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久住照好は、日達瑠璃を部屋に帰してから応接室を出た。お姉さんぶってついてくると唸っていたが、それは丁重に断った。事態が好転していないことくらい、照好にも分かる。笠倉岬にも言ったが、もしまた事件が起きたのだとしたら、それは伊崎園子が関わっていることだろう。否、そうとしか考えられない。もし他の誰かが犠牲者なのだとしたら、昨日約束した手前もあるし、礼儀正しい彼女ならば、必ず何かしら伝えにくるはずだ。もしかしたら動けない状況かもしれないし、最悪の事態も、想像しておかなければならない。そして、その最悪な事態を、瑠璃に見せるわけにはいかない。
出た先の廊下で左を向くが、昨日に比べると警察の数が少ないように感じる。歩いていくと、その感覚は一層高まる。どこかに、警察が集まっているのだろう。
十字路を照好は右に曲がった。その右手の部屋が、先日夕食を採ったところで、今捜査本部が置かれている。その部屋の奥に、モニタールームがあるわけだけど、照好の興味は今そこではない。そこを無視して、奥のT字の所まで来た。
昨日の違和感……本来なら、園子に案内してもらうつもりだったが、それができないなら、自分で確かめてみるのが早い。照好はそこに手を付いた。
「何だお前、何してんだ?」
左から声を掛けれら、驚いて照好は振り返った。プログラマーの一人だ。名前までは覚えていない。
「えっと、すいません。伊崎さんに、案内してもらおうと思ったんですけど、彼女忙しいみたいでして」
「……」
数秒間、彼は照好を睨む。白衣をきちんと着ていて、その前に付いているポケットに両手を入れている。
「お前、ここが気になるか?」
彼は照好が手を当てていた壁を見た。
「いえ、何といいますか」
「別に責めてるわけじゃない。図面を見たか?」
「図面?」
「見ていなくて、ここが気になるのか。なかなか見所があるな」
「まあ、図面を見ればここが怪しいのは一目瞭然なんだけどな。不自然に空間が空いているから。警察もかぎまわってたみたいだけど、別に隠してるわけじゃない」
「そうなんですか」
予定外の情報が、照好の頭の中の情報をかき乱す。
「昔のな、先日のモニターシステムの、旧式のもんが収められてるんだ。うーん、何と言ったらいいかな。今はヘッドマウントディスプレイやグラスビューワ利用というか、小型化が図られているが、それも最近のことだ。旧式のものは、部屋を一つ丸々利用していたんだな、分かるか?」
照好は頭を捻る。
「まあいい。部屋一つ分が、ここの先に隠されているわけだ。今は主任の部屋からしか通じていない」
「部屋一つ分、ですか?」
「そうだ……といっても、俺の部屋よりも一回り大きいかな。お前らの応接室くらいの大きさだと思えばいい。今後モニターがどうなるか分からないからな。あっちのにも簡単なプログラムを積んであるから、主任に頼めば、遊べると思うぞ」
「プログラムといえば、古川さんたちのモニターのときに、あの気持ち悪い生物を呼び出したのは、プログラムで、ですか」
「……」
再び彼は一呼吸置いてから続ける。
「ああ、そうだ。色々と用途があるだろうが、いわゆるゲームとして普及させるのが手っ取り早いからな。ソフト側が用意するであろう最もグロテスクなものを想定して、わざとプログラムに追加したわけだ。うちの主任じゃぁ、そこまで頭が回っていないだろうからな、必要なときになってまたモニターを集めるなんて、無駄なことだ」
「あなたの独断、ですか?」
「俺の独断だ。だが、勝手じゃあない。佐登留には許可を貰ってるし、百合だって俺が組み込んだプログラムを知っていた。まあ、実際どうなるのかまでは、予想していなかったみたいだけどな。さすがに、ちと、反省はしている。子どもには刺激が強すぎたわけだ」
それから何かを考え込むように、彼は顎に手を当てた。
「まあ、それどころではないわけだが……」
「ありがとうございます」
照好はそういうと、もう一度振り返った。どうも苦手なタイプで、沈黙がつらい。そのまままっすぐ歩き出し、十字路も無視して北に向かった。本来なら、きちんと閉まっているのであろう入り口への扉を抜け、ホールに備えられた階段を上に進む。
南向きの入り口の、ほぼ正面に近い位置に太陽が昇っている。
そこから南側の海の位置を計算する。
「やっぱり、そうだ」
誰にも聞こえないほどの声で、照好はつぶやく。
違和感、疑いは、確信に変わる。




