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第十一話 ブレイメンと三姉弟

 もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ。


 とある大樹の下で、黙々と果実を貪る白い毛玉が一つ。

 俺だ。アルブスクルスだ。

 本日は朝から修行相手を求めて半日ほど森を練り歩いたのだが、良き出会いに

は恵まれなかった。正確には、それなりの数の魔物とは遭遇したものの、その悉

くが俺を見るなり逃げ出してしまったのだ。

 この辺りには、この森に住む魔物の中でも特に強めの魔物達が多く、俺に自ら

襲いかかってくる奴も少なくなかったのだが、最近ではこの辺りでも襲われる事

は極めて稀になってきた。

 いよいよ、この森には敵がいなくなってきたのかもしれない。


 ともかくそんなわけで、半日に及ぶ徘徊が徒労に終わり、肩透かしをくらった

俺は気分転換をすべく、少し早めのおやつタイムと洒落込んでいるという訳だ。

 この体は飲食の必要は無いが、それは別に飲食ができないという事ではないの

で、こうして味を楽しむ事はできる。

 挑んでくる者がめっきり減り、日々の生活に暇……と言うか、余裕ができた事

で、俺は飲食の必要が全く無い体にも関わらず、ただ味を楽しむ為だけに食す

――という、このなんとも退廃的で贅沢な感じがする戯れに興じるようになって

いた。

 ただ、この体には排泄の為の器官らしきものが備わっていないのだが……食べ

た物はどうなっているのだろうか? 全て余さず、体に吸収されているとでもい

うのだろうか? 脳内取説に問いかけてはみたが、解は得られなかった。

 ……まぁ、もしそれが重要な事だったなら、さすがに脳内取説に記されていた

と思うので、気にしなくても良いということなのだろう。


 何日か前に発見したこの果実、形はバナナにそっくりなのだが、皮が赤紫色に

黒の斑模様という非常に毒々しい色合いをしており、最初に見た時は「どうした

もんかなぁ……」と思ったものだ。

 しかし、この体はアイン様の加護によって守られているのだから、仮に毒が有

ったとしても特に問題はあるまいと判断し、いざ食してみた所、味の方もバナナ

に似て非常に美味だった。


 もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ。


 うめぇ、バナナ(っぽい果実)うめぇ。

 果実は他にも何種類か見つけたが、これが一番のお気に入りだ。

 大樹の枝や葉といった天然のすだれのおかげで、柔らかになって降り注ぐ陽の

光、澄み渡る青い空、悠然と流れる白い雲。

 実に清々しい。

 数多くの魔物がうろつく魔境のど真ん中だというのに、まるでピクニックに来

ているかの様な錯覚さえ覚える。

 …………ん? あれ、もう無い?

 二、三十本近くあったバナナ(っぽい果実)をあっという間に喰い尽してしま

った。

 尻尾の中から魔術袋の一袋を取り出し、その中に手を突っ込んで、新たな果房

を取り出そうとする――が、一向に出てくる気配が無い。


 どうやら、採取しておいた分は全て腹に収めてしまった様だ。

 困ったな……正直、まだまだ食べ足りない。

 …………仕方ない、取りに行くか。

 ええと、確かこれを採取した場所は、森の南の端の方だったはずだから、ここ

からだと……急いでも、大体半日くらい掛かるな。

 ん~……もっと早く食べたいな。どうしよう……〝アレ〟使うか? 俺の切り

札とも言える二つのスキルの内の一つ……使っちゃうか?

