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部屋を出たところで、久住照好はその足を止めた。後ろから付いてきていた日達瑠璃が背中にぶつかる。
「もう、何?」
それには答えず、照好は右を見る。方角的に南、だ。後方の西の部屋が今までいた少し広い部屋。その奥にモニタールームが広がる。通常ならここを左、つまり北に向かい、最初の十字を西に曲がれば、右手側に自分たちが泊まっているスペースになる。十字のところをまっすぐ進めば、入り口だ。そこの十字を右に行くと何があるか分からないが、おそらく他の研究員が研究をしている個室があるところだろう。では、今いるところから右、つまり南側には何があるのか。こちらもおそらくは居住スペースなのだろうが、程よい先にT字になっている様子が見える。
「もう、後ろが詰まってるんだから、何よ」
「ああ、ごめんごめん」
謝りながら、照好は右手に一歩移動し、日比野重三、笠倉岬、古川順也がそれぞれ北に向かって歩いていくのを見送った。
「どうされました?」
次に出てきた伊崎園子秘書が不思議そうに、照好と瑠璃を見る。
「ああ、いえ……自分の大学での専門は、いわゆる構造を主眼としています。プログラムにせよ、建築にせよ、あるいは絵画にせよ、ですが。構造についての研究をしていまして、ですから、この研究施設の構造に、少し興味があるんです」
瑠璃と二人でいる時は決して使わないような丁寧な言葉を織り交ぜて頭を下げる。
「あら、そうなんですか? それでしたら、明日ここをご案内いたしますよ。モニター自体、もう少し落ち着くまで再開はできそうにないですから……といいましても、それを今から決めるんですけどね」
首をすくめながら園子は続ける。
「そうですね、それでは明日の朝10時に、応接室に向かえにいきます」
「ありがとうございます」
それから照好は、瑠璃を連れて十字路のところまで来る。左に曲がってから、前にすでに他のメンバーがいないことを確認してから、瑠璃に小さく告げる。
「もしかしたら、暗号、解けるかもしれないぞ」
「ええ!」
「しっ、もしかしたら、て話だけどな。うん、もしかしてそうなら、て話だけど、明日、それを確かめて……午後には財宝にまでたどり着けるんじゃないか」
「本当に?」
「だから、もしかしたら、な」
嬉しそうに瑠璃が照好の左腕に無邪気にしがみつく。もちろん、まだ、可能性の段階でしかないし、見当外れかもしれない。けれど、検証してみる価値は充分にある。そして、もしそうだとしたら……あれは、嘘、だということになる。いや、嘘というと御幣があるか。わざとそう見せているのだとしたら、演技だ。どうして、そのようなことが必要なのだろうか。
右手の扉に触れ、自動に扉が開くのを待つ。応接室では、日比野重三と古川順也の二人がテーブルの側で煙草を吸っている。彼は佐根姫の専門だというが、そのせいできっと気がつくことができないのだろう。
「俺たち、先に休みますね。さっき伊崎さんが言ってましたけど、これからモニターをどうするか打ち合わせがあるそうです。せっかく参加したんだから、このまま中止なんてことにならないといいんですけどね」
「そうですね。ですが、千堂主任が動ける状態じゃなさそうですからね。まあ、彼が動けなくなるのは、当然なのでしょうが」
煙草を灰皿に落ち着けながら、日比野が答える。それにあわせるように、順也も煙草の火を消す。
「まあ、私はモニターよりも佐根姫伝説に興味があるから、自由時間が増える分に越したことはないが……」
「古川さんは、さっき、この島について、何か考えがあるようでしたが、もしかして、財宝のありかが分かったんじゃないっすか?」
「まさか。この島に来てすぐに分かるほど簡単な問題ではない。私はもう、何年もこの伝承について調べてきたんだから」
それからいくらか世間話をしてから、瑠璃をつれて応接室を抜ける。そのまま自分たちの部屋に入ると、ソファーに腰を掛ける。
まだ二日目だというのに、体はかなり疲れている。時間はまだ10時にもなっていないというのに、普段なら、これからが本番だ。だけど、新しい環境にあるのだから、ここで無理をすると、1週間体がもたないだろう。
かなり早いけれど、今日はもう休むことにした。




