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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第六章 三日月の浜辺に流れ着く
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 3

 午前11時50分、伊崎園子は見つかった。神名島の南西、三日月状の湾の狭い砂浜に彼女はあった。簡単な検視の結果、死因は水死。が、誰が見ても明らかなほど頭に大きな傷があった。といっても、誤って崖から落ちたほどではない。重い鈍器で叩かれ、意識を失ったまま海に落とされたのだろう。所々肌に傷が残っているが、それは波に揺られて辺りの岩にぶつかったことが原因であろうと推察される。

 犯行現場は、発見場所から遠くないと考えられる。もしかしたら、まさにその場所かもしれない。そして、犯行時間は、昨夜であろうという報告を権藤警部は受けた。つまり、昨夜彼女が戻ってきたというのは誤りだったのだ。いや、そう考えるのは早計か。この研究施設について、権藤が知るところは少ない。入り口は、今階段でつながっているあそこしかないと聞いているが、それが本当なのかどうか。これだけの研究施設なのだ、非常口がないはずがない。例えそれが、一時的なものであれ、外に出られるだけの機能が備えられていればいいのだ。

 それに、そうでなければ数が合わない。

 通常の入り口から出て行った人数と、帰ってきた人数は合致している。それなのに、伊崎園子は外で見つかった。つまり実際は、帰ってきた人数が少ないはずだ。そうでなければ昨夜何者かが一人、この島のこの施設に入り込んだことになる。

 それとも、殺害は昨夜だが、この湾に運び込まれたのはつい先ほど、ということだろうか。それこそ有り得ない。日中の明るい時間に、島の中には警察の人間が多く存在している。それに、朝から伊崎園子が行方不明だとうことを把握していた権藤は、島内の捜索を部下に依頼していたのだから。だからこそ、このタイミングで彼女を見つけることができたのだ。その目をかいくぐり、あの場所に彼女を置き去りにすることなど、できるはずがない。

 否、はずがない、というのは思い込みか。

 可能性はゼロではない。

 どこかから流れ着いた可能性もある。付近から物を落とし、検証してみる必要もあるだろう。だが、まず検証すべきはその可能性ではない。昨夜の、誰がどのタイミングで外に出て、戻ってきたのか、それを明確にすることが先決だ。単純な見落としがあるかもしれない。


 研究施設内に設置した仮の捜査本部に戻った権藤は、部下からの調査の結果に目を通す。まずは、研究施設の詳細、だ。

 今、権藤がいる部屋は、研究施設やや西に位置する。それなりの広さがあり、10人ほどのパーティであっても難なく行うことができる広さがある。日比野はここで夕食を採ったと言っていた。それから、そのすぐ西側に、研究施設の要となる部屋、コンピューターがたくさん置かれていて、モニターの数も多い。そこから、さらに西にある部屋の様子を、モニターを通して見ることができる。その西の部屋は、地下二階の場所にあり、天井が抜かれていて非常に広いスペースだ。権藤がいる部屋よりも二周りほど大きい。

 権藤がいる部屋を東に出て、北に向かうと十字路がある。そこを北に行くとこの施設の入り口だ。その十字路を西に曲がると、日比野たちが泊まっている部屋が北側にある。まず応接室があり、そこの西から外に出ると、三つの部屋がある。そこに日比野たちが寝泊りしているという。

 十字路を東に曲がると、左右にドアが付いている。ここに勤めている研究員たちの部屋が並んでいる。二部屋分進むと、直進と右、つまり東と南に進める廊下があり、同じようなブロックが続いている。

 最初の、権藤がいる部屋をでて南に進むと、すぐにT字にぶつかる。そこを東に進めば、やはり同じように研究員のための部屋が続いている。一つのブロックに4つの部屋がある。北と南を含めるならば、8つだ。それが東に四ブロック存在している。T字を西に進むと、南側に通常よりも広い部屋が二つあり、そこが千堂主任と副主任の部屋だ。廊下はさらに東に続いていて、地下2階に伸びる階段が付いている。直接研究用の部屋と続いていることが分かっている。

 が、非常口は見当たらない。部下に確認を取り、施設を調べてみたが、それらしいものはない、との答えだった。

 さらに部下からの報告によると、この部屋を出て南にいったT字の先に、図面上不自然な空間がある。そして、そこが空洞であることは、外から壁を打ったときの音で分かる。現在はその空間が外につながっていないかを調べているところ、とのことだ。


 また、昨晩の行動を各人に確認したところ、外に出た重要な人間は4人いた。まずは浜嶋佐登留。23時ごろに研究施設から出て、北の海岸にいたと証言している。1時間ほどで元来た道を戻った、とのことだ。その間に、誰かが海岸線を通った気がすると、本人は言っている。

 同じく、23時ごろに千堂祐次が外に出た。気分が落ち着かない、ということで習慣にしている散歩に行ってくると北原朋彦に相談したとのことで、北原もその必要があると判断した。一緒に行こうかと言ったが、一人になりたいという返事だった。事後のショックはあるだろうが、一日の様子から、自殺のようなことはしないだろうと判断し、許可を出した。千堂は、海岸に誰かいるとは気がつかなかったと言っている。暗くて見えなかっただけかもしれないが。それから帰ってきたのが1時30分くらいだったか、北原はそれを確認してから、自分の部屋に戻った。

 古川順也が真夜中の少し前に外に出た。どうしても張子岩の遺跡に気になるところがあり、確認をしに行ったという。北の海岸を歩いているとき、誰かが波打ち際にいたことを、古川は覚えている。暗くて誰かまでは分からなかったが、人影がちらと見え、見間違いじゃないか、と確認したから、誰かがいたのは確かなようだ。張子岩で調べものをしたあとで、古川はストーンサークル側へと向かった。ストーンサークルを越えた細い道で、有田百合とすれ違っている。挨拶をしたが、返事は返ってこなかった。部屋に戻ったのは3時少し手前だった。

 有田百合はプログラムのチェックが終わった12時半ごろに施設を出た。反時計回りの道を進み、途中の暗がりで誰かとすれ違った。暗くて相手が誰か分からなかったので、いつものように何も交わすことなくすれ違った。北の海岸には誰もいなかったと思うと彼女は答えた。

 入り口にいた警察は、合計で9名が研究施設の出入りをしたと報告をした。23時以降に絞ると、6人だ。残念ながら、警備に当たっていた警察は、ここの人間関係をきちんと把握しているものではなかったため、誰が出て行ったのかまでは分からなかった、という。それでも、23時に二人の男性が、ほぼ同じタイミングに外に出て行き、それから次は女性が続いた。23時50分ごろに、別の男性が外に行き、真夜中を少し回って、一人男性が戻ってきた。0時30分過ぎにまた女性が一人外へ行った。1時半に男性、2時半に女性、3時前に男性、3時半ごろに女性が戻ってきた。6時ごろに一人男性が外へ行き、それから7時を過ぎると、警察を加え、何人もの人が出入りをしていた。

 以上を踏まえると、伊崎園子は23時過ぎに研究施設を出て、3時半に戻ってきたことになる。

 が……それは、おかしい……。

 実際伊崎園子が戻ってきていないとすると、3時半に戻ってきた女性が誰なのか。入り口の警察は、「男性」か「女性」かの判断は、見た感じの直感でしかないと正直に言っている。もし、男装や女装をしていれば、それを見分けることは出来ないだろう、と。

 それに、これでは伊崎園子は4時間半も時間を費やしていることになる。途中どこか人目が付かない場所で待機しなければ、そのような時間を費やす必要もない。普通であれば1時ごろに女性が帰って来なければおかしい。

 それに、もう一つ……。


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