 しかし、魔力の消費量がえげつない〝アレ〟を、おやつを取りに行く為だけに

使うってのは…………ま、いっか。

 修行相手が見つからなかったから、魔力は有り余ってるしな。一回くらいなら

問題無いだろ。


 数日前にバナナ(っぽい果実)を見つけた場所を頭に思い浮かべつつ、俺は大地

を強く蹴って跳躍した。



 ◇



 死神の森の南西――その端に当たる地域の一画で、武装した人族の集団が、複

数の魔物達と戦闘を行っている。


「ハァッ!」


 気勢の込もった叫びを上げ、人間の男がその手に握った片手剣を勢いよく振り

下ろす。振り下ろされた剣は見事魔物の頭部を捉え、両断した。

 頭部を掻っ捌かれた、爬虫類の様な鱗を持つ犬型の魔物――〝蜥蜴犬(リザードッグ)〟は、血

と脳漿の混じり合った物を撒き散らしながら、大地に倒れ伏した。


「ふぅ……みんな、怪我は無いか?」

「問題無い」

「当然よ!」

「大丈夫です」


 リザードッグを切り伏せた男――〝アッシュ〟の言葉に、問われた者達は異口

同音の答えを返す。

 彼らはこの死神の森から南西の方角に在る人族の街〝エアード〟からやって来

た、傭兵ギルドに所属する傭兵一党(パーティ)である。

 この世界における傭兵は地球のそれとは少々異なり、ギルドに寄せられる様々

な依頼――魔物の退治や狩猟、商隊の護衛や盗賊団の討伐、危険な場所でしか採

取できない鉱石や薬草の入手などを請け負うことで報酬を得る、何でも屋的な面

の強い職業だ。

 領主や国の役人などに雇われ、国同士の戦争や地方の内戦などに参加する、地

球の傭兵と同じ様な仕事を専門とする者達もいるが、この世界の世間一般では、

傭兵と言えば前者の様な仕事をする者達を真っ先に思い浮かべるのが普通である。


 刈り揃えた金の短髪、健康的に焼けた褐色の肌という、この辺りの地域の傭兵

としてはよくある外見をした青年――戦士兼野伏(レンジャー)のアッシュ。常に皆の先頭に立

って戦う、パーティのリーダーだ。

 表面に奇妙な文字が刻まれた長い杖を持ち、赤みがかった金髪と長く尖った耳

が特徴であるハーフエルフの少女――魔術師の〝ピスカ〟。

 色素の薄い金髪を耳の下辺りで切り揃え、白と黒を基調とした衣装を纏う人間

の女性――神官の〝へーネ〟。その手には柄の長い聖杖を握り、首からは聖印が

刻まれた首飾りを下げている。

 全身を強固な鎧で包み、右手には朝星棍(モーニングスター)、左手には凧形盾(カイト・シールド)を持つ、人間の巨漢。

時にはアッシュと共に前衛に立ち、時には遠距離攻撃役のピスカと回復役のヘー

ネを敵の攻撃から守る壁となる、パーティの頼れる矛にして盾――重戦士の〝ド

グ〟。

 以上の四人によって構成される傭兵パーティ――〝ブレイメン〟は、メンバー

の全員が〝(シルバー)級〟のランクを持つ、中堅と言ってよいパーティだ。


 サウストラージ大陸に存在する人族の国の傭兵ギルドでは、所属する傭兵を実

力や功績に応じて、(アイアン)級(駆け出し)→青銅(ブロンズ)級(半人前)→赤銅(カッパー)級(一人前)→(シルバー)級(

中堅)→(ゴールド)級(熟練者)→白金(プラチナ)級(一流)→魔銀(ミスリル)級(超一流)→幻金(オリハルコン)級(英雄)といった

八つのランクに分けており、シルバー級は下から四つ目だ。

 このランクまで到達すれば、傭兵としては十分に成功した部類であり、常人が

到達できるランクとしては最上位と言っても過言ではない。

 ここより上のランクに上がる為には、武力、知力、統率力、魔術のいずれか―

―或いはその全てにおいて、常人を上回る才を有している必要がある。


「こっちも問題無いよ」

「「楽勝だぜ!」」


 更に、三人の人間の男女が、アッシュの問いに応える。

 この世界の人間の女性の平均身長を優に超える百九十センチ台の身長に筋肉質

な肉体、三つ編みにした赤毛が特徴的な女性――〝エイミー〟。

