6
モニター活動は、その日で中止となった。また、落ち着いたら再び募集をかけるとのことだったが、今は、もう十分だ。笠倉岬は、日比野にトランクを預け、島の中央の道を北東へ、桟橋のある場所に向かって歩いていた。
前には芹沢菫と日達瑠璃が昔話をしているのか、ときどき声をあげて笑っている。
芹沢菫が追っているのは、もしかしたら、あの事件と関係があるのかもしれない。けれど、まったく関係がないかもしれない。留学先で起きた、思い出したくない、あの事件。ようやく忘れかけていたというのに、菫の目を見ていたら、頭をよぎる。いくつかのキーワード。
岬の左手首がひどく疼く。私を、殺して……
高揚を、体が求めている。
そうだ。
結局日比野とは一度も……
ちらと後ろを振り返ると、日比野はこの旅行の前に岬が揃えてあげた服を、だらしなく着ている。律儀だけど、無駄な演技をする。そんな事をしても、岬には無駄だというのに、たぶん、それはきっと日比野も分かっていることだろう。
岬はペースをあげると、菫の隣にならんだ。スクエアネックの白のカットソーに、色っぽい鎖骨が見え隠れしている。これで、岬よりも歳が低いなんて、ありえない。
「あの、船までに、少し、相談したいことがあるんですけど」
「日比野のことかしら?」
「あ、いえ……」
「あの方はかなり能力があると思いますわ、隠すのも上手ですし、ぱっと見ただけではわかりません。ですが、そのせいもあるのかしら、あの方は奥手。押しの一手で落とせると思いますわ」
「いえ、ちが」
「それに、私の見立てによると、あの人に家内はありませんわ。それよりも仕事を優先するでしょうから。それでも、というのでしたら、私は止めません。応援しますわ」
「ですから、違います!」
少し声を強めて言う。
「あの、あなたが追ってる相手って」
「……それ以上口に出してはいけませんわ。あなたにとっても、辛い思い出なのでしょう?」
それまで笑っていた菫の瞳が、一瞬だけ表情を失う。その瞬間、岬の体が凍りつく。
「必ず捕まえます。ですから、あなたは、今の生活を大事にしてください」
「ありがとう、ございます」
岬は、ただそれだけしか答えることができなかった。




