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姫はまだ何も分かっていないのです。分かっていないから、今は強情になっているだけです。あと数年も経てば分別も芽生えましょう。ですから、どうか姫、今はつらい気持ちが溢れているでしょうが、耐えてください。
耐えろだと? それは、お前らが私の気持ちなど少しも考えていないからそのようなことが言えるのだ。耐えて一体何になる? 誰のためだ? 少なくとも私のためではない。では、あれの、ためか? 違う。違う。すべて、お前らのためではないか。
いいえ、姫、違います。それは思い違い、というもの。私たちのために、姫に耐えて欲しいと思っているのではありません。私たちは、それほどまでに私利私欲の塊ではありません。すべてはこの国の、いいえ、そしてそれが姫のためであると分かっているからなのです。どうか分かって下さい。
分からぬ、分からぬ。あれのことが頭から離れぬのだ。もしもこれ以上お前たちが私に耐えろというのなら、私はこんな身分捨ててやる。そうすればいいのだろう。それがお前らの望みなのだろう。
いいえ、違います、姫。私たちは姫を愛しています。この気持ちに偽りはありません。
うるさい、もう聞かぬ。
川のせせらぎが、柔らかな音を奏でている。その半ば、大きな岩の上に、姫は立つ。岩に当たる川の流れが、時に高く飛び、時に避けるように、川の流れをゆがめている。もしもあの人のことを忘れろというのが、国の、そして本当に姫にとって必要なことなのだとしたら、それはどういう意味なのだろう。姫とて、まだ分別がないと言われていたが、それが分からないほど幼いわけではない。城の中ではまだ幼子を演じていなければならない。けれど、今のように城から飛び出してしまえば、充分に大人である。そうでなければ、あの人と出会うこともなかったであろう。
それでは、どうすればいいと?
いっそのこと、この川に身を任せてしまえば、すべてを忘れてしまえるかもしれない。忘れてしまえば、こんなにも苦しむことはないのだから。
その思いが、姫の足を前へと向ける。
岩から外れた足は空を泳ぎ、傾いた体はそのまま川へと落ちる。
その瞬間に姫は、後悔する。
忘れてしまえば、あの人との楽しかった日々は失われてしまう。あの日々が、まるで走馬灯のように。わずかな間にすべてが頭の中を駆け巡る。
高い水しぶきが上がった瞬間に、川の岸辺に城の兵士らが駆けつける。口々に何かを叫び、あるものは急いで川へと身を預ける。
姫が意識を取り戻したのは、それから幾日か経ってから。
心配そうな乳母と見覚えのある従者たち。その顔が瞬間的に明るくなる。なぜ、彼らはそんな顔をしているのだろう?
姫、お体は大丈夫ですか?
だから何でもないといっておるだろう、分からぬ奴だな。私はお前らに心配をかけるようなことは一切しないよ。それに、お前らが言う話が本当だとはとても思えぬ。私がもう何日も寝ていただと?
はい、そうです。姫は朝早くに城を抜け出して、ほら、ここからも見えるあの川へと遊びに出かけまして。
一体何のために私がそんなところへ行かなければならないのだ。
それは、私たちもいぶかしんでいるところ。
そうであろう。だから、そんなことはなかった。それでいいではないか。私はまだまだ幼子。ここで学ばねばならないことが千とある。
そうでございますね。とにかく、姫が元気になられたことをまず祝わねばなりません。
そんな必要などない。
それが幸だったのか、不幸だったのか。
姫から抜け落ちた記憶のせいで、この国は、この二年の後に滅んでしまう。