 その顔には快活そうな笑みを浮かべ、利き手である右手には、本来女性には到

底似つかわしくない、長大で厳つい半月斧(バルディッシュ)を握っている。

 そんな彼女の後ろには、彼女の弟である二人の男の姿が見える。

 彼らの名は〝ウィズ〟と〝ビーン〟。共に姉と同様の赤毛を短く切り揃え、姉

を上回る身長と筋骨隆々の屈強な肉体を持つ、双子の兄弟だ。

 二人はそれぞれ、自らの武器――ウィズは手甲、ビーンは槍に付いたリザード

ッグの血を掃うと、二人揃ってにかっと笑みを浮かべる。

 彼女達〝エイミー三姉弟〟もブレイメン同様、エアードの傭兵ギルドに所属す

る、それぞれがシルバー級のランクを持った傭兵パーティだ。


 同業者であり、時にはライバルにもなり得る二つの傭兵パーティが、この場に

一緒にいるのは偶然ではない。

 傭兵ギルドから同時に同じ内容の依頼を受け、合同で事に当たっている為だ。

 その依頼の内容とは『最近、死神の森の様子がおかしく、様々な異変が起きて

いるらしいので、調査に向かってほしい』というものだった。

 アッシュ達がギルドから聞いた話では、ふた月ほど前から、普段は滅多に森か

ら出てくる事の無かった魔物達が、死神の森の周辺にある村や町の近くに姿を見

せるようになったり、森の側端――外から入ってすぐの浅い地域に、それまで目

撃例の無かった強大な魔物が現れたりするといった異変が、あちこちで起こって

いるらしい。


 ひっきりなしに寄せられるようになった数々の異常事態の報告を受け、アスト

ルやエアードといった、死神の森の周辺に存在する街の傭兵ギルドは、それぞれ

所属する傭兵の中から信用できる腕利きパーティを何組か招集。死神の森、及び

その周辺の調査を依頼した。

 ブレイメンとエイミー三姉弟も招集された傭兵達の中に含まれており、両パー

ティは森の側端に当たる地域の一部――そこに出没する魔物の分布を、合同で再

調査する事になったという訳である。


「今のところ、これといって異常は無いな」

「うむ……」

「そうですね」

子鬼(ゴブリン)共にリザードッグ……この辺りに出る魔物としては妥当だもんね」


 森の端を南東方面に向かう形で進む一行。

 周囲を警戒しつつ、その先頭を進んでいたアッシュの呟きに、他のメンバーも

同じ様に周囲に注意を払いつつ同意する。


「お! 見ろよ、ビーン。〝バナラブ〟の木が沢山生えてんぜ。美味そ~!」


 エイミー三姉弟の双子の片割れ――ウィズが、少しばかり離れた場所に生える、

高さ七、八メートル程の木々を指差す。それらの天辺付近には、毒々しい色合い

をした果実が大量に実っている。


「あれの実って、毒があんじゃねぇのか?」

「毒があんのは皮だけ。中は普通に食えるんだよ!」

「あんたら! 油断すんじゃないよ!」

「「へ~~い」」


 殿を務める双子の、ともすれば気の抜けた様に聞こえる返事を聞いても、ブレ

イメンのメンバーや、エイミーが本気で不安を覚える事はない。

 こんな二人ではあるが、数々の修羅場を潜り抜け、このランクまで上り詰めた

実力者であると、皆がちゃんと認めているからだ。

 事実、双子は軽口を叩き合いながらも、常に鋭い目つきで周囲を警戒している。


「――! 待て!」


 突如、先頭を進んでいたアッシュが立ち止まり、言葉と共に簡単なハンドサイ

ンで、他の者達に停止を指示する。

 それを受けた他の六人が、それぞれ周囲に対する警戒のレベルを引き上げ、緊

張を露わにする中、アッシュは静かに前方に向けて耳と意識を集中する。

 そして、数舜の後――


「――何か……デカいのが来る!」


 ――と小さな声で呟き、ハンドサインで今度は身を隠すよう、全員に指示を出

した。

 指示を出したアッシュ自身はもちろん、他の六人もそれに従って速やかに動き、

物陰に身を潜ませる。

 細身のピスカやヘーネと違い、隠れるのが苦手な大柄のドグやエイミー三姉弟

