デッドノート リスタート 2
「……ナンダあれは」
ちょうど、悠を視認出来る距離まで接近していたゴブリンが、デッドノートの姿を見て首をかしげた。
バケモノの目をもってしても異質。そう映るようだった。
『……お前らも言葉、通じるんだな』
悠は先頭のゴブリンに、挑発するかのような声色で話しかけた。
「ギギッ、だからナンダお前は。邪魔だ、どけ」
ゴブリンは目の前の異物に耳を貸すことなく、その脇を通り過ぎようとした。
――その瞬間、悠は大腿装甲をがちゃりと開き、そこに格納されてあるコンバットナイフを取り出し、ゴブリンの頭を抉った。
「ギッ」と短い断末魔をあげ、ゴブリンは血に濡れて惨たらしく絶命した。
まるで、スイカにナイフを入れたかのような、軽い感覚だった。
そのまま握力で破壊衝動の赴くままに頭蓋を握り潰し、死体を打ち捨てる。
「コ、コイツ――!」
その一連の流れ見たゴブリン達は、目の前の物体が敵だということを判断し、即座に排除行動を開始した。
目の前には二千もの魔物。
それらが一斉に襲ってきたというのに、悠の頭は極めて冷静な状態を保っていた。
寧ろ死地に赴くほどその思考は研ぎ澄まされていき、気味が悪いほどに沈着している。
人間を粘土を裂くかのように殺すゴブリン達は無考に飛び込んできたが、今更意に介すべきことではない。
悠はゆらり、と余裕を感じさせる緩い動きでメインカメラから一番近くのゴブリンを視認すると、思い切り拳を振り上げ、顔面を殴り頬骨を砕いた。
彼らが粘土を裂くように人を殺すならば、デッドノートを使用している悠はクッキーを潰すように軽々と命を終わらせる。
悠は手首をスナップさせ、付着した血液を払った。
『さぁ、こいよ。まだまだ足りないんだよ。お前らだってそうだろ?沢山人を殺すためにここまできたんだろ?覚悟は出来てんだろ?俺と戦おうぜ!』
啖呵を切ると、腕部に格納してあるカートリッジを一発撃発し、身の丈の三倍ほどの巨躯を持つトロールに急速接近。
音速にも近い速度で繰り出されるパンチはトロールの肉体を貫通、そして腕部からシャープレイを注ぎ込みトロールを内部から破裂させた。
真っ赤な血と肉片の雨が降り、同時にシャープレイの残滓が空気中に散布される。血の赤とシャープレイの青が混じり合う醜い芸術。
悠は使用済みカートリッジを排出し、その後すぐに弾倉にロックをかけた。
確かにカートリッジの撃発による瞬間的な火力向上は眼を見張るものがあるが、この世界では弾の補充をすることが出来ない。
数に制限がある以上、敵に通用することを確認出来たらもうこれ以上使う必要はない。
然るべき時に、然るべき相手に使うのだ。
悠は再びナイフを構え、魔物たちと対峙する。
波打つように迫り来る魔物たちに対して単騎の悠だが、魔物たちは悠が張った防衛ラインを一センチとて越えることが出来ず、その場で屍へと変わっていく。
すり抜けようものならスラスターを噴射しすぐさま接近、最低でも蹴り飛ばし一歩たりともリィン達に近づけさせないよう尽力する。
しかし、いくら悠がこの世ならざる機動力を有していたとしても、限度というものはある。
次第にゴブリン達は学習を重ね、デッドノートを破壊することを眼中に入れずに、いかに躱して侵攻し、拠点の破壊をするかという方向へと変わっていった。
『ちっ……流石にナイフ一本じゃ限界がある』
魔物達は、トロールをまとめてけしかけ時間を稼いでいる間に全速力で砦跡へと向かっていく。
やがて悠の敷いた防衛ラインは決壊し、大勢の魔物達が漏れ出していく。
『しまっ……!』
悠は全身を走るシャープレイをオーバーロードし、溢れたエネルギーで目の前のトロール達を吹き飛ばした。
オーバーロードによるシャープレイの暴発を意図的に行うと、シャープレイ残量を大きく減らす上にシステムに負担をかけるために使用したくなかったのだが、そうも言っていられない状況に追い込まれている。
せめて一つ。
せめて一つだけ、追加装備が欲しかった。
本来多人数対個人を想定していないデッドノート単体では、そもそも敵戦力の殲滅は困難なのだ。
その不足分を追加バレルで補っているのだが、今はそれが一つもない。
悠は歯噛みし、自身の失態を呪った。
――が、これまでそっぽを向き続けてきた運命の女神は、ここにきて初めて悠に微笑んだようだった。
その時、デッドノートのメインカメラの端に、ある一体のゴーレムを捉えた。
いや、それがゴーレムなのかは実態は明らかではなく、悠の頭の中に散分する知識を用いた結果、それがゴーレムと呼ぶに値すると判断しただけなのだが。
ここまできて、まだゴーレムなどという兵器を投入してくるのか、と辟易した悠だがその、瓦礫やらの無機物を取り込んで形成されているのであろうゴーレムボディの中に、デッドノートの追加装備である、キャノンバレルが紛れ込んでいたのだ。




