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映像も止まり、静かになった部屋に制服を着た警察官が走りこんできた。そのまま警察官は、権藤警部のもとへいき、耳元で何かを告げる。
それに驚いた表情を見せた権藤が立ち上がり、何ぃ、と声を上げる。
「それは、間違いないのか?」
「はい、どう調べましても」
日達瑠璃は、その様子に不安を感じ、隣に座っている久住照好の手を握る。壁際に立ったままの芹沢菫が、どうしたの、と権藤に聞く。
「今、洞穴を調べさせていた警官から報告がありました。ええ、大変残念ながら、洞穴からこの研究施設につながる道はない、とのことです」
「あらそう」
事もなげに菫は続ける。
「でも大丈夫よ。もう彼は伊崎園子の殺害を認めていますから。故意であれ、正当防衛であれ。あとは拷問でもして本人から方法を聞き出せばいいだけだもの」
菫は歩きながら、千堂祐次主任のもとへ移動し、その肩に置く。が、その肩が縦に揺れ、祐次は笑い出す。
「そんなこと、言ったかな、記憶がないな」
「録音してありますわ」
「はん、だったら、言い間違えたのだろう。この施設と洞穴がつながっていなければ、俺には犯行は不可能だな」
「洞穴から研究施設につながっていないだけです。研究施設から洞穴につながっています」
「同じことだろう。洞穴から入れなければ、研究施設からも出られない」
肩に乗せていた手を、菫は離すと、テーブルにこぶしを叩きつけた。
「全然違うよ。あんたが殺ったんだ」
今までと全然違うトーンの声に、室内の空気がピンと張りつめる。
「あれはプログラムを走らせていなければ、機能しない。それだけのことだ。あの体感装置はそれだけのもの。そもそも、あれだけの体感を作り出すのに、部屋全体を動かす必要がない。座っている椅子さえ、動けばいいんだ。部屋が動いているのは、別の理由。あの部屋についている唯一の扉を、別の角度に持っていくためだけの、だ。さらに、それはこの研究施設を作った時から計画されていたこと。くだらん、逢引のための、秘密の抜け道なのだからな」
菫の瞳が、真横から祐次を睨みつける。
「あんた、私が、そんなことさえ気が付いていないとでも思ってんのか?」
祐次は答えない。菫の豹変ぶりに、先ほどまでと打って変わって小さくなっている。菫はすっと背筋を伸ばして立ち上がると、警官に首を捻って笑顔を見せる。
「そういうわけですので、プログラムを走らせながら、部屋の様子を調べてください。椅子だけは、激しく動き回りますので、部屋の中心には近付かないようにしていただいて、ええ、扉のすぐ近くにいれば、数分もすれば、もう一つの、おそらく洞穴から見つかった壁につながるはずですわ。おそらく、その壁自体もカモフラージュがされていて、そこを通ろうとすると、深い穴があいているはずですが、それは、あの部屋が回転するために必要なスペースです」
警官はハッと応え、敬礼をする。そして、そのまま部屋を走って出ていく。
「以上で、この事件のあらましは終了です。おおかた、不倫がばれて、どちらも殺したくなったってところでしょう、私は動機に興味はありません。あとはそちらで取り調べてください」
誕生日席側にいた権藤が、祐次のところへ行き、彼の手に手錠をかける。彼は抵抗することなく立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。
「最後に一つ、確認があります」
ドアの手前まできた祐次を菫が呼びとめる。
「凶器となった銃は、どこで手に入れたのですか?」
「……」
つながれた両手を祐次は上に向け、天井を指さす。
「贈り物だ。ただ、これを使えという指示があっただけだ」
ダンという音とともに、日比野が机を叩きつけた。
「ふざけるな。そんな言い訳が通じると」
「それはいつのことかしら」
日比野の怒声を、菫の透きとおった声がかき消した。
「当日の昼過ぎだったかな」
「ありがとうございます」
「へぇ、疑わないのか」
「彼らは、表の事件しか見ていませんが、私がこの島に来たのは、その指示を出した組織が相手ですから。あなたは、属していなかった?」
「いない。ただ、アドバイスをもらっただけだ」
「誰から?」
「さあ。誰か、何てわかるはずがない。何重にもプロテクトが掛けられていて、俺じゃあ解く気も起きない」
「けれど、それをこの島に持ち込んだ人物がいる」
「おそらく、その中にな」
祐次は一度だけ部屋を振り返った。