も可能な限り体を丸め、なんとか茂みの中にその身を隠すことに成功した。

 七人の耳に、徐々にズシンッズシンッという重々しい足音が聞こえ始める。


「ピスカ、頼む」


 アッシュが、近くで隠れるピスカに小さな声でそう言うと、ピスカはこくんと

頷き、とある魔術を発動させる。


「《魔力探知(マナ・ディテクション)》」


 《魔力探知(マナ・ディテクション)》――アルルの所持しているスキル【魔力感知】と同様、自らの周

囲に在るモノが宿す魔力を感じ取ることができる。探知系の魔術だ。

 ただ【魔力感知】と違い、発動の度に魔力を消費する上、十分程しか効果が持

続しない。

 効果範囲と精度は使い手の魔術師として力量に依存するが、どれほど優れた魔

術師が使ったとしても、効果範囲は半径五十メートル程が限界である。

 ピスカは探知系の魔術を習熟するに当たっての適性が高かったらしく、現時点

で半径三十メートル以内に存在する物体が持つ魔力の量をかなりの正確さで測る

ことが可能という、シルバー級の傭兵である魔術師とは思えない程の非常に高い

熟練度を誇っている。


 ちなみにこの世界における魔術とは、強大な力を持つ他種族に対抗すべく、古

代の人間や妖精人(エルフ)小人(ハーフリング)山小人(ドワーフ)といった人族が生み出した『魔力を用いた技術

』のことだ。

 自らの魔力を操作して〝(じん)〟を描き、発動のスイッチとなる言葉――魔術名を

唱えることで、様々な超常現象を引き起こす。

 どういった陣を描き、どういった言葉を唱えれば、どんな現象が起きるのか。

遥か昔から多くの人々が試行錯誤を重ね、途方もない年月を掛けて磨き続けてき

た――人族の英知の結晶である。

 その研鑽は、現代もなお続いている。


「――! これはっ!」


 近づいてくる者の魔力を感じ取ることに成功したピスカの額に、一気に冷や汗

が浮かぶ。


「どうした?」

「やばいのが来るわ。たぶん……〝五つ星〟以上……」


 ピスカのその言葉を聞き、他の六人も一斉に額に冷や汗を浮かべる。

 やがて、足音の主がアッシュ達の前に姿を現し、その姿を見た七人は皆一様に

瞠目し、息を吞んだ。

 現れたのは、二メートル半を超える人型の巨体に、河馬を思わせる頭部を持っ

た醜悪な魔物――〝河馬鬼(トロル)〟。

 その左手には頭部の一部が陥没し、既に息絶えている巨大な猪型の魔物――〝

鎚猪(ハンマーボア)〟の後ろ足の一本を握り、その巨体を引きずっている。そして右手には、何

かの骨を材料に作ったのであろう、血に濡れた無骨な棍棒が握られていた。

 七人は皆、緊張で乱れる呼吸を整え、激しく高鳴っていく鼓動を鎮める。

 トロルは、彼ら七人が束になって全力で戦っても、大いに手こずる事は間違い

ない強大な魔物だ。

 トロルの討伐が目的ならまだしも、アッシュ達の今回の仕事は森の調査。もし

も見つかり、襲いかかって来られたなら、戦わずに撤退するのが無難だろう。


 傭兵ギルドでは傭兵にだけでなく魔物達に対しても、その戦闘能力の高さや習

性、凶暴さなどを参考に〝脅威度〟というものを定めている。

 脅威度は低いものから順に――


 一つ星級――一般人の力自慢でも武装していればなんとかできないこともない。

 例・普通の狼、普通の猪、ゴブリン、巨大鼠(ジャイアントラット)動死体(ゾンビ)等々。


 二つ星級――一般人では武装していても対処は極めて困難。

 青銅(ブロンズ)級以上の傭兵ならば、単独で討伐も可能。

 例・普通の虎、普通の獅子、大型の熊、小型粘体(スライム)動骨(スケルトン)等々。


 三つ星級――一般人では対処不可能。素直に傭兵ギルドへご相談を。

 赤銅(カッパー)級以上ならば単独でも、青銅(ブロンズ)級ならば三人以上で討伐可能と言われている。

 例・豚鬼(オーク)、中型スライム、リザードッグ、樹人(トレント)刃牙虎(サーベルタイガー)刃翼隼(エッジファルコン)巨大蛙(ビッグマウス)

