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最悪のアライバル 1

「う……ん……」



 気がつけば、悠は地面で寝ていた。



 意識が混濁していて、物事の前後をはっきりと覚えていない。



 酒でも飲んだか?と疑うも、そのような事実は決してないとそれを否定する。



 そもそも、何故自分は地面で寝ているのか。



 冷静になってこれまでのことを思い返す。



「……そうか、俺」



 悠は上半身を起こし、辺りの景色を見回した。



 そこは広大な大地。



 あまりに非現実的に綺麗な景色、澄んだ空気、そして遠くに見える大きな城。



 これまでの記憶と合わせて思い出すと、ここは俗にいう異世界なのだと改めて再認識させられる。



 自分はどのくらい寝ていたのだろうか。



 クラックを通り抜けてたどり着いたのであろう敵地でなんと危うい行動をしていたのか、と自分の悠長さを嘆いた。



 しかし、遅れたぶんは今からカバーすれば良い。



 悠は懐からメモリデバイスを取り出し、沈希へ通信を送ろうとした――のだが。



「……嘘だろ?」



 メモリデバイスはあった。



 しかし、しかしながら。



 そこに、いつも懐に入れているはずのインパクションとグリムフィスト、そして持ってきたはずのバレル装備とアタッシュケースがない。



 つまり、丸腰である。



 悠の頬に冷や汗が垂れた。



 まずい。まずすぎる。



 これでは、世界を救うどころか、その辺の動物にすら太刀打ちできず死んでしまう。



 悠は焦って周りを見渡した。



 バレルは割と大型のものが多いが、その影すら見えない。



 ……これはまずい。



 異世界攻略は、一番最初からして破綻しそうだった。



 しかも、ミグレイトバレルがないとなると、万が一クラックを発見しても向こうに帰ることすら出来ない。



 つまり、今の悠は知らない土地、知らない世界で孤立してしまったのだ。



「……どうしようか。……とりあえず、メモリデバイスがあっただけでまだマシだ。先生に連絡を取らないと」



 悠は唯一手元にあるメモリデバイスを操作し、沈希へコンタクトを図った。



 これが通じなければ完全に詰みである。



 悠は縋るような気持ちで神へ祈った。



 ――やがて数回のコールの後、デバイスにノイズだらけの映像が流れた。



『あっ、悠さんですか?先生、通じましたよ!』



 その声は悠が期待していた沈希のものではなく、可愛らしい女の子の声だった。



「つきこか。久しぶりだな」



『はい!なかなかお会いする機会がなくて……』



「一応メモリデバイスに意識はインストールしてるんだろ?」



『あれは緊急時しか作動出来ないんですよ。例えば、マスターが発声不可な状況など……』



「そういえばそうだったな」



 悠がつきこと呼んだその少女。



 彼女の正体は沈希が作り出した、人工知能搭載のアンドロイドである。



 何を隠そう、研究室の別室で悠そっくりの動きをしているアンドロイドの正体とは彼女だった。



「けど、今相当緊急なんだ。一応いつでもオンになれるよう待機しておいてくれ」



『わかりました。メモリデバイスの意識を起動しておきます。それでは、先生に代わります』



 メモリデバイスの画面を見ると、端の方に『OK!』と表示された。



 これを押すと、つきこの意識がメモリデバイスで再現することが出来るのだ。



 そうしているうちに沈希が画面に映り、本題に入ることとなった。



『異次元に移動しても通信が通じるとは流石私だ。さぁ斎賀君。君が旅立ってからこちらでは一日が経過したわけだけど、様子はどうだい?ああ、こちらは大丈夫だ。掃討は完了したよ』



「……そんなに経ってたんですか。俺は今目が覚めました。多分、そんなに時間は経ってません」



『そうか。それで、緊急事態とはなんだい?』



「……それが、インパクションとグリムフィスト、それとバレルが一つもありません」



『……ジョークかい?早速異世界ジョークを身につけるとは君もやるじゃないか。ははは。これで帰ってきたら君もモテモテだ』



「……すみません。冗談じゃありません」



『……だろうね。まずいよ斎賀君』



 悠と沈希は同時にため息をつき、表情に落胆を見せた。



 それも当然である。



 なんといったって、元の世界の最大戦力と、この世界の問題を解決するための力が同時に失われたのである。



 しかも、帰還の目処も立たない。



 はっきり言って絶望しかなかった。



『とりあえず当面の目標はシステムデッドノートの回収だ。それまで隠密行動したまえよ。それと、不安定な通信が辛うじて繋がっているのは、こちらがそちらの負担をかなりカバーしているからだ。あまり長時間通信を行うと、こちらの設備がオーバーヒートして使い物にならなくなる。これからは通信は必要最低限にまで抑えてくれ。メモリデバイスのシャープレイも、充電可能とはいえ無限ではないしな』



 そう言われてはっとした。



 唯一元の世界と繋がれるのは、このメモリデバイスしかない。



 これがなくなると、悠は本当に元の世界と繋がる手段をなくしてしまうのだ。



 これだけは死守せねばならない。



 悠はそれだけを念頭に置いて話を続けた。



「とりあえず、隠れ家を探します。そちらも気をつけて」



『ああ。そちらのサポートはつきこに任せる。新装備を充実させておくから、君も気をつけたまえ』



「はい、わかりました」

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