一刀のもとに斬り捨てられる。
一太刀、また一太刀と剣を振るう度に綾乃の気分が高揚する。
どこをどう斬れば無駄な力を必要とせず斬れるかを理解していく。
近くにいたスケルトンをあらかた斬り捨てると「ふぅ」と一息ついた綾乃はつい上がってしまう口角を恥じた。
「あぁ、、、教えはこんなことでは無いのにごめんなさい。ダメだわ。本当に楽しい。山ほどいる敵に切り込むのって1度やって見たかったのよ。ふふっこんな姿、人には見せられないわね」
彼女がこうやって笑うと危ない人間に見えるニャ。とキトラは思う。
創世神に過保護と言われているキトラが綾乃を1人でボス戦など行かせるわけがなく空間をねじ曲げてひっそりと19層から中を見ていた。
綾乃の醜態を人は見ていないがお猫様にバッチリ見られていた。
あとダンジョンを支配してる邪神にも見られていた。
もっとも綾乃のこれは何も珍しくはない。
戦場での恐怖と高揚からハイになって戦場で暴れるものは少なくなく、経験が浅い彼女が臆した後に戦えると余裕を持てれば安堵からこうなるのは良くあることだった。
「さてそれじゃ首級を頂戴しましょう。せっかくだからアレ使ってみたいけど帰れないのはまずいから無しね」
彼女は愛刀に魔力を通して不敵に笑い、ゆっくり近づいて行く。
スケルトンキングは魔法で抵抗を試みるが綾乃が斬り捨てる。
魔力を纏わせたら大体解決するとキトラが言っており、彼女は斬れるものは剣で斬り、避けるのが難しい面で押してくる魔法には魔力で全身を覆って防いでいた。
そして威風堂々と歩いて間合いに入ったスケルトンキングの首をスパッと撥ねた。
「・・・・・・ふぅーー。最初は1人で緊張したけど相手が人型の雑魚で余裕をもって対処出来たわね」
綾乃は敵の居なくなったボス部屋で一息ついた。
「褒める点としては意外と周りが見えていた。常にスケルトンに気を配りながら襲ってくる相手を警戒できたのは良かったわね。それに脱力をして体重移動を活かして斬れたのも良かったわ。改善点は敵陣に切り込むという無駄リスクを背負ったところとテンションが上がって油断してたところかしら?油断は本当に良くないわ。せめて兄さんを迎えるまでは死ねないし、まだまだやりたいこともたくさんあるもの」
「良い点も悪い点も大体その通りだニャ」
「っっっ!?!?!?」
「背後から声をかけられて剣を向けられないのは減点だニャ。ダンジョンで背後を取られて剣を振るうより先に驚いてたらいつか死ぬから気をつけるニャ」
声に出して良かった点、悪かった点を整理していると後ろからキトラにニュルっと声をかけられて、驚くと減点された。
「それはそれとして全部見てたけどかなり良かったニャ。このまま経験を積んでいくといずれは神に届くかもしれないニャ。研究が進んだ剣術を、才ある者が使うのを見れて良かったニャ!向こうのヤツらにもいい土産話ができたニャ〜」
不満気な表情を浮かべる綾乃にキトラは上機嫌であった。
キトラの世界ではまだまだ争いが絶えず、魔物との戦いもあるために剣術は発展しているがそれでも筋肉の動かし方などはこちらの方が圧倒的に優れていた。
このままのスピードで成長していけば綾乃やヨシモリだけではなく、他の人間もゆくゆくは神に刃が届くかもしれない。
戦いが変わり白兵戦など廃れたと言っても、科学技術と人体への理解が進んでいたのは大きな歩みである。
「これならきっと大丈夫ニャ」
キトラは本心からそう思う。
ヨシモリと綾乃の両親だけではなく、ダンジョンが起こすスタンピードによってたくさんの命が失われたのはキトラとしても心苦しかった。
流石に危なくなれば神がテコ入れするとは思うが、自分たちの世界の生物が他の世界を滅ぼす原因となるのは避けたかった。
ダンジョン配信をしているとコメントで初心者がモンスターを危なげなく倒せるようになったなど報告があると、キトラもやって良かったと感じていた。
そもそもダンジョンの出現は勇者が目指していたモンスターとの平和的な共存とはかけ離れており、ダンジョンを突然生やした世界に、キトラは思うところがあったのが綾乃や視聴者たちにより解消されつつあった。
「さてそれじゃにゃーは30層の攻略をしてくるニャ!」
キトラは分身を残して奥へと向かう。
泉の件もあって綾乃の安全策を考えていたキトラは、分身に配信や護衛をさせればいいことに気づいたキトラは、ダンジョンの攻略スピードを上げつつ、綾乃の育成もしており現在のところかなり順調に進んでいた。
〜???〜
「30層もあっさり突破か。さて汝はやつをどう見る?」
「力をかなり温存しており、全力は測りしませぬが恐らく儂より上でしょう。されどこの儂とて名に賭けて消耗はさせてみせましょうぞ」
幼き姿をした神は30層のミノタウロスをあっさり突破した猫を眺めながら、隣にいるモンスターに声をかける。
それは神々にすら届きうる力を得ながらも、それを存分に振るう機会を恵まれなかった大いなる王。
天使の羽のように白い肌、鋭く金剛石をも撫で切れる分厚く鋭い爪。
地上に砕けない物質は存在しない強靭な顎と鋭い牙。
樹齢数千年の大木より大きな身体を持ち、それを浮かせる巨大な翼。
竜族の王として君臨するも、満足しうる強者と戦いに恵まれず、ようやく出逢った好敵手は老いた身体では満足に戦うことが出来ずに、若いものに戦いを譲ることとなった憐れな竜王。
その竜王が全盛期の姿で、なおも自分より上と称した、自らの爪ほどもない猫に戦意を滾らせる。
「さぁ妾のために死んできてくれ。なに戦いの果てに死した戦士には安寧を約束する。さぁ派手に死出の旅に行って参るがよい」
「委細承知。慈悲深き冥府の女王よ。御身に深く感謝致します」
誇り高き竜王がついに死に場所を得て、女王に頭を下げた。
そして頭を上げると己が持つ魔力を最大まで解放し、敵と呼ぶに相応しい強者のために魔力を練り上げる。
そして一度低く唸り、ずっと燻っていた心を火山の噴火のように激しく燃え滾らせた。
「GYAOOOOOOOOOO!!!!」
死してようやく得ることが出来た死に場所へ向かうために、邪魔者を排除する咆哮を轟かせた。