穿蜂(バレット)屍食鬼(グール)等々。


 四つ星級――人口百人から二百人程の人族の小さな村を単体で壊滅させうる。

 (シルバー)級以上ならば単独でも、赤銅(カッパー)級ならば三人以上で討伐可能と言われている。

 例・狼鬼(ルガルー)触手土竜(テンタクルモール)牛蛙(ブル・イーター)、ハンマーボア、食獣植物(ビーストイーター)爆破蝶(バースト)翼人(ハーピィ)蜘蛛鬼(アラクネ)幼竜(ベビー)下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)等々。


 五つ星級――人口約五百人程の人族の大きな村を単体で壊滅させ得る。

 (ゴールド)級以上ならば単独でも、(シルバー)級ならば五人以上で討伐可能と言われている。

 例・牛鬼(ミノタウロス)鎚尾獣(ハンマーテール)鬼人(オーガ)角熊(デモンベア)、大型スライム、子竜(キッズ)虎烏(タイガークロウ)鎧虎(メイルタイガー)

切り裂き蟷螂(リッパーマンティス)等々。


 六つ星級――人口千人から五千人くらいまでの人族の小都市を単体で壊滅させ

得る。

 ミスリル級以上ならば単独でも、白金(プラチナ)級ならば三人以上で、(ゴールド)級ならば十人以

上で討伐が可能になると言われている。

 例・丘亀(ヒルタートル)、超大型スライム、若竜(ヤング)下位悪魔(レッサーデーモン)幻影大蛇(ファントムサーペント)蠍獅子(マンティコア)、ヴァンパイア等々。


 七つ星級――人口一万から二万くらいまでの人族の中都市を単体で壊滅させう得

る。

 オリハルコン級ならば単独で、ミスリル級ならば五人以上で討伐可能と言われ

ている。

 例・多頭蛇(ヒュドラ)狂竜(レックス)鰐竜(グランガチ)飛竜(ワイバーン)鷲獅子(グリフォン)巨人(ジャイアント)中位悪魔(ミドルデーモン)等々。


 八つ星級――人口十万人以上の人族の大都市を単体で壊滅させ得る。

 討伐にはオリハルコン級の傭兵に匹敵する実力者が五人以上は必要と言われて

いる。

 例・成竜(アダルト)単眼巨人(サイクロプス)多腕巨人(ヘカトンケイル)死神蟷螂(デスマンティス)死王(リッチー)上位悪魔(アークデーモン)真祖(トゥルーヴァンパイア)等々。


 九つ星級――単体で人族の小国そのものを滅ぼし得る。

 討伐にはミスリル級以上の傭兵に匹敵する実力者が、最低でも五十人は必要に

なるであろうと言われている。

 例・悪魔諸侯(デーモンロード)古代巨人(エルダージャイアント)等々。


 十星(とおぼし)級――単体で人族の大国そのものを滅ぼし得る。

 討伐にはミスリル級以上の傭兵に匹敵する実力者が、最低でも百人は必要にな

るであろうと言われている。

 例・悪魔王、巨人王、老竜(オールド)等々。


 ――といった十の階級に、十星級の更に上に存在する、とある階級一つを加え、

合計十一の階級に分けられている。

 ちなみにトロルは、脅威度五つ星級に設定されている魔物だ。

 もちろん、この脅威度というものは必ずしも正しいというわけではない。例え

ば一口にトロルと言っても、個体によっては六つ星級の戦闘能力を持つトロルも

いるかもしれないし、逆に戦闘が苦手で四つ星級以下の実力しか持たない個体も

存在するだろう。

 ギルドが定める脅威度とは、あくまでその魔物の平均的な戦闘能力の高さを表

したものであり、魔物の強さを判断する為の目安の一つに過ぎない。


 しかし、アッシュ達の前に現れたトロルはピスカの見立てによると、どうやら

しっかりと脅威度五つ星級に値するだけの実力を備えているらしい。

 アッシュ達はジッと息を潜め、トロルが通り過ぎるのを待つ。

 彼我の距離が数メートル程に縮まった――その時。トロルが突然、その足を止

めた。

 トロルはキョロキョロと辺りを見回しつつ、周囲を探る様にスンスンと鼻を動

かし始める。


(……気付かれたか? いや、こっちは風下……匂いでバレる事はないはず……)


