↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第八章 レテの川に身を寄せて
PR
55/56

 6

 モニター活動は、その日で中止となった。また、落ち着いたら再び募集をかけるとのことだったが、今は、もう十分だ。笠倉岬は、日比野にトランクを預け、島の中央の道を北東へ、桟橋のある場所に向かって歩いていた。

 前には芹沢菫と日達瑠璃が昔話をしているのか、ときどき声をあげて笑っている。

 芹沢菫が追っているのは、もしかしたら、あの事件と関係があるのかもしれない。けれど、まったく関係がないかもしれない。留学先で起きた、思い出したくない、あの事件。ようやく忘れかけていたというのに、菫の目を見ていたら、頭をよぎる。いくつかのキーワード。

 岬の左手首がひどく疼く。私を、殺して……

 高揚を、体が求めている。

 そうだ。

 結局日比野とは一度も……

 ちらと後ろを振り返ると、日比野はこの旅行の前に岬が揃えてあげた服を、だらしなく着ている。律儀だけど、無駄な演技をする。そんな事をしても、岬には無駄だというのに、たぶん、それはきっと日比野も分かっていることだろう。

 岬はペースをあげると、菫の隣にならんだ。スクエアネックの白のカットソーに、色っぽい鎖骨が見え隠れしている。これで、岬よりも歳が低いなんて、ありえない。

「あの、船までに、少し、相談したいことがあるんですけど」

「日比野のことかしら?」

「あ、いえ……」

「あの方はかなり能力があると思いますわ、隠すのも上手ですし、ぱっと見ただけではわかりません。ですが、そのせいもあるのかしら、あの方は奥手。押しの一手で落とせると思いますわ」

「いえ、ちが」

「それに、私の見立てによると、あの人に家内はありませんわ。それよりも仕事を優先するでしょうから。それでも、というのでしたら、私は止めません。応援しますわ」

「ですから、違います!」

 少し声を強めて言う。

「あの、あなたが追ってる相手って」

「……それ以上口に出してはいけませんわ。あなたにとっても、辛い思い出なのでしょう?」

 それまで笑っていた菫の瞳が、一瞬だけ表情を失う。その瞬間、岬の体が凍りつく。

「必ず捕まえます。ですから、あなたは、今の生活を大事にしてください」

「ありがとう、ございます」

 岬は、ただそれだけしか答えることができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。