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プロジェクターからの映像は、3番目のモニターの途中で、きれいに切れた。それ以上必要ないと、誕生日席からテーブル全体を見渡していた芹沢菫がそう言ったからだ。笠倉岬は、自分がモニターしていたときのことを思い出しながら、画面を見ていたが、別に何もおかしなところには気がつかなかった。隣に座っていた日達瑠璃を見るが、彼女も首を捻っている。
一度目のモニターの間のことは、岬も画面を通して見ていた。
「別に、なにもおかしなところはないと思いますが」
「そうかしら?」
芹沢菫は立ち上がると、先ほどまで画面が映っていた壁面へと移動する。
「一度目と二度目のモニターで、私には違和感があります。特に、最初の数分の間に」
映像がパラレルに流れ出す。一度目と二度目のモニターの様子が同時に分かるようにしているようだ。それから菫は、再び画面に注目するようにだけ言い、同じように画面を見た。
「一度目のモニターの最中の千堂さんの様子をよく比べてください。特に、銃で試し打ちをしているシーンです。ついでに映像を、実際のモニターのときに隣の部屋に大きく流していたものに変えてください。一方の被験者の映像です」
岬は、ヘッドマウントディスプレイをして、最初に伊崎園子が画面のどこにもいなかったことを思い出す。それからしばらくして、まるでそこにテレポーテーションでもしてきたかのように、光りながら伊崎園子が頭から現れた。
園子と会話をしていると、一度だけ矢口誠一の声がスピーカーを通して聞こえる。それから、日比野が銃のモデルを褒め、的めがけて撃つ。私もそれを撃ちたいと話し、日比野に支えてもらいながら、的めがけて撃った。それは明後日のほうに飛んで行ったけれど。試し打ちにかかった時間は5分ほどだろうか。私が構えてから撃つまで、結構時間がかかった。
「はい、問題はここです」
画面を止めて、芹沢菫は振り返った。
「どうしても、私は納得ができませんので、説明をお願いします。どうして、あなたではなく、伊崎さんばかりが説明をしているのか」
「秘書だからだ」
「ですが、彼女はそれほど詳しくない。それに、伊崎さんの呼びかけに対して、あなたはなにも答えていない。なぜですか?」
祐次主任は答えない。
「それでは、プログラマーのみなさん。モニターの内容を伊崎さんが説明することは、あらかじめ決められていたことですか?」
「そこまでは、私たちは知りません」
有田百合が、顔を傾けながら答える。
「それを決めるのは主任の仕事ですし、私たちはただプログラムを提供するだけです。ですから、私たちはその様子をみて、疑問を感じることもなかったです」
「結論を言いますと、二番目のモニターのこの時間、あなたはここにいなかった」
「言いがかりだ」
「モニタールームは直接ではなく、画面越しでしか見ることができない。モニタールームでは、笠倉さんも日比野さんも、ヘッドマウントディスプレイをしていた。あなたが、確かにあの部屋にいたという証拠は、これでなくなります。つまり、あなたにはアリバイがなくなる。そして、他の誰にも、アリバイはある」
「まったくの言いがかりだ」
祐次主任は、腕を組んだまま憤慨する。
「だとしたら、プログラムが残っているはずだろう。データで俺の姿をあそこに映し出していたってんならさ」
「あなたは残しておくべきでした」
「ないんだろ、そんなもんで俺を疑うなんて、ふざけるな」
「モニター当日の朝、あなたは、モニター実験が中止になりかねないと思い、あせったはずです。早急にプログラムの修正をするよう、プログラマーに迫った。なぜなら、本来なら起こらないはずの転送のミスが、実際にプログラムを走らせてみると起こったから。あなたは、自分のプログラムを挿入しても、そんなことが起きるはずがないと思っていた。ええ、実際起きるはずはなかったのでしょう」
菫は、ゆっくりと歩きながら、誠一の近くへと来る。
「ですが、あの時挿入されていたのは、あなただけのプログラムだけではなかった。もう一つ、プログラムが挿入されていた」
「ああ、その通りだ」
両手を広げ、誠一が肩をすくめる。
「三番目のモニターのときの、あの、いたずらプログラムです」
「そのプログラムを主に作ったのは彼です。彼は、自分のプログラムを、翌日の昼過ぎに消しています。ですが、その日の夕方、彼のプログラムがまた復活していた。誰かが、無意識に、回復させてしまった」
小さな声で、菫は誠一にどうぞ、と告げる。再び、ディスプレイが壁面に映し出される。
「彼が挿入したプログラムを再現してみました。もし、このプログラムを走らせて、元来の方法で、モニター内容をシミュレートしてみまして、誤差が発生しなかったとしたら、あの時、別のプログラムが挿入されていたという証拠になります」
画面が、密林の様子を映し出す。
「続けますか?」
菫の瞳が、まっすぐ祐次主任をにらみつける。