 トロルは十数秒程足を止め、辺りの様子を窺っていたものの、結局アッシュ達

の存在には気付かず、再び歩き出す。そしてそのまま、アッシュ達が進んで来た

方向――北西の方角へと去っていった。

 トロルの背中が完全に見えなくなり、足音すらも聞こえなくなった辺りで、よ

うやく七人は潜伏を解いた。


「ふぅ……なんとかやり過ごせたな」

「はぁ~~、ドキドキしたぁ……」

「……こんな所にトロルが出るとは」


 ドグが険しい表情で唸る様に呟く。兜の隙間から覗く、彫りが深く、よく「年

の割には老けて見える」と言われるその顔は、眉間に皺が寄せられることで、よ

り迫力が増している様に見える。

 しかし、それも仕方がない。以前までの死神の森ならば、トロルはもっと奥の

方まで進まなければ出没しない魔物だった。事前にギルドから忠告を受けていた

とはいえ、いきなりそんな怪物と遭遇する不運に見舞われては、表情が険しくな

ってしまうのもやむなしといえるだろう。


「ギルドの言ってた〝異常〟ってのは、どうやら本当だったっぽいね……あんな

バケモン、こんな浅い地域に出てきていい魔物じゃないよ。ったく!」

「アッシュ、どうします?」

「そうだな……」


 ヘーネに問われ、アッシュは片手の握り拳を、自らの下顎に押し当てながら考

えを巡らせ始める。下顎に手を添えるのは、彼が考え事をする際の癖だ。

 ヘーネの質問の意味は分かる。このまま調査を続けるのか否かということだ。

 これから先も別のトロル、もしくはトロルに匹敵するような脅威度の魔物に、

頻繁に遭遇する危険があるなら、早々に調査を切り上げて撤退すべきだろう。

 脅威度五つ星級以上の魔物が複数うろつくような場所をじっくり調査するには、

正直言って今の戦力では力不足だ。

 しかし、トロル一匹と遭遇しただけで「この地域も異常有り」と判断するのも

早計かもしれない、とアッシュは考える。偶々、気紛れなトロルと運悪く出会っ

てしまっただけの可能性も十分にあるのだから。

 もう少し調査を続けよう――アッシュが皆にそう提案しようとした――その瞬

間。

 黒い突風がアッシュ達の間を通り抜けた。


「うおっ!?」

「ぬっ!」

「「きゃっ!?」」

「「ぬおおッッ!?」」


 六人(・・)はその場で思わず踏ん張る。双子に至っては、思い切りひっくり返ってし

まっている。

 不自然な風だった。

 今の今まで、髪や草花を軽く揺らす程度のそよ風しか吹いていなかったという

のに、突如として大の男達をひっくり返すような強風が、一瞬だけ吹き荒れたの

だ。


「な、なんだ? 今の風は?」

「違う……」


 アッシュの言葉を、ピスカが即座に否定する。

 そう、ピスカだけは気付いていたのだ。《魔力探知(マナ・ディテクション)》を発動させていたピスカ

だけは。

 今、自分達の間を通り抜けたモノが単なる風ではないという事に。


「今のは風じゃない! 今のは――」

「「姉ちゃんっ!?」」


 ピスカの言葉を遮るように、ウィズとビーンが声を上げる。

 二人は揃って困惑の表情を浮かべながら辺りを見回し、何度も「姉ちゃんっ!

」と叫び続けている。

 理由は、ブレイメンのメンバーにもすぐに分かった。

 いないのだ。双子の姉が。

 ついさっきまで、二人の傍に立っていた筈のエイミーが、忽然と姿を消してい

る。


「姉ちゃんっ!!」

「どこだっ!?」


 ドチャッ!


 二人の叫びに返答するかの様に、上空からそれなりの大きさを持った何かが、

双子のすぐ近くに落ちてきた。

 双子を含めた六人の視線は、自然とそれに誘導される。そして、それを見た六

人は同時に息を呑んだ。

 上空から落下してきたそれは――頭がまるで握り潰されたかの様にひしゃげた、

エイミーの死体だった。

